表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

森で遭遇した男の人

ゾーンゼロスが一人の少女と森で遭遇する数分前――。


うっそうと茂る深い森の奥、静かに佇むヴァンセリーヌ学園。


魔女の素質を持つ少女だけが通う、魔女育成学園世界で四つうちの一つがヴァンセリーヌ学園。


その廊下を、一人の少女が足早に歩いていた。


「――ジェーヌ!」


名を呼ばれた私はぴたりと歩みを止め、ゆっくりと振り返った。


「なに、アヤカ」


そこに立っていたのは、同じ寮の自室である、同居人のアヤカだった。


童顔で、くるりと大きな垂れ目と澄んだ青い瞳が印象的だ。


黒髪のショートヘアには、いつもと変わらず可愛らしい花の髪飾りが揺れている。


学園指定の漆黒の制服に、ひらひらとしたフリルのスカート。


すらりと伸びた足には黒のストッキングがよく似合い、彼女の可憐さを際立たせていた。


アヤカは、私の顔を覗き込むように小首を傾げる。


「お昼、一緒に食べない?」 


誘いに私は一瞬、眉をひそめた。


「遠慮しておくわ。私、行く所があるから」


そう言い放ち、私はくるりと踵を返す。


「また、森で魔法の練習……しに行くの?」


アヤカの問いが、背後から追ってくる。


一歩、二歩と踏み出した所で、私は再び足を止めた。


振り返りはしない。


「ええ……そうよ」


わずかな沈黙の後、私は静かに答える。


「……そう。うん、わかった。気をつけてね」

「……ええ」


短い返事を残し、私は振り返る事なく、再び廊下を歩き出した。


ヴァンセリーヌ学園の正門を抜け、私は迷いなく森へと向かった。


   ◆    ◆    ◆


森の中へ深く進んだところで、丁度良い練習場所を見つけた。


「ここなら、ちょうど良いわね」


私は良い練習場所を見つけるなり、すぐに杖を構え、目の前に立つ一本の太い木と向き合った。


「すぅー、はぁー……」


私はゆっくりと目を閉じ、深く息を吸い込み、そして吐き出した。


意識を研ぎ澄ませ、体中の魔力を感覚で捉える。


「……!」


そして私は大きく体を右に捻るようにし、そして勢いよく、握りしめている杖ごと腕を真っ直ぐに突きつけ、一本の太い木に向けて。


「ファイアーボール!」


――ゴオォォォッ!


私の叫びと同時に、杖の先から淡い灼熱の炎の塊が勢いよく飛び出した。


それは空気すら焦がすような熱を放ち、一瞬で太い木へと吸い込まれていく。


――ドォンッ!


轟音と共に、淡い炎の球が木に激突した。


衝撃で周囲の葉が震え、熱波が顔を撫でる。


命中した箇所からは、焦げ付くような匂いと白い煙が立ち上っていた。木の幹は黒く焼け焦げ、表面がささくれ立っている。


「……よし」


私はゆっくりと杖を下ろし、荒い息を整えた。


額にはうっすらと汗が滲んでいる。


まだまだ完璧には程遠い。


威力は申し分ないが、狙いはもう少し精度を上げたいところだ。


私はもう一度、深く呼吸をした。


次こそは、もっと完璧な一撃を。


そう心に誓い、再び杖を構え直した。


森の奥には、まだ私の魔力練成につき合ってくれる木がいくらでもあった。


それから私は何度も一本の太い木に向けてファイアーボールを放った。


ファイアーボールの練習をひとしきり終えると、私は別の魔法の練習も始めた。


よし!次は雷魔法"のライトニング"だ。


「ライトニング!」


――バチィッ! ズザザザッ!


杖の先から淡い光が放たれ、狙い違わず太い木の幹に直撃する。


小さな亀裂が走り、焦げ付いたような跡が残った。


――その時。


(……!)


私は誰かに見られているような、そんな気配を察知した、私は反射的に振り返り、辺り一面を左右見渡しながら。


「……!そこにいるのは誰っ!」


私がそう声をあげると茂みから姿を現した。


いつでも攻撃できるように、私は直ぐに杖を構えた。


「悪い、驚かせるつもりはなかった」


(…男の人?)


