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1-12 魚の気分になる

海の世界に転生した主人公。前世の記憶はほぼないが、前世の価値観を有しているため、今世では苦労を重ねる事になる。


プロローグ、転生と自己認識(4000字程度)

1章(各話1000字程度30話)

同期や登場人物の把握、世界認識、事件発生

2章(各話3000字程度15話)

状況確認、対処法模索

3章(各話5000字程度3話)

事件対処

エピローグ、リザルト(4000字程度)

 目を開けると何かの膜に包まれていて、その向こうに人影が見えた。

 もやがかかった様なまどろみが抜けず、頭が重く窮屈だった。

 ここは夢の中なのかもしれない。僕が寝るとしたらベッドの中なのだから。


 爪の伸びた指。水掻きのある手。

 青く白く透き通った肌には細かな鱗。

 膜に映る自分は人魚の様だった。


 壁から伸びたモノがお腹にくっついている。

 膜の向こうを見ると壁沿いにズラリと大きな透明な卵。

 中には一つ一つに人魚が入っていた。


 卵の中でぐるぐると動き、その鋭い爪で膜を切り裂いている。

 そうして見ていた卵の中から人魚が生まれ出た。

 他の卵も似た形で飛び出していく。どんどんと。


 壁から目を離し、中央を見ると木の様なモノがあった。

 その木の葉は触手の様になっており、上から落ちてくる何かを捕まえていた。

 これは何なのだろう? 理性は怖いと言うが、本能部分か何かは親近感の様なモノを覚えている。


 ふと近くを見ると周囲に人魚が集まっていた。

 何か興味深いモノを見るような目をしている。

 あぁ、外に出ようとしないからか。それが不思議だったのか。


 体を回す。管がねじ切れる様に。

 この管は臍帯の様なモノなのだろう。

 このサイズの体を作るには栄養の安定供給が必要だと思う。


 体を二十程回すとぶつりと切れた。

 爪を膜に刺してみる。けっこう力を入れないと薄いのに貫通出来なかった。

 膜の穴から爪を使い切り裂くと、体が抜けられるくらいの大きさの穴が出来た。


 魚のヒレ。クジラやイルカとは違う、垂直方向のヒレの向きだ。

 この人魚はたぶん魚から進化して生まれたのだろう。

 呼吸に空気が必要のない体なのもその証明か。


 膜から体が出ると何故だかお腹が減った。

 先程まで自分の入っていた卵がとても美味しそうに見える。

 爪で切り裂き一口分を口に入れる。寒天みたいだが、今欲しい栄養が補われる感覚がする。


 何かが目覚める感覚がする。

 卵の膜にかぶりつく。止まらない。

 前世の僕では無理な量を貪っていく。


 胎盤含めた全てがなくなるまでに五分かかっただろうか? 分からない。


 周りを見るとある卵に人魚が群がっていた。中の比較的小さな子の手が食われた。

 あぁ、そうか。僕の卵の回りにいた人魚達はお腹が空いていたんだ。

 あれは食べていいモノかどうか考えていた目だったのだろう。


 この体は化け物なのだろうか?

 倫理や理性の欠片のない生物に生まれたのだろうか?

 人の様な顔はあくまでも「人の様な」でしかないのか。


 何だか恐ろしくなった。

 でもだからといって震えてもいられない。

 そうして死ぬのは僕だから。


 まだ少し長い臍の緒を捻り切る。

 痛みは鈍い。覚醒したばかりだからだろうか?

 空間の中央上方に開いた穴から、水を掻き分け外へと出た。




 巨大なフジツボ。直径200mはありそうなサイズ感。


 先まで居た場所の外観を一言で例えるならそうだろう。

 山の様な形、火口の様に開いた開口部から人魚が飛び出していく。

 こうやって見ていると噴火しているかの様にも見えた。


 そのままフジツボを見ていると大きな人魚が現れた。

 周囲にいる孵化したての人魚の4倍くらいの大きさだろうか?

 その巨大な人魚は背中のモノをフジツボに向かって落としていく。

 フジツボが触手で採っていたモノがあれなのだろうか?


