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太陽の向こう側  作者: しのはらかぐや
第1章 結成
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二十四話 トウカの名前


黒装束の者たちがトウカの両手足を雷の鉾で押さえつけている。

トウカの美しい面立ちが苦痛で歪んだ。


「トウカ!」


「おい!」


莉音が叫んだ。

アルアスルは手足を変化させてゼーローゼに向けて威嚇する。

たてのりは剣を置いてきたことを踏まえて近くに飾られていた銀食器のバターナイフを手に取った。

先に風呂に入って部屋着に着替えていたばかりに、誰も武器を持っていない。

たてのりはタスクと目配せをし、タスクは机を爪で叩いてアルアスルに合図を送る。

タスクが莉音を庇い2人がそれぞれゼーローゼと黒装束の者たちに飛びかかろうとした瞬間、空気が冷涼なものに一変する。


「やかましい!」


天翔ける竜のような美しく気高い声が屋敷中に響き渡る。


「騒ぐな、下等生物。妾の目を汚すな」


声の主は台の上に座する陶人形だった。

薄い金と銀の目は恐ろしいほどに冷たく底知れない怒りを#湛__たた__#えていた。

全員の動きが止まり一気に視線が声の主であるアレキサンドライトに集まる。


「アロイス・フォン・ゼーローゼ公爵、お戯れもそこまでにしてくださいな。汚らわしい酒場の下賎な(おんな)エルフと同族扱いされて気が立っておりますの」


ゼーローゼはその言葉に小さく唸った。

アレキサンドライトはその美しい面立ちを歪めて虫けらを見る目でトウカを見る。


「セントエルフは聖域に住む神秘の種族。そして信仰上、俗世に堕落するなど万一にもありえません。ましてやこの者の踊りは民族舞踊だと伺いましたが?」


「あぁ、そうだ」


「セントエルフの舞踊魔法はその一挙手一投足が型通りに行われないと発動しません。その辺りで習えるような民族舞踊などを踊るような小娘がどうして我々と同じ種族だと言えましょう」


アレキサンドライトは冷たい声のまま堂々と言い放った。瞳には未だ怒りの色は消えず本当に気分を害している様子が誰の目に見てもわかる。

ゼーローゼはしばらくアレキサンドライトとトウカを比べるように見ていたが、大きく息を吐いて椅子に深く腰掛けると残念そうにパイプで吸った煙を吐いた。


「…ようやく酒場から引き出せたというのに…また違ったのか。その者を放せ。…客人だ」


ゼーローゼの合図でトウカは黒装束から解放される。

黒装束の者どもはどこへともなく立ち去っていった。


「…すまなかったね。私の勘違いだったようだ」


ゼーローゼは固まってしまった一行などお構いなしに昼間に見せていた穏やかな笑顔を顔に貼り付けた。


「アロイス様、確認してほしいものとはこれだけですの?」


アレキサンドライトの不機嫌な声が棘を持ってゼーローゼを刺す。

ゼーローゼは困ったように頰を掻いて台座を下げるようにと使用人に手で合図した。


「今後はこのようなつまらぬことでお呼びにならないでくださいまし。…あぁ、それと」


下がっていく台座の上からアレキサンドライトは唖然とする一行に視線を向ける。


「Muka Rinda Tianesie Kig」


「みゅ…?」


「…祈りの言葉よ」


聞きなれない発音と言葉に困惑する様子を見てアレキサンドライトはそう呟いた。

床に座ったままになっていたトウカだけがハッと顔を上げる。そして、閉まりゆく扉に向かって叫んだ。


「天竜の契りに祈りを…!」


言葉の最後までを聞き届けずに扉は閉まった。


「…今日はすまなかったね。明日、詫びといってはなんだが必要なものはなるべく用意しよう」


アレキサンドライトがいなくなった途端にゼーローゼがそう呟き、そそくさと部屋を後にした。


部屋に残された一行の間にはゼーローゼを責めることすら忘れるほどのひどく気まずい沈黙が流れた。

たてのりが銀食器の展示にバターナイフを戻す音だけが一瞬響く。


「トウカ…さっきの言葉って?」


最初に口を開いたのは莉音だった。

へたり込んだまま黙りこくって目も合わせず立ち上がらないトウカの代わりにたてのりが口を開いた。


「…エルフの、王族に伝わる言葉…」


「え、たてのりわかるんか?」


タスクが驚く。

たてのりは深い緑の瞳を伏せて頷いた。


「…母が、昔言ってたその言葉に似ている」


アルアスルとタスクはなんとなく察したように顔を見合わせた。

状況が飲み込めない莉音が2人の顔を交互に見上げる。タスクは特に何も言わずに莉音の頭に手を置いた。


「つまりどういうこと…?エルフ王族の言葉がわかる…トウカは、エルフの王族なん?」


トウカがぴくりと震えて、少しだけ顔をあげ莉音を一瞥した。


「…ナドカ」


「え?」


黙りこくっていたトウカの小さな呟きに全員が耳を傾ける。


「あたしの本名…。…等加(などか)っていうの」


「な…どか…?」


等加と名乗った踊り子はまた俯き、何かを考え込むようにそれきり何も話さなくなった。




「…あの娘には今後一切関わらないでくださいまし」


寝室に戻ったゼーローゼに、飾られたアレキサンドライトが言い放つ。


「あれは、天契(てんけい)の竜を呼び寄せるもの」


その一言にゼーローゼはハッと青ざめ、ベッドに腰掛けて深く深くため息をついた。


「そういうことか…。お前が言うことならば信じよう。…私は、触れてはならない禁忌のすぐ側まで来てしまっていたのか…」


ゼーローゼは立ち上がると、暖炉に火をつけた。

そしてテーブルからいくつかの書類を取り出し、ゆらめく火に焚べて燃やした。

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