その頃、ヴァンセリーヌ学園では…。
【アヤカの視点】
「……」
ジェーヌが学園を出てから、私はお昼を中庭のベンチでお昼を済ませた後、図書館で魔法の知識に関する本を読んでいた。
ジェーヌが学園を出ていつものように森の方に向かってから、一人で過ごす時間が増えていた。
私がヴァンセリーヌ学園に入学して直ぐの事だった。
学園の恒例で、寮の部屋は生徒二人が同室と決まっていた。
その時に初めてジェーヌと出会い、私とジェーヌ、二人の学園生活が始まった。
最初はまだ、お互いによく知らない者同士だからか、遠慮がちでぎこちない空気だったけど…。
だけど私が図書館で魔法に関する知識を模索していた時、初めてジェーヌの方から声をかけてくれたのは本当に驚いたなー。
―――二週間前。
その時、ジェーヌは珍しそうに私の手元にある本を覗き込んで、きたんだっけ。
「ふーん…あなた、魔法の歴史に興味があるんだ?」
「ひゃぁ!?」
突然のことに驚いて、私は読んでいた本を慌てて閉じた。
「ジェ、ジェーヌさん。あ、う、うん……」
戸惑いながら答える私に、ジェーヌは腰に手を当てて、にこりと笑った。
その笑顔は、どこか遠慮がちだった私たちの間の壁を、一瞬で取り払ってしまうようだった。
「へぇ~…ねぇ、私、こないだ魔法薬学の授業で面白い本を見つけたんだ。すごく古い本で、前の先輩の魔女達が使っていた薬草のレシピが載ってるんだけど、あなたも興味、ある?」
ジェーヌの言葉に、私の心臓が少しだけ速く脈打った。
今まで一人で黙々と本を読んでいた私にとって、誰かと魔法の知識を共有できるなんて、想像もしていなかったからだ。
「え、あ、う、うん! もしよかったら、今度一緒に見せてくれない?」
初めて自分からジェーヌに積極的に話しかけた。ジェーヌは「ええ、もちろんよ!」と嬉しそうに頷き、私達の間に温かい空気が流れ始めた。
それは、私とジェーヌ、お互いぎこちなかった関係が、友情という新しい形に変わり始めた瞬間だった――。
「はぁ〜〜…」
私は本を読みながらも深い溜め息を吐いた。
(――って、思っていたんだけど…何故かお昼だけは一緒に食べてくれない…)
ジェーヌと一緒にいる時間は授業が終わった、合間の数分間と放課後、そして寮の部屋と決まって限りられている。
だけど私は正直、ジェーヌとお昼時間一緒にお昼を食べたい気持ちもある。
「せっかくお互い、名前で呼び合う様な仲になったのになぁー…」
私がそんな事を考えていると、図書館の静寂が破られた。
私と同じ見習い魔女生徒が慌てて飛び込んで来て、大声で叫んだのだ。
「みんな!窓の外を見て、大変よ!」
その声に、図書館にいた生徒達が一斉に窓に駆け寄る。
私もつられるように窓の外を覗き込むと、信じられない光景が目に飛び込んできた。
森の方角に、見た事もない巨大な生物がいた。
土煙を上げながら「ドスンッ!ドスンッ!」と地響きを立てて彷徨っている。
その姿は、鋼鉄の鱗に覆われ、無数の歪んだ目が光る、異形の巨大生物。
「あれは何よ…」
「え、何あれ…」
生徒達の間から不安げな声が漏れる。
すると、その巨大生物は立ち止まり、森の中心に向かって大きく咆哮した。
その瞬間、森全体の木々が大きく揺れ始める。
私は、その光景を見て、ある事を思い出した。
それは、ジェーヌがいつものように向かって行った、森の方向だった。
(あそこって…まさか、ジェーヌは…!)
私の胸に、激しい不安が込み上げてきた。
いてもたってもいられなくなり、私は図書館を飛び出した。
ジェーヌの事が心配で、いてもたってもいられなかった。