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俺の正体と彼女の名前。

「ちょ、ちょっと……何よ、あれ……あんな巨大な生物、見た事ないわよ!」


彼女が呆然と指さす先には、空に出来た、巨大な亀裂から現れた異形の存在――。



鋼鉄の鱗に覆われた巨体。無数に歪んだ眼が、爛々と光を放っている。


その姿に困惑する彼女の隣で、俺は静かに睨みつけた。


次元の狭間に住まう怪獣、“次元獣”――中でも最も厄介な奴が、よりによって最初にこの世界に姿を現すとは。


「あれは……凶暴次元獣パラデラス…!」


一目でその正体を看破した俺は、思わず声を漏らした。


「あなた、あの巨大生物を知ってるの?」

「ああ、しかも厄介なほどにな。ひとまず、ここからいったん離れるぞ!どこか身を隠す場所を探さないと……!」


俺は焦った声で少女にそう告げた。


彼女は「え? ちょっと待ってよ!」と叫びながらも、俺の後に続こうとする。


「どこか、身を隠す場所に心当たりは無いか…!」

 

俺は走りながら、隣に並んで走っている彼女に身を隠す場所が無いか、聞いてみた。


「えぇ!?ん~~…なら、あそこしか、ないわね」

「あるのか!あるんだな!」

「うっさい!とにかく、私の後について来て。案内するわ!」

「うむ!」


彼女はそう言い、俺の前に先頭に走り、俺はそのまま彼女の背中を追うようについて行った。


    ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「だぁ……はぁ、はぁ……!」

「はぁ、はぁ、はぁ……!」


息を切らし、俺と彼女は木造の建物の中に身を隠した。


古い小さな館のような場所で、埃とカビの匂いが鼻につく。


しかし、外の喧騒はほとんど聞こえず、安堵のため息が漏れた。


「ここ……は?」

俺が尋ねると、彼女は肩で息をしながら答える。


「昔、誰かが住んでいな古い小さな館よ。今は私の隠れ家として使っているわ。」


外から聞こえてくる、遠い地響きのような音が、パラデラスがまだ近くにいる事を物語っていた。


いつここが発見されるか分からない、が…逆に俺自身、見つからない事を祈るしかなかった。


「ありがとう。助かった」


俺が礼を言うと、彼女は少し驚いた表情を浮かべ、すぐに不機嫌そうに顔を背けた。


「べ、別に…///。それより、あの巨大な生物はいったい何なの? どうして、あなたが知ってるのよ!」


その問いかけは、当然の事だった。


俺は深く息を吐き、静かに彼女に語り始めた。


「俺は、こことは別の…()()()()()と言う場所で、あの“次元獣”と戦っていた、戦士の一人だ」

「次元の…狭間…?」

「俺は――こことは違う異なる別世界から来た」


俺は自ら自分の正体を明かした。


それを聞いた、彼女の表情が、驚愕に凍りつく。


「別の世界から来たですって…?」

「ああ。信じられないか?」

「そうね…。今の段階じゃあ、とても信じられないわね」

「そう、か…」


(まぁ、当然だ。今の俺の姿は彼女と同様、同じ人間の姿になっているのだからな…)


「でも、あなたは私でも、ううん…私だけじゃない、恐らく他の人達もあの、見た事もない、巨大生物の存在を知らない。だけど、あなたはあの巨大生物を見た途端、()()()って。一体、何なの?」

