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見知らぬ世界と人間となった次元勇士

俺が意識を完全に覚醒した後、まず感じたのは、乾いた草の感触だった。


顔を上げれば、見慣れない木々がそよぎ、澄み切った青空がどこまでも広がる。


そこは、先程までいたあの、次元の狭間の戦場とは似ても似つかない、穏やかで美しい世界だった。


しかし、その平和な風景は、逆に俺は内なる混乱を深めるばかりだった。


俺は池の水面に映る自分の顔を凝視した。見慣れないはずのその顔は、紛れもなく「"人間"」の顔だった。


エメラルドのような瞳、真っ直ぐな鼻筋、そして薄く結ばれた唇。


“次元獣”と戦っていた時の俺は、もっと…もっと違う姿をしていたはずだ。


両手で自分の頬を掴む。


そこにあるのは、柔らかく、温かい人間の肌の感触。


――信じられない。


俺は一体どうなってしまったんだ? 次元獣の不意打ちでポータルに落ちた事は理解できる。


だが、なぜ、こんな姿に?池の水面には、不安げな表情を浮かべた男が映っている。


それが今の俺。


この顔に、見覚えはない。


にもかかわらず、どこか懐かしいような、不思議な感覚が胸の内に広がる。


「ここは、どこなんだ…?」


思考がまとまらない。


自分を取り巻く森は静かで、鳥の声だけが響いている。


遠くには、見たことのない植物が茂り、空の色も、どこか違って見える。


もといた、次元の狭間とは明らかに違う。


池から顔を上げ、周囲を見渡す。


情報が、圧倒的に足りない。


自分がなぜ、人間の姿になっているのか。


そして、元いた場所に帰るには一体、どうすればいいのか。


答えのない問いが頭の中を駆け巡り、俺はただ立ち尽くすしかなかった。


今の俺にとって、この状況はあまりにも突飛で、受け入れがたい現実だっ


「……考えても、仕方ない」


俺は乱れる思考を振り払うように、首を大きく左右に振った。


(ここが森なのは一目瞭然だ。問題は森を抜けた後だが…)


俺は池から離れ、再び森へ。


俺は森の中をただ、ひたすら歩いた。


歩いて左右に首を動かしつつ、周囲を警戒しつつ見渡す。


――その時。


「―はぁ!」


(…ん?)


俺は足を止め、何か聞こえた気がして、眼を閉じ、精神を耳元に集中し、耳を澄ました。


「…ていっ!てりゃあ…!」


「……あっちか」


俺は眼を開け、声が聞こえた方角へ足を進めた。


どうやら一本の小さな川を挟んだ向こうの森の方から聞こえてくるようだ。


木々の間を抜け、辿り着いた川辺には、澄んだ水が静かに流れていた。


茂みに身を潜め目を凝らすと、そこにいたのは一人の少女だった。


歳は、おそらく十代くらいだろうか。


色素の薄い銀色の髪をポニーテールに結び、黒を基調とした動きやすそうな服にフリフリなスカート。


整った顔立ちにツリ目の銀色の碧眼。


手には、見た事もない奇妙な形状の杖が握られていた。


少女は、杖をまるで剣のように構え、真剣な表情で木々の間を駆け巡っている。


その動きには一切の無駄がなく、流れるようでありながらも、力強さを感じさせた。


「はぁっ…! せいっ!」


彼女が杖を大きく振り下ろすと、その先端から淡い光が放たれ、近くの木の幹に小さな亀裂が入る。


どうやら、何かのエネルギーを圧縮した球のようなものを射っている。


(俺が今いる、この世界はあんな杖から圧縮したエネルギーの球を射つなんて、初めて見る)


俺もいたような技を持ち合わせていたな。

そんなことをぼんやりと考えていると、少女が急に動きを止めた。


何かに気づいたように、警戒した表情でこちらを向く。


(しまった、気配を消し損ねたか…!)


俺は慌てて身を隠そうとしたが、既に遅かった。


「……!そこにいるのは誰っ!」

「…しまったな」


俺は観念し、茂みから姿を現した。


少女は俺の姿を見ると、露骨に警戒の色を深める。


杖を構え直し、俺に向けていつでも攻撃できる態勢だ。


(まぁ、そりゃあ、そうなるな)


「悪い、驚かせるつもりはなかった」


俺がそう言うと、少女はますます表情を硬くした。











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