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「あ、えと……こんなとこに呼び出してごめん」

「ううん、ええよ。なんか大事な話があるんじゃろ?」

 だから体育用具倉庫の裏(こんな場所)なんじゃろ、と笑ってくれた。どこかの教室じゃ密室っぽくて多分嫌がられるだろうと思って外にした。体育館ではなく、体育館から少し離れたところにある、体育の授業で使う用具などが置かれている倉庫。いつも鍵がかかっていて体育の先生しか開けることができない。よってここに用事があって訪れる生徒はおらず、放課後とはいえグランドを使う部活の奴らも来ることはない。

「うん、ありがと。長くならんけえ」

「このあとなんも用事ないし。大丈夫よ」

 ずっと見てきた。優しいからそう言ってくれるとわかってた。

 さあ。行け、俺。

咲良さくら

 しっかり顔を上げて。相手の目を見て。

「うん」

「俺……咲良のことが、好き、です」

「……」

 咲良もまた俺をじっと見つめている。

「もし好きな奴とかいなかったら、つ、付き合ってくだ、さい」

「秋山」

 俺の名を呼んで、咲良は少し困ったような顔をした。

「ごめん。他に好きな人がおるけえ、秋山とは付き合えん」

「あ、うん。そんな気がしとった」

 そんな気がしていた。

「困らせてごめん。時間無駄にしてごめん、咲良」

 俺は頭を下げる。男にこんな人気のない場所に呼び出されて警戒しただろう。なんのつもりだと。

 でも咲良は来てくれた。話を聞いてくれた。やっぱり優しい。

「ううん。秋山、今まで通りクラスメイトとしてならこれからも仲良くしたいと思うとるよ」

「いや、俺……多分、無理。咲良を応援できそうにない。ごめん」

 友達としてこれまで通り過ごせたらどんなにいいかと思うけど。好きという気持ちは友達には戻れない。特別になれないのなら顔を見るのもつらい気がする。

「そっか。虫が良すぎたね。秋山を傷つけたのにそんなん言うたらダメよね」

「いや、それは咲良が優しいってことじゃろ。俺がココロが狭いんだって」

 こんなにもわかってるのに、いや、わかってるから。

 俺は振られるってことを。わかってるけど。

「秋山、好きって言ってくれてありがと。気持ちに応えられんくてごめん」

「俺も聞いてもらえて良かった。ありがと、咲良」

 ドラマや漫画ならここで握手をするところなのかもしれない。これからも友達でいよう的な。でも俺は友達にはなれないから握手なんてできない。未練たらしくずっと握ってそうだし。

 咲良は俺を気遣ってか少し立ち去るのを躊躇した。握手をしようとしたのかもしれない。咲良が気を遣う必要はない。俺が困らせただけなのだから。

「咲良、もう行って。俺はもう少しここにいるから」

 解放してあげなければならない。

「うん、じゃあ、もう行くけえ」

 そう言って、咲良は俺の前から立ち去った。その背中はいつも通り颯爽としていて憂いもなく。すらりとした咲良の立ち姿がとても好きだった。

 と、視界から消えかけた時、咲良が踵を返して俺の前まで戻ってきた。

「秋山」

「うん?」

「これでええん?」

「ええよ。ありがと、咲良」

 咲良は俺に一枚の紙を差し出した。

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