 なんか大きな人魚が手を振っている。

 手首かどこかに鈴か何かつけているのか、妙に頭に響く音がする。

 そちらに向かわないといけない気がした。


 大きな人魚に向かって泳ぐ孵化した人魚達。

 数十はいるだろうか? もしかしたら百を超えるかもしれない。

 フラフラと集まっていく。その流れに気づけば僕も乗っていた。


 抗う事もできず、夢で自分以外の誰かになっている様な感覚。

 今自由にならないこの体。記憶の中と違う異形。

 この状態は夢ではないのだろうか? 口の中に入った卵の膜の感覚だけがいやにリアルに思えた。



 大きな人魚に先導され着いた先にいたのは巨大な生物だった。

 ジンベイザメの様な姿をした生物。ただその大きさは遠くからでも全貌が見えない程だった。

 もしかしたら僕の感覚がズレているのかもしれない。そう思った。


 もしジンベイザメとこの巨大な生物と同じ大きさなら僕の大きさがとても小さいという事になる。

 ジンベイザメのサイズはたしかだいたい10m程だ。キロを越えてる様にすら見えるこの巨大な生物がもし本当は10m程度だとしたら? 感覚を1/100した方がいいだろう。

 だがそうかんがえた場合、僕達の大きさは実際どれくらいだろうか? 1センチにも満たないかもしれない。


 そもそもフジツボのサイズもおかしいってことになるか。

 フジツボなんて大きくても5センチか10センチくらいじゃないか?

 そのフジツボよりもずっと小さいのに、手指が、関節がしっかりし過ぎている。


 あぁ、もう分からない。


 先導していた大きな人魚がジンベイザメの背中を指し示した。


 そこには他の人魚達が背中にいる何かと戦う姿があった。

 僕達生まれたばかりの大きさの人魚がその何かに捕まり体が半分になった。

 その何かの背中に他の人魚がかじりつく。尖った何かをぶつけて叩く。


 蛮族の狩り。


 無謀な者は死ぬ。運が悪くても死ぬ。鈍臭くても死ぬ。

 策はあそこにあるのだろうか? それともアレくらいで策を必要としていたら失格ということだろうか?

 どういう意味なのだろう? これを見せた意味は? これからこれをするという事だろうか?


 怖い。


 何かは見ている間に滅多打ちにされて、殻を砕かれて、動きを止めた。


 そして蛮族の宴が始まった。


 何か。あれは甲殻類だろうか?

 ジンベイザメにくっつく寄生虫みたいなモノかもしれない。

 尖った何か。あれは何かの殻なんじゃないだろうか?


 怖い。


 周囲の一緒に孵化した人魚達は何かの体液の臭いに興奮していた。

 尖った歯が剥き出しにされる。鋭い爪が何かを求める様に蠢く。

 宴で何かが食われていく。群がられ、抉られて、噛み裂かれる。


 また先導している人魚が指し示す。

 何かがいた。あの甲殻類だ。触角が長い。2mはないか?

 今の自分よりも大きいのだ。怖くないわけがない。


 だが周囲は興奮していた。僕の体も興奮していた。

 今にも飛びかかりたいとばかりに体をくねらせていた。

 その目はまんまるに開かれて、異常さをこれでもかと伝えていた。


 理性などそこにあったモノではない。

 言語などもそこにはないだろう。

 ただ原始的な欲求のままに動く何かがそこにいるのだ。


 大きな人魚が10人程を選ぶ。

 手の中のモノで操っているのだろうか?

 選ばれた10人の中に僕がいた。


 頭はぼーっとする。けれど体は息を荒らげている。

 意識と体が連動しない。怖いのに怖くない。おかしい。

 人魚の指し示す方に向かい、体が加速していく。


 貫き手。たしかこの手の形で放つ突きをそういうんだったか。

 揃えられた指から伸びた爪は鋭く、一本の投げられた槍が如く、僕の体は何かに向かい、そして胴体の殻の隙間深く突き刺さった。

 どくどくと流れる体液を指先で感じつつ、周囲にいる頭部付近に突き刺さった同類が食われる様を見た。赤い血が煙の様に舞っていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだかすごいお話ですね。 どう感想を書いたものか……。 書き出し部分は、人魚の生態や本能を人魚本人視点で語るドキュメンタリーみたいですが、読んでいる私まで自分が海の生き物になったような…
[良い点] 文章が美しい!印象に残ります。
[一言] 独特なお話でした。 魚とありますが、人魚?人魚たちが何をしているんでしょう? 前世の価値観を持った主人公には本能以外に理性を持ち合わせていて、その自己認識のプロローグということですね。 後の…
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