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【夏のホラー2024】秋乃ver.

怖がりたい人はいますか?

 ホラー系エンタメは、激辛グルメやジェットコースターと同じ(たぐ)いの娯楽に思える。


 私たちはハラハラドキドキして、スリルを追いかける。

 来るぞ、来るぞ……やっぱり来た!

 そんな緊張と弛緩を繰り返す。

 そういう仕組みは落語にも似ている。怪談のジャンルは歴史が古い。


 なんでこんなに需要があるんだろう?

 考えてみると、ひとつ気がついた。


 もしかして、本当に楽しんでいるのは「恐怖」の後の「安堵」ではないか。

 ホッとするのだ。

 画面や小説の中で、どんなに恐ろしいことが起こったとしても、それを観ている当事者は、ソファに座るなりベッドに転がるなりして安全な場所にいる。

 デスゲームには参加しない。

 幽霊も妖怪もいない。

 呪いも魔術もかけられていない。

 こうして並べてみると、種々の甘美なスパイスに似ている。


 スパイスは料理に大切なものだ。

 私はカレーが好きだし、香辛料も大好き。

 ホラー系エンタメを、サスペンスやグロ込みで大ざっぱに括るなら、そういう映画も大好き。

 サイコ、シャイニング、エスター、などなど。

 だけどそれらはやっぱり、「自分が危険に侵されることはない」という絶対の安心が保証されていて、初めて愉しめるものだと思う。


 本当に怖いときは、命の危機にさらされているときだ。


 頭の中が真っ暗になって息が浅くなる。心臓はバクバクと耳を叩くように鼓動するし、だけど手足はスゥッと冷える。酸っぱいにおいの汗が出て、毛穴がひらき鳥肌が立つ。

 やばい、死ぬかも。

 その一言だけがグルグル回って、数秒が数時間に感じられる。

 こうなるともう、恐怖を愉しむ余裕なんてなくなってしまう。


 怖がりたい、という気持ちの裏にあるのは「刺激が欲しい」ではないか。

 激辛しかり、ジェットコースターしかり。バンジージャンプや不倫漫画でも良い。

 ピリッとスパイスが欲しいのだ。

 あまりにも日常が安らかで退屈で同じことの繰り返しなので、たまにはそういう刺激が欲しい。

 あわよくば、安全な範囲ギリギリを攻めるような、それほど感情移入できるようなコンテンツが欲しい。

 これが消費者の本音だろう。

 そして彼らがフィクションで満足できているなら、その状況は健全だと思われる。


 さて、ここから話はグレーになる。


 健全な刺激に慣れてしまうと、求める刺激度数がエスカレートしてくる。


 例えば、今の私がその段階にあたる。

 フィクションでは物足りないので、ノンフィクションを観たり読んだりする。

 お気に入りジャンルはミリタリーで、ホロコーストや原爆のドキュメンタリーを「歴史の勉強ですぅ」と思いながら消費する。

 我ながら浅ましい行為であると思う。


 もう少し段階が進むと、観る読むでは満足できなくなり、実際に体験したくなる。

 幸いにも、今の私はここまで行かないが、過去に有ったことを白状する。

 ここまで読めば皆さんお気づきかと思うが、私はわりと鬱気質である。

 だいたい自分の考えをオンラインに流すなどという暴挙を趣味でしていること自体、理解し難い。

 存在自体がホラーである。(笑うところ)


 話が()れたので、刺激の話に戻る。


 欲求の段階は加速度的に進む。

 最初は「適度なスパイスを愉しむ」という用途だったはずが、次は「刺激を体験してみたい」になり、一度体験すると「もう一回、もっと刺激的なことを」というループに入る。


 わかっちゃいるけどやめられない、というやつだ。


 日々のニュースで流れている痛ましい事件や事故、そういうものは、この流れの終着点であると思う。

 また、歴史もそれを証明している。

 ミルグラム実験や核開発競争、カラシニコフ銃など、簡単にググってみてもいい。

 刺激を味わい不幸の沼に落ちてしまった、老若男女の死屍累々が転がっている。


 自省せよとは言わない。

 私だって同じだから、どの口が何を言えるのか。

 ホラー系エンタメに救われている人も多くいるし、その業界がもたらす市場利益も必要なものだ。

 まさしく生きるために大切なスパイス。

 用法用量を守ってご使用ください。


 (ただ)し書きは以下の通り。


 恐怖を味わいたいなら、自分の求める刺激がどの段階のものなのか、自覚しておくこと。

 私は僕は大丈夫、なんて自惚れていると沼に落ちる。

 怖がりたいなら覚悟を持って怖がれ。


 本当の恐怖に直面している人々の上に、私たちの娯楽は立脚している。

 そのことに一番、背筋が凍る。





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