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太陽の向こう側  作者: しのはらかぐや
第1章 結成
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二十六話 シュテルンツェルトへの帰還


あまりに狭すぎる車内にたてのりが本気で怒りを爆発させそうになったとき、馬車は歩みを止めた。


「ツェントルムのシュテルンツェルト前にございます」


御者が扉を開けると全員が転がり出てきた。

夜は星の光を見せまいとしているネオンの光も夕方ではなりを潜め大人しくしている。

官能的だった通りや建物は毛色を変え、ただただ豪華な雰囲気だけが辺りに漂っている。


「はぁ、昼間やとこんな感じか。思ったより上品やな」


転がりおちる莉音を受け止めて担いだタスクがシュテルンツェルトの噴水を見て素直な感想を溢す。

等加は慣れたように一行を連れて中へと入った。


「マスター、ただいま」


支度中の酒と香ばしい匂いが充満する店内にはカウンターの奥に立って作業をしているシリウスだけがいた。

シリウスは等加の声に気付くと顔を上げて笑顔を振り撒く。


「あぁ!お帰りなさい。いかがでしたか、ゼーローゼ邸は?豪勢だったでしょう」


一行をテーブルに案内して飲み物を出しながらシリウスは尋ねる。

さっさと奥に引っ込んでしまうと思っていた等加も一緒になって席についたのを見て少し意外そうに目を丸めるが、特に声をかけることもせず等加の分も出した。


「いやそりゃ豪華やったけどさ!」


「とーんでもない目にあったんやで!もう二度と行かんわ!」


なんの遠慮もなく差し出された飲み物を飲んでアルアスルとタスクは口々に愚痴を話した。

どこまで話してしまうべきかは迷って少し濁したものの、シリウスは何となく察していたようだった。


「それはそれは…トウカ、大丈夫かい?」


「あぁ、問題ないよ。人違いだなんて酷い話さ」


等加の様子が少し変なことがゼーローゼ邸での出来事のせいだと踏んだシリウスは心配するが、等加は思いの外あっさりしていた。

しばらく店に滞在して好き勝手話していたが、続々と他の従業員が出勤し始めてたてのりは居心地が悪そうに眉を顰める。


「おい、ネコ。そろそろ行くぞ」


「あ、そうやな~そういえば大事な話せなあかんの忘れてたわ」


アルアスルは等加を一瞥するとそろそろ忙しくなってきたと食器を片付けるシリウスに声をかける。


「お帰りですか?またいらっしゃってくださいね。トウカを送ってくださってありがとうございました。トウカ、お友達をお見送りなさい」


「ううん。マスター、あたしついていくことにしたから」


立ち上がって身支度をする一行と一緒に立ち上がりながら等加は笑顔をシリウスに投げかけた。

一瞬意味がわからず困惑するシリウスにアルアスルとタスクが詰め寄る。


「トウカさんをウチにください!!!」


「…え!?」


さらなる困惑を呼ぶアルアスルとタスクの言い方に莉音の苦笑いとたてのりの鉄拳が炸裂した。


「あぁ…そういうことでしたか…」


たてのりと等加の説明でシリウスはカウンターにもたれかかって深々とため息をついた。

攻撃力に全振りのたてのりの鉄拳を喰らったアルアスルとタスクは床で伸びて莉音に手当てを施されている。

浮かない顔をするシリウスに等加はばつが悪そうに俯いた。


「いきたいと、思って…一緒に…」


それが着いて行きたいという意味なのか、他の意味なのかはわからない。

シリウスは困った顔のまま笑顔で等加の肩に手を置いた。


「責めているわけではないよ。…ただ、やはり店の経営のことも考えるとな」


シリウスは奥の従業員控室に目を向ける。

たくさんの玉飾りが吊り下がった豪華なカーテンの隅でパーティのメンバーが固唾を呑んでこちらに聞き耳を立て見守っている気配が伝わってくる。

トウカは王国随一としてギルドへの集客効果があるだけではなく、各国の王家からも声がかかるほどのとてつもない稼ぎ頭だ。

メンバー全員が敏腕パフォーマーといえども大黒柱を失うパーティの損失は大きい。

しかも、その引き抜きをしに来たのがよりにもよって王家の専属部隊や有名なパーティではない、どこの馬の骨ともわからない弱小パーティである。

ギルドの中で稼ぎ頭として、メンバーとして、高嶺の花として、娘として可愛がってきた等加を奪い取られるような気分の者もいるだろう。

無理矢理にでもというのであれば実力行使もできたが、他でもない等加自身が行きたいと言っているためにメンバーは誰も表には出てこないのだ。


「…経営のことなら、ガイナを呼んでみるよ。それならいいでしょ」


「…ガイナを?」


等加が言い出した名前にシリウスは目を丸くする。

ガイナというのは等加の先輩にあたるギルドのメンバーのひとりだ。

以前は等加と随分仲良くしていたが、今は店に出勤せずツェントルムの街のどこかで小さなクラブを営んでいると聞いている。

ガイナはエルフと竜族のハーフで、その珍しく美しい見た目から等加と同等かそれ以上に人気と集客性のあったメンバーである。


「確かに、ガイナがいれば店の心配はないが…」


シリウスやその他のメンバーの心配事はそれだけではない。

ただ、呼びにくいガイナの名前を出してまで旅立ちたいという等加の強い意志をそこに読み取ってシリウスは小さくひとつ頷き店の裏に引っ込んでいった。


「…あれ?怒ってしもたかな?」


「お前らがあんな言い方するから…」


「いいの。行こう」


いなくなったシリウスを心配するように莉音が奥を覗き込む。

不機嫌なたてのりに睨まれたアルアスルとタスクはどこ吹く風と口笛を吹き、等加は少しだけ寂しそうに笑いながら店の入り口まで歩いて行った。


「でも、行くったってどこ行くかなぁ。かなり戦力も揃ったしそろそろ小銭稼ぎやめて他の国にでも…」


ついでにクエストを受注したそうなアルアスルを皆で待っていると、奥からシリウスが大きな袋を抱えて再び顔を出した。

今にも外に出ていきそうな等加を見て少しだけ声を荒げる。


「こら、待ちなさいトウカ。これを持っていきなさい」


シリウスは入り口まで小走りで来ると大きな袋を等加に渡した。

一度シリウスの顔を見てからおずおずと袋を解くと、中には踊り子の装束などの装備品や着替えといった等加の私物と金貨、軽食が入っていた。


「着替えも持たずに出かけるのかい?」


「マスター…」


いつの間にか他のパーティメンバーも入口の方まで出てきていた。


「いつでも戻ってきなさい」


共に働いてきたメンバーが笑ったり泣いたりしながら集まってくるのを見て等加は目を細める。

いつの間にかたてのりを始めとした一行は先に扉から外に出ていてその場にはいない。


「うん、ありがとうマスター、みんな!」


等加は満面の笑みを浮かべた。




「……俺、今夜にでももう一回来てクエスト見たりしよ思ってたんよな。これさ、しばらく来にくくない…?」


豪華な装飾がついた扉の前で腕組みをしながらアルアスルが小声で呟く。

中で話す声が少しだけ漏れて聞こえるが、今生の別れのように思っている人もいそうなものだ。


「…まぁ、後で宿で考えようや」


「今日はゆっくり休もう」


薄暗くなり、ちらほらと明かりがつき始めたネオンを眺めながら一行は等加と別れを惜しむ声を聞いていた。


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