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太陽の向こう側  作者: しのはらかぐや
第1章 結成
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二十五話 行きたいところ


一行の気まずさを知ってか知らずか、翌日の空は嫌になるほど透き通った天高い青空だった。

太陽は心地よく輝き、雲は自由気ままに浮かんでいる。春うららかな光の下で用意された荷物を借りた馬車に積み終わった後も誰も口を開かない。

馬車に背を預けてどこか遠くを見つめているような目をしている等加にかける言葉はなど誰も持ち合わせてはいなかった。


「やぁやぁ!いい天気だね諸君。昨日はよく眠れたかな?」


派手に装飾が施された大門から使用人を連れたゼーローゼがゆったりと歩み出てくる。

一行は何もこたえず、ただ鋭い眼光を向けた。


「そう嫌わないでくれ。昨夜は本当に失礼したよ。これは詫びといってはなんだが、日持ちする食料を用意したから持っていってくれたまえ」


ゼーローゼの後ろにいた使用人が大きめの袋をタスクに手渡す。

中には干した肉や漬けた果物など質のいい加工食品が全員で数日ほど暮らせる量が入っていた。


「…貰っとくわ」


タスクは宙に手を翳して収納空間を開くと食料を放り込み、すぐに背を向ける。

ゼーローゼは目を細めるだけでそのまま踵を返した。


「では諸君たちの無事を祈っているよ」


それだけを言い残して大門は静かに閉じた。

辺りには再び気まずい沈黙が降りる。

普段空気などこれっぽっちも読めないたてのりが珍しく居心地悪そうにアルアスルに目配せした。

こういうのはお前の専売特許だろとでも言いたげな視線にアルアスルは苦虫を噛み潰したような顔をしつつ街の方に向き直った。


「じ…じゃあ、行こうか!トウ…ナ…え…ナ、ナドカ…ちゃんをシュテルンツェルトまで送っていかんとな!」


半ばやけくそのように言い放つアルアスルに続いてたてのりが馬車の扉をぶっきらぼうに開け、等加に少しだけ目線を飛ばす。

行き道がお通夜だったにも関わらず2台目の扉を開けているのを見ると帰りも一緒に乗るつもりのようだ。

その様子を見て等加の表情は少しだけ緩んだようだった。


「あ、あの、トウ…等加、あの、元気出し…ぶっ!」


場の空気が少し和んだのを察知した莉音がタスクの服の端を摘んでいた手を離して等加の方へ駆ける。

途中で何かに躓いて転び、大きく地面に顔を擦った。


「ワァ~!!!莉音、大丈夫か!?」


「おでこから血ぃ出てる!?殉教(じゅんきょう)して、殉教!」


慌てたタスクとアルアスルに持ち上げられて捕まった猫のようになりながら泣くなよとあやされた莉音はむくれ面で殉教を使った。


「こんなことで使ったら我が主に愛想尽かされてしまうわ!ちょっと!泣かへんて!あてはもう成人やで!?」


大暴れする莉音と大騒ぎするタスク、アルアスルに目を向けていた等加は自然と笑みが溢れるのを感じた。

何か温かいものが胸の中に滞っているようで不思議と穏やかな気持ちだった。

セントエルフトルソーの最後の言葉を何度も心の中で反芻する。


「…あたしも行きたいな」


そう口から言葉が転がり、等加は自分でも驚いて目を丸くした。


「えっ…?」


「え?」


アルアスルとタスクは莉音を担いだまま、莉音は2人に担がれたまま停止する。

唯一たてのりだけが少し目を細めて面倒臭そうに扉に寄りかかった。


「それは…どういう…?」


「その…もし、これから皆が旅とかに出る…なら、その…」


心地良い風に攫われたペリドットの髪が光を弾いて煌めく。

その髪をかきあげながら、等加はどう答えればいいのか言いあぐねて俯いた。


「…俺らと来たいなら来ればいい」


皆が等加の答えを待つ中口を開いたのはたてのりだった。

たてのりは等加に目もくれないで、誰も乗らなかった馬車に足をかけた。


「来たいんだろう?俺らと。なら、来ればいい」


少しだけ全員を見たたてのりは向けられた意外そうな表情に小さく舌打ちをして馬車に乗り込んだ。


「いい…の?あたし、もしかしたら…みんなに、その…」


等加は不安そうにタスクとアルアスル、莉音に向き直る。

目に映ったのは3人の満面の笑みだった。


「ええに決まってるやん!」


「一緒に行こぉ!」


「来てくれるん?嬉しいなぁ」


笑顔の3人は等加に飛びかかり、大騒ぎしながら馬車の中へと連れ入る。

本来は2、3人しか入れないところに無理に全員が入ったせいで馬車の中は車内が軋んだ音を立てるほどギチギチになってしまった。


「おい!お前らは前の馬車に乗れよ!」


「ええやんかぁ~!仲良うしようやたてのん!あ、出発してくださ~い!」


アルアスルの掛け声で馬車は鈍い音を立てながら動き出す。

奥の席で押されながら窓を見た等加は、その陽の眩しさに目を細める。


「…ずっと遠くまで行きたいな。向こうの、ずっと向こう」


馬車の騒がしさの中で小さく呟いた等加の声は、隣でタスクに潰されていた莉音には届いた。


「ずーっとって、どっちの方?山の向こう?」


莉音も窓の外を覗き込む。

一面の輝く緑に太陽は惜しみなく光を注いでいた。


「ううん、もっと、ずっと」


等加の目は田園や山を映してはいなかった。

先程までのようにどこか遠くを見ている様子に莉音は今度こそ満面の笑みでその手を取った。


「ほんなら、行こ!あの太陽まで…いや、ほうやな…太陽の向こう側までずっと行こ!」


街で見たエルフよりもずっと白く輝く手にも差し込んだ光が当たって反射する。

等加は屈託なく笑う莉音に微笑みを返し、太陽を見たときと同じように目を細めた。

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