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真壁正義は暴力が好き♡

 ぼくは暴力が好きだ。

 ぼくは暴力が大好きだ。

 ぼくは暴力を愛している。

 内面の奥底に確かに存在するそのおぞましい性根に気が付いた時、ぼくは愕然とした。

 暴力が好きなど、軽蔑すべき嗜好だ。

 暴力が好きなど、唾棄すべき性質だ。

 最初の内は、必死にそれを隠そうとした。自分を取り繕い暴力を忌避した。

 しかし、すぐに限界は訪れる。

 まるで呼吸困難になった肺のように、ぼくの心はただ少しの暴力を欲した。

 誰かを傷つける前にどうにかしないと。

 そう必死に考えた結果、幼いぼくは小学校の三階教室のベランダから飛び降りた。他人に迷惑をかけるくらいなら、死んだ方がマシだと思ったのだ。

 幸か不幸か、大した怪我もなくぼくは生き延びた。

 そして、そんなぼくを多くの人間が心配し、涙を流すのを見て自殺を選択肢から外した。確かにぼくは暴力が好きな屑ではあるが、他人の不幸が好きなわけではない。

 代わりに、合法的に暴力を振るえる環境を探すことにした。幸いにして、難しい問題ではなかった。母親に相談すると、自殺未遂のこともあってかすんなりと近くの魔導師養成塾への入塾は認められた。

 魔導士はぼくのような人間には天職であると言える。人類の不倶戴天である界物であれば、どれだけ暴力を振るってもそれを咎める人間は殆ど存在しない。むしろ、退治が推奨され、究極の暴力とも言える殺害ですら許される。

 怪物を相手に暴力性を発揮することは戦場では是とされ、おぞましいぼくの性根は戦場でのみ肯定され、流した血の量によって讃えられる。

 ぼくは暴力が好きだ。

 拳を握り締めて殴りつけるのが好きだ。

 破壊の感触が直に手に伝わり、それが全身に伝播する快感は代えがたいモノがある。

 手にした刃で敵を切り裂くのが好きだ。

 会心の手応えと共に骨を断ち、くるくると跳ぶ腕をつい目で追ってしまう。

 腰を低く落として放つ槍の突きが好きだ。

 深々と突き刺さった獲物を引き抜き、そこに空いた穴はいつまででも眺めていられる。

 銃器を使って遠距離から弾丸をばら撒くのが好きだ。

 弾丸と悲鳴が創り上げる即興の創作ダンスはいつでも心を躍らせる。

 獣共の鋭い牙が好きだ。

 脚に噛み付かれた時に見た、決死の表情と瞳には芸術的な気高さを憶えた。

 巨蟲共の鈍重な外殻が好きだ。

 まったく攻撃を受け付けない鎧のような身体に圧し潰されるのは屈辱の極みだ。

 妖精共の呪文が好きだ。

 耳障りな呪文の効果が顕現するのを待つ時間にはいつも胸が高鳴る。

 悪鬼共の単調さが好きだ。

 ただひたすらに物量によって圧し潰す単純な戦略は、原始的な暴力の粋だろう。

 ぼくは暴力が好きだ。

 暴力の理不尽で混沌としたところが好きだ。

 暴力の整然として秩序的なところが好きだ。

 ぼくは暴力を振るうのが好きだ。

 初めて小鬼の首を斬り落とした時の達成感は今でもはっきりと覚えている。

 致命的な攻撃を受けたことに気が付かずに進もうとする生命力はいつ見ても感嘆する。

 暴力を振るう時は確かな自分の優位が感じられ、神にでもなった心地だ。

 ぼくは暴力を振るわれるのが好きだ。

 初めて左腕を食いちぎられた時の二の腕の断面を今でも鮮明に思い返せる。

 致命傷を受けて朦朧とする意識の中で感じる痛みは何処か爽やかで笑みがこぼれる。

 蹂躙されて地に伏せる悔しさは神罰のように感じ、そこに神の証明を見た気分になる。

 魔導師は疑う余地なくぼくの天職だ。

 異界は誤謬の余地なくぼくの天国だ。

 界物共が人類の天敵であることに感謝しよう。

 魔導士となって界物共を殺すことで、ぼくはかろうじて人間でいられる。

 暴力が僕の存在を肯定してくれる。

 世界に遍く不断の暴力の渦が僕の存在を肯定してくれる。

 ならば、恐れる理由はどこにもない

 ならば、躊躇う理由はどこにもない。

 ぼくが愛するこの世界で、ぼくを愛するこの世界で、闘争を楽しもうじゃあないか。

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