第19話 学院の真実
☆☆☆部屋へ帰宅しよう
二人は個室から出てくる。
「全部終わったよ。待たせたねティエラリア君」
「はぁ……死ぬかと思った……幽霊って光属性魔法で倒せたんだ……それ知ってたらもっと上手い事やれてたのに……」
「いいえ、あれは幻影魔法ですよ。試しに『コピー・イリュージョン』」
先程出した幽霊を幻影魔法で再現する。
「「で、出たぁぁぁあ!」」「これは僕の幻影魔法です。消えますよ」
そしてすぐに解除する。
「そ、そんなものも作れるのティアちゃん……」
「か、かなり精密に作られているんだな……ティエラリア君……」
「僕の魔法についてはまた今度。それよりカノン様が仰る通りにここはロストベルタ卿の研究所であるかもしれません。高度な幻影魔法の使用に、何重にも張り巡らされた魔法の罠……かなり興味深いですよとても!」
「ティアちゃんが今までになく目をきらめかせてる……」
「いや、これ以上は良くないだろう……学院への報告が必要だ。専門の人達に任せた方が良い」
当然の意見だ。だけど……僕はもう少しだけ調べたい。
「僕が先行して調べて――」
「流石に許可できない。仮に君の言う幻影魔法であったしても」
「この先に進めばそれ以外の危険な罠が存在している可能性があると……分かりました引き返します」
これ以上は出来ない……というより一度戻った方がよい。
そしてもう一度この場所に訪れれて一人で探索した方が効率が良いだろう。
こうして僕達は一度来た道を引き返した。地下室の出口を見つけ階段を上っていく。
「恐らく明日夢病の話は、あの地下室が原因ではないかと考えられますね……専門の方に見てもらえれば究明されると思います」
「そうだね、しかし、ティエラリア君がいなければこの噂は解決しなかったよ……礼を言わせてほしい。恥ずかしいところを見せてしまったけど」
不気味な雰囲気のなか幽霊の幻影魔法が出てくればいくら寮長でも驚くだろう。
今思い返せば、あれはかなり恐ろしい状況に値する。それ以上に幻影魔法の興味が勝利したが……
「いえいえ、僕にとってはかなり有意義な時間でした。オリビーちゃんに申し訳がないですが……」
「幽霊怖い……ティアちゃんも怖い……」
やがて、僕達の部屋に辿り着いた。
「とりあえず私はアルティー君とナイティー君の容態を確認してくるよ。付き合わせて悪かったね二人共」
こうして、カノンと別れ部屋に入る。
「怖かったよぉぉぉ!」
「お疲れ様ですオリビーちゃん。湯舟は既に沸かしてありますのでどうぞ」
「……」
しかし、オリビーの顔は青ざめ無言になる。何かを思い返したようだった……
「オリビーちゃん?」
「……い、一緒に入らない?」
「え」
突然の提案だった。
「髪洗ってる時に目を瞑るじゃん……そして目を開いた瞬間に……出てくるじゃん……うぅぅぅ……」
なるほどそういうことか、風呂で一人になるのが怖いわけだ。そんなに幽霊が怖いものなのだろうか?
だけど、流石に一緒に入るわけにはいかない。なので……
「もし、出てくれば光属性魔法で退治できると思うのですが……それに浴室は一人で入る専用ですよ……一緒に入れません」
「そ、そうだよね……お風呂……怖い」
そうして、オリビーは一人震えながら風呂へ入っていく。まるで捨てられた子犬のようだ。少し可哀想なことをしたが仕方ないだろう。
「うぅぅぅぅぅぅ……」
唸り声が聞こえてきた。
☆☆☆始めての喧嘩!
さてと、オリビーが寝たのを確認すると、ベッドからこっそりと出る。もう一度あの場所へ向かおう。
学院や共和国の連中に調べられるより早くあそこを探索するべきだ。そうすればニコラス・ロストベルタに対する手掛かりが見つけられるかもしれない。
制服に着替える時間ももったいない。このままでいいか……僕は部屋から出ようとすると……
「――やっぱり、もう一度あそこへ向かう気だったんだ」
オリビーに手を掴まれる。
「……オリビーちゃん起きていたのですか……あの場所に忘れ物をしてしまいまして、大丈夫です目的のものを回収できればすぐに戻りますので」
恐らくオリビーは僕のことを止めに来たのだろう。余計なことを……
「忘れ物は学院の人に伝えればいいよ。あの場所は危ないって、少し踏み入れただけでも分かったから……」
どうするべきか……この距離ならばいくらオリビーが光属性魔法師であっても、すぐに意識を奪うことはできる。オリビーは戦闘の素人だ。
だが、力で組み伏せるとなれば今後の関係性を維持していくことが出来るのだろうか? 恐らく歪みが生まれるだろう。
だけど、今諦めてしまえば、共和国や学院は恐らく浮かび上がった真実を隠そうとするだろう……
そうすれば、僕の『目的』は果たせないままだ……ならば……
「それでも僕は取りにいかないといけないのです……手を放してくださいオリビーちゃん……」
「ダメ!」
「向かいたいのです!」
「ダメだよ!」
更にオリビーの手は強く握られる。仕方がないか……
「ごめんなさい。オリビーちゃん……!」
「ティアちゃん!?」
「『コピー・イリュージョン』」
先程恐れていた幽霊をオリビーの目の前に出現させる。一瞬の不意をつければいい。幽霊を見て気絶したことにすれば、どうとでもなる!
「っひぃ……で、出たぁぁあ!」
オリビーは取り乱す、そのまま……一気に! え……
「「っぐ!」」
オリビーは手を掴んだまま僕の身体に衝突した。そのまま重力に逆らうことなく床へと押し倒される。
「きゃあっ!」
背中に痛みが走り、人一人分の体重が僕に圧し掛かる。
「あ……ご、ごめんなさい! ティアちゃん。私そんなつもりはなくて……怪我はない……あれ、え……なんで……」
そして、僕はこの学院に訪れて最悪の失態を犯してしまう。オリビーの手は僕の胸元をがっつりと掴んでいる。
「胸が……ある……」
僕は寝間着であったため晒しを巻いていない。そのせいで少し膨らんだ胸にオリビーは疑問を抱いていたのだ。
「もしかして……ティアちゃんは……女の子なの?」
まだオリビーは状況を理解していないのか、二度ほど胸を揉まれる。すると、オリビーは僕が『異性』であると意識した。そうなれば……
「~~~~~~!」
そして同時にオリビーの下半身が強固する。それはこの学院の生徒全員にあって、僕には存在しない物だ。
「……はい。僕は……女の子です」
聖シエール魔法学院は女装した男の娘のための学院である。そう。男子校だ。
そして今。僕はルームメイトに女性であることがバレてしまった。
「そ、そんなぁぁぁぁ!」