茂みの中から現れたのは、歳は二十歳ぐらいの若い青年でしかも――。


「ちょ…ッ!?///」


私は咄嗟に両眼を左手で覆い隠した。


「あ、あなた…!何で裸なのよ!?///」

「…む?」


私の指摘に、彼はなぜか首を傾げる。


「ああ、すまない。眼が覚めたら、この姿のままだったんだ」


一瞬、「どういうこと?」と問い詰めたくなったが、それよりも先に言うべきことがある。


「と、とりあえず!///その辺の枝とかツタとかで、下半身だけでも隠して!?///」

「ああ、わかった」


若い青年は渋々といった、様子で背を向け、ツタと枝を拾い集め、下半身だけをなんとか覆い隠した。


だが、それでもやはり…うぅ〜…///。


「コホンッ!えーと…まずは質問していい?変質者さん」

「ん?変質者?誰が」

「アンタよ!」

「俺が?失礼な。俺は変質者ではない!」


(いや、その姿で変質者じゃないって否定できないでしょうに!なに、堂々と仁王立ちしてるの!?この人は!?)


「と、とにかく!ここは神聖なる、立派な魔女を目指す、“ヴァンセリーヌ学園”近くの森よ。一般の人はまず入れないはずよ」

「…ん?それはどう言う事だ?」

「あなた…本気で言ってる?」


彼の動きと態度からして、私は彼が本当に状況を理解していないのだと悟った。


怪しい事この上ないが、警戒心よりも困惑が勝ってしまう。


まるで世間知らずの子供が、初めて社会のルールに触れたかのような反応だった。


「もしかして、記憶でも失くしてるの?」

「いや、そんな事はない。現に自分の名前ぐらい覚えているぞ」

「ふーん…。ちなみにあなた、なんて名前なの?」


私はまず、先に彼の名前を知る事から、話を進めようと考えた。


「俺か?俺の名前は――"ゾーンゼロス"だ」

「ゾーン…ゼロス…?変わった名前ね」

「そうか?これでも()()()()()を守護する戦士の名に相応しいと自分自身、気にっているんだがな…」


ゾーンゼロスと名乗る青年は、腕を組みながら顎に手を当て、「むむむ…」と難しそうな表情を浮かべる。


その様子は、まるで世界の存亡に関わる重大な問いに直面しているかのようだ。


(――ん?)


彼の言葉に引っかかりを覚えた私は、思わず問いかけようとした。


「ねえ、あなたさっき――」

「シー…ッ!」


私の声にかぶせるように、彼は険しい表情で人差し指を唇に当てた。


その真剣さに、私は息をのむ。


「な、何?急に」


私が戸惑う中、彼は周囲を警戒するように森を見渡す。


そして今度は、空を見上げ、視線だけを動かし何かを探している。


――ピキッ。


耳元で、ガラスにひびが入るような乾いた音が響いた。


思わず「え…?」と呟き、私も彼と同じように空を見上げる。


――ピキッ、ピキッ、ピキピキピキッ。


「な…何…あれ…?」


私の視線の先、澄み渡る青空に、まるでガラスの破片を散りばめたような亀裂が出現していた。


それは瞬く間に広がり、不気味な模様を描いていく。


――パリーンッ!


ついに、空の亀裂はけたたましい音を立てて砕け散った。


無数の破片がキラキラと光を反射させながら地上へと降り注ぐ。


そして、その破片が散った後には、巨大な空間の亀裂に穴がぽっかりと口を開けていた。


その亀裂の穴から「ギャ"オ"ォ"オ"ォ"オ"オ"ー!」と、世界の理を捻じ曲げるような咆哮が響き渡る。


音の震えが鼓膜を突き破り、全身の細胞を不快に揺らした。


巨大な空間の亀裂の穴から、現実を塗りつぶすかのような影が姿を現す。


それは鋼鉄の鱗に覆われ、無数の歪んだ目が光る、異形の巨大生物だった。























評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