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太陽の向こう側  作者: しのはらかぐや
第1章 結成
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二十二話 傾国の宝


斜陽が窓から差し込み会場をほんのりと赤く染めている。

会場はお開きの雰囲気となり、貴族たちは次々と帰り始めた。


「それではゼーローゼ公爵、これにて失礼いたします」


「あぁ、オリヴェ伯爵、また来てくれたまえよ」


最後まで残っていた老紳士が深々とお礼をして自家用馬車に乗り込んだのを最後に来賓は全て帰路についたようだ。

周囲を見回してアルアスルは背伸びをする。


「えーっと、ほな俺らはどうやって帰るかなぁ…」


行きは迎えの馬車が来ていたが、帰りまで貸してくれるかはわからない。

山を越えるにしても全員が徒歩だと一晩くらいは野宿になってしまうだろう。

それとなく帰る手段がないことを示唆しながらアルアスルはゼーローゼを一瞥した。


「今から山を越えるのは大変なことだ。諸君には部屋を用意してある。泊まっていきなさい」


ゼーローゼは馬車どころか優しく声をかけて宿泊を勧めた。

その場で遠慮する人間は誰もいない。全員が大人しく広間へと戻っていく。


「それに、諸君らに見せたいものもあるのだ」


年齢に見合わず悪戯な笑みを浮かべたゼーローゼにアルアスルはお宝の気配を察知して目を輝かせた。

唯一遠慮しそうだったたてのりもその顔を見て声を上げることも諦める。


「先に湯浴みをしてくるといい。部屋は使用人に案内させよう」


それだけ告げてゼーローゼは私室へと戻っていった。

代わりに髪色の暗いヒューマンが一行の前に現れて、長い廊下を先導する。

教会のものよりもふかふかしたマットに見たこともない細工や材質の壺、よくわからないが高そうな絵などを横目に通り過ぎながら莉音は受けたことのない待遇に恐縮した。


「なんか…ええんかな、こんな…」


「ご機嫌とられてるみたいで気持ち悪いよな~」


「そんな失礼なこと言うな!!」


気楽に笑って莉音に同意するアルアスルに、聞いたこともないたてのりの怒声が屋敷に響き渡った。



田舎のエルフが好んで着る着心地のいい軽くゆったりとした寝巻きはこれだけで屋敷を歩き回っても問題ないようなデザインになっていた。

風呂上がりに裾の長さを調整していた莉音とトウカを案内人が呼びにくる。

引きずる裾を気にしながら辿り着いた応接間には既に男性陣も通されていた。


「はぁーすごい…」


応接間にはおそらくゼーローゼが世界各地から集めたであろう数々の宝石や絵画、彫刻が壁や棚一面に並んでいた。

お宝に目がないアルアスルは落ち着いて椅子に座っていられずソワソワと部屋を見回している。


「この部屋だけでどんだけの価値があるんやろか…流石にこんだけは盗みきれへんなぁ」


たてのりはアルアスルを叱ろうと口を開くが、彼の性質や生業を考えて呆れたようにため息を吐いて肩をすくめるだけにとどめる。

しばらくして奥の重厚な扉が開いて部屋着に着替えたゼーローゼが姿を現した。


「どうだね。盗賊であるアルアスルくんならこの部屋を気に入ってくれるかと思ったのだが」


盗賊と呼ばれて一行は身構えるがゼーローゼは何も気にした様子はない。

むしろ、名高いお尋ね者であるアルアスルが一生懸命にコレクションを観察している様子にどこか得意げだった。


「いやぁ、もちろん!ただ金積んだだけで手に入る代物やないでしょこれ!王国の秘宝庫より値打ちあるもんもあるんとちゃうか…」


興奮気味のアルアスルにゼーローゼは頷いて目を細める。


「実はね…つい最近、この大国でも傾くような代物を手に入れてね…今後君たちが旅をするなら様々な財宝に出会うかもしれないが、これは裏市場でも滅多に流れない大変貴重なものなんだ」