「そうだな…まず、そこから説明しよう。“次元獣”とは本来、この場所、強いてはこの世界には干渉しない俺と同じく、次元の狭間の空間に生息する言わば"怪獣"だ」

「か、怪…獣…?」

「ああ、こことは違う別の世界では奴らをそう呼んでいたらしい。だから我々も“次元獣”を"怪獣"と呼んでいる」

「ちょ、ちょっと待って、今あなた()()()()って…もしかして、今いる私達の世界と他にもあるの?それにあなた今、"我々"って」

「ああ、文字通り俺の他にも次元の狭間を守護する勇士達は他にも沢山いる」

「………」


彼女は俺が言っている事にまたも驚愕した表情をする。


「…信じられないって顔だな」


俺はそう言って、自嘲気味に笑った。


彼女は黙ったまま俺の言葉を待っている。


「無理もない。だが、信じてもらわないと困る」


そう言って、俺は彼女に目に見えない、しかし確かに存在している世界の仕組みを語り始めた。


「俺たちが住んでいるのは、一つの世界ではない。無数に存在する、"並行世界"の一つに過ぎない」

「並行…世界…?」

「ああ。そして、俺たちはその並行世界の壁を越えて、それぞれの世界を守る使命を帯びた存在だ」


俺の言葉は、彼女にとってあまりにも突飛なものだっただろう。


しかし、彼女は真剣な眼差しで俺の言葉を追い続けている。


「その"次元獣"は、並行世界の壁を喰い破り、それぞれの世界を喰い荒らす存在だ。奴らは、世界の壁を喰らう事で力を増し、やがては一つの世界を丸ごと飲み込む」


俺はそう説明しながら、チラリと外の窓に目をやった。


地響きは、少しずつ遠ざかっている。


パラデラスは、まだこの世界をさまよっているようだ。


「じゃあ…あなたは、その次元獣を倒すために、この世界に…?」


彼女の質問は、的を得ていた。


「いや…残念だが、俺は次元の狭間で次元獣の軍勢を相手に戦っている最中、次元獣の不意を突かれ、落ちた先でたまたま次元のポータルが出現し、俺はそのまま、落下した状態のままポータルの中へ、そしてこの世界に来た訳なんだが…」


俺は言葉を詰まらせた。


「どうしたのよ?」


彼女の問いかけに、俺は歯がゆい思いを抱きながら、正直に答えた。


「次元の狭間から離れ、この世界に来てから俺の持つ力が…」


俺の言葉に、彼女の表情が訝しげになる。

「力がどうしたのよ?」


「…力が、本来の力が全く出せない。つまり、今は、お前と同じただの“人間”だ」


俺はこの、自分の仮初(かりそめ)の人間の姿を池で映っていた、自分の姿を思い出し、「はぁ…」と深い溜め息を吐いた。


「とりあえず、まず先にあなたには着替える必要があるわ」


彼女はそう言うと、館の奥へと去っていった。


数分後、彼女は両手に衣類を抱えて戻ってくる。


「ほら、これを着て。流石にそんな格好で出歩くのはまずいから。ひとまず、ね」


彼女が差し出したのは、少し年季の入ったTシャツとジーンズだった。


サイズの合うものはなさそうだが、まあ、今の裸姿のままよりはマシだろう。


俺はそれを受け取ると、彼女は「じゃあ、着替え終わったら、声をかけてちょうだい」と言い、一旦部屋を出てドアを閉めた。


着替えを終え、ドア越しで「着替え終わった」と伝え、再び部屋に戻ってきた彼女は、俺が座っていた場所の向かいに腰を下ろした。


「で?どうするのよ?あいつ、この世界を喰い荒らすんでしょ?このままじゃ、私がいる世界が…」


不安と焦燥に満ちた彼女の言葉に、俺は静かに答える。


「俺に力が戻れば、あいつを倒す事はできる。だが…」

「だが、何よ?」


俺はためらいながらも、正直に告げる。


「どうすれば力が戻るのか、全く見当がつかない。今までこんな経験はなかった」


彼女は何も言わず、ただ俺をじっと見つめている。


その視線に、俺は自分の不甲斐なさを感じずにはいられなかった。


「このままじゃ、俺はただの足手まといだ。だが、この世界を"次元獣“の好きにはさせない。この世界を破壊されるくらいなら、俺は…」


その時、彼女が突然口を開いた。


「…あなたの話、信じるわ」


俺は驚いて彼女を見た。


「あの巨大な生物が空から現れた時点で、もう何が起きてもおかしくないって思ったから。それに…」 


彼女は少し照れたように視線をそらし、小さな声で続けた。


「…あなたの目が、嘘をついてるようには見えなかったから」


その言葉に、俺の胸に温かいものが広がるのを感じた。


「ありがとう…」

「お礼なんていらないわ。それより、私にできることはないの?力がないなら、ないなりに、やれる事はあるはずでしょ?」


彼女の言葉に、俺は一筋の光を見た気がした。


そうだ、この世界を救う方法は、俺の力だけではない。


彼女の力を借りる必要がある。


「ああ…。まずは、この館を拠点にしよう。そして、この世界について、俺はもっと知る必要がある。この世界にいる間、あんたの力を借りたい」


俺がそう言うと、彼女は力強く頷いた。


「任せて。私の隠れ家、有効活用してあげる。でも、あなたは私の隠れ家を借りてるんだから、私の言う事を聞くこと!いいわね?」


彼女の言葉に、俺は思わず笑みがこぼれた。


「ああ。分かった」


俺たちは互いに顔を見合わせ、静かに頷き合った。


次元獣という未曽有の危機に直面した今、俺は偶然出会った、彼女と――。


「―そう言えば」


俺はふと、肝心な事を聞きそびれていた。


「君の名前、まだ、聞いていなかったな」

「あ〜…そう言えばそうだったわね」 


彼女も俺に言われて気づき、改めて彼女は面と向かい。


「私の名前はジェーヌ」

「ジェーヌ。良い名前だな」

「ありがとう」


彼女の名前はジェーヌ――。


その瞬間、互いの名前を呼び合った事で、俺とジェーヌの間に確かな絆が生まれたような気がした。













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