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太陽の向こう側  作者: しのはらかぐや
第1章 結成
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番外小噺 たてのりの剣②



たてのりとアルアスルが出会ってしばらくの頃である。

傭兵として働くと言い出したたてのりに着いてツェントルムに来たアルアスルは暇を持て余していた。

ツェントルムの街ではそこそこ安い借りた宿で一日中丸まって昼寝をして暮らしている。

ぐうたらと寝転んでいる耳に傲慢な足音と微かな金属の擦れる音が入ってきてアルアスルは身を起こした。


「たてのーんおかえり~!」


扉を開けるとそこにはたてのりではなく剣が立っていた。

正確には、たてのりの背丈や身幅を大幅に超えた、天井を抉るほどの大きな剣をたてのりが背負っていた。


「え…うわ…なに…?」


部屋に入れないサイズの剣に困惑するアルアスルは背負っているたてのりの様子がおかしいことに気がついた。

いつものような何事にも動じませんと言いたげな涼しい顔をしていない。

びっしりと脂汗をかいて呼吸は上がり、どことなく青ざめたいかにも具合の悪そうな様子である。

噎せ返るほどのほどの魔力にアルアスルは眉を顰める。


「うわ、どうしたんや?重たいんか?そらそうか…お、おろすか?」


「ネコ…」


大きすぎる剣を下すのを手伝うと、たてのりはその場に昏倒した。


「たてのり!」


たてのりの鎧からポタポタと血が溢れる。よく見ると今まで歩いてきた廊下にも血痕が落ちていた。

急いで服を剥ぐと脇腹に抉れたような傷があり、そこからとめどない血が流れていた。


「おっちゃん!おっちゃん!回復薬あらへんか!?たてのりが!」


アルアスルの慌てた声に宿屋の主人が何事かと走ってやってくる。

廊下に置かれた通行を妨げるほどの巨大な剣と倒れるたてのりを見て目を白黒させながら主人は近くの薬屋まで駆けて行った。






主人が買ってきた回復薬でたてのりはすぐに回復した。

ただし、聖女や神父の祈りでの回復と違って薬の回復は時間がかかったり後遺症が残ったりするものだ。

完全に消えない傷跡を見てアルアスルは次の日の傭兵の仕事を休ませた。


「大袈裟だな。少し掠っただけだ」


「なーに言うてんねん!抉れとったぞ!元気なんはええけど大事とって仕事はやめとき!」


どう見ても元気なたてのりは退屈そうに側に置いた剣を手に取った。

剣は昨日のような規格外の大きさではなくいつもの背に収まるくらいに戻っている。


「それ、昨日めーっちゃ大きくなってたんやけどなんなん?」


今までそのような様子を見たことがなかったアルアスルは興味深く一緒になって剣を眺める。


「見せたことなかったか?俺の剣は魔力で伸縮自在だ」


たてのりの剣はたてのりとアルアスルが出会った頃にはもうすでに背にあった。

大して物欲のないたてのりが大切にしている唯一のものと言っても過言ではない。

剣はカーテンの隙間から差し込む光を弾いて生意気そうに光った。


「昨日は…意識が朦朧としていたし、体も死ぬと思って魔力が暴走したんだろう。剣がそれに反応したんだな」


その話を聞いてアルアスルは噎せ返るような魔力を思い出す。

そして同時に、絶対に言ったら怒らせるだろうということを思いついた。

たてのりには言うまいと思うも、アルアスルの性格上親しい間柄の人間に対してそういった気遣いをすることはできなかった。

アルアスルは半笑いになりながらたてのりの剣を指差した。


「勃起…」


「は?」


「死に際に大きくなる…魔力が集まって大きく…ふふっ…勃起やん…!」


言いながら必死に笑いを堪える。

たてのりは一瞬唖然としたが、次第に般若の形相となってアルアスルに剣を振りかぶった。


「なんだと、このネコ!」


「うわーっ!ほんまのことやんか!勃起!勃起剣!!」


「この剣の名は於菟(おと)だ!そんな下品な…」


「やーいおちんちん勃起剣!」


ゲラゲラと声を上げて笑いながら身軽に跳び回って逃げるアルアスルをたてのりが追いかけ回す。


「なーにがおちんちん勃起だ!」


逃げ回るアルアスルを追いかけて扉を出たところで宿屋の主人と目が合う。

たてのりの熱狂的なファンが生まれた決定的瞬間である。





「…なんてことがあったらしくてな」


タスクは取っ組み合って喧嘩する2人を尻目に莉音と等加に話して聞かせる。


「俺がたてのりの剣を初めて研磨したとき、アルがこれは勃起剣なんやで!とか言って俺に話してくれたんや」


想像以上にくだらない話に莉音は半目となり、等加は声を上げて笑った。


「デカいモンスター見たらすぐ勃起するやんけ!この節操なし!」


「黙れ泥棒猫!」


いつまでも生産性のない喧嘩をする2人の間に等加が割って入る。

咄嗟に女の子を傷つけまいと爪をしまうアルアスルの顎を撫でて等加はたてのりの振りかぶった剣に触れた。

戸惑って距離を取るたてのりに目を細めて笑う。


「ご立派じゃないか。あたしにも触らせてよ、大きくなったやつをさ」


「な、な、等加っ!」


上擦った声で叫んで倒れる莉音をタスクが爆笑しながら支える。

たてのりはとてつもない嫌悪を貼り付けた表情をすると舌打ちだけして怒りで動いているかのような大きな足音を立てて部屋に戻ってしまった。


「もー、結局話し合いできへんやんか」


ぶつくさ文句を言うアルアスルにタスクは両成敗と拳骨を落とした。

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