もったいぶるゼーローゼにアルアスルは焦れて尻尾を振る。


「そんなええもん見せてくれるんですか?なんやろ~東の大陸の竜の逆鱗…千年に一度咲くとかいうトワの雌花…海底のオーパーツ…なんやろなぁ…なぁたてのん!」


アルアスルがあまりにも目を輝かせるため、最初はあまり興味のなかった一行も少しだけ期待が募ってきた。


話を振られたたてのりは背中に手をやって空を切り、剣を部屋に置いてきたことを思い出して顔を顰めた。


「…前王朝の祭剣とか……」


「え~もう!たてのんはいつも剣のことばっかり…」


呆れてたてのり手を叩くアルアスルを遮って向かいに座るタスクがテーブルに身を乗り出す。


「俺の出身の鉱山くらいでっかい宝石とか…!」


「そんなん家に入らへんのちゃう?きっと何百年も前の時代の葡萄酒とかやで」


石と酒を思い描き笑う横並びに座ったサイズ違いのドワーフにアルアスルはさらに呆れた。


「莉音ちゃんは聖職者がそれでええんか…?トウカちゃんは?なんやと思う?」


とてつもないお宝の予想で賑やかになった雰囲気に気分が良くなったトウカは、振り返ったアルアスルに話を振られてヘラッと笑ってみせた。


「まァ、ギルドには色んな人が来るからね。あたしが見たことないのはそれこそ古代ハイエルフのミイラくらいなもんだよ」


トウカの言葉にゼーローゼは意外そうに目を丸くして頷いた。


「いや、惜しいものだな。ミイラではないのだ。伝説と謳われる君のように美しい逸品でね。ここへ」


手を叩いたゼーローゼの後ろの扉が開く。

使用人によって大切に運ばれてきたものを見てトウカのペリドットの瞳から光が消えた。

仰々しい台車で運ばれたのは精巧な銀細工に乗せられた陶人形だった。

四肢はなく、本来肩の位置であるところには土台とお揃いの銀細工が施されている。

艶かしい鎖骨から細く伸びる首の先には凍るほど美しい造りの顔があり、ヘテロクロミアの瞳が瑞々しく潤っていた。

絹糸のような薄紫の髪は少しの乱れもなく背中へと流されて一つの束に結われて台座にまとめられている。

あまりに美しいそれが人形ではないと気が付いたのは、その瞼がわずかに震えたからだった。


「アロイス様、これが…?」


人形ではない、と気が付いた瞬間にそのものの口がはっきりと動いて澄んだ声が響く。


「なんだ、珍しく興味を持つんだなアレク」


「あれだけ興奮していらっしゃったのだもの」


アレクと呼ばれた人形のようなものは流暢にゼーローゼと言葉を交わした。


「えっ…え?えっ!?ちょ、ちょお待ってください!この…えっと…こちら?は…?」


最も早く言葉を取り戻せたタスクは上擦った声でゼーローゼの方を向く。

ゼーローゼよりも早く、考え込んでいたアルアスルが嫌な汗をかきながら口を開いた。


「聞いたことある…闇オークションの最高額を叩き出す他にはない極上品…伝説だと言われているセントエルフの…手足を切り落として装飾品にした生きたトルソー、セントエルフトルソー…」


「なんだと…?」


「い、生きた…?」


たてのりが嫌そうに眉を顰める。

莉音が目を回したのをタスクが咄嗟に支えた。


「まぁ、驚くのも無理はない。私も実際にこの目で見るまでは伝説だと思っていたからね」


ゼーローゼはパイプに火をつけて煙を吐く。


「しかも、これはトルソーの中でも特に希少価値の高い逸品であるネームドというものだ」


自慢げな声は話したくて仕方がないといった様子で一行の様子など気にした風もない。

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