二十話 ゼーローゼ公爵
一行をようこそと出迎え笑った顔は柔らかく上品で、口元にたくわえられた髭はよく整えられて恰幅の良い裕福そうな体格にもよく似合っていた。
アロイス・フォン・ゼーローゼはその姓に相応しい優しげな雰囲気を纏った老紳士であった。
「ゼーローゼ公爵、お会いできて光栄でございます」
馬車を降りてから一行を率いていたたてのりが深々とお辞儀をする。
莉音はすでにその足元で跪いており、それを見た残りの3人は慌てて2人に倣った。
「さすがたてのん、権力に敏感やな」
アルアスルは隣で巨体を精一杯縮こめているタスクにこっそり耳打ちした。
「こらアル…そんなこと言うたらまたしばかれんでぇ…」
タスクは呆れつつも笑いを必死で堪えていた。
エルフ族は厳しい身分制の歴史の下で生きていきた種族だ。
現代でも王家を中心とした選民思想が根強く残っており血が薄くなればなるほど混血として身分は低くなっていく。
また、見目が麗しい方が純血のエルフであるという意識も強く、エルフ族はかなり外見にこだわるものだ。
そんなエルフ族の中でたてのりの黒髪はひどく浮くだろう。
黒髪はドワーフや下位層のヒューマンに多く、つまり卑しく奴隷身分とされている生き物のものだ。
たてのりのエルフ島でのことは誰もよく知らないがヒューマンとのハーフエルフである以上ある程度は察しがつく。
権力や身分というものを酷く嫌っている一方で酷く怯えて人一倍敏感なのはそういった制度が身に染みて過ごしたからだろう。
たてのりが今回のお呼ばれに揺れる装飾や優雅な羽衣などをたくわえたエルフの正装ではなく、地味なヒューマンの正装を身に纏っているのは上級貴族に対する過剰なまでの敬意と恐れの表れだった。
そして、身分や権力などといったものとは程遠くで暮らしていた亜種のタスクや商人気性のアルアスルにはそれが非常に滑稽に見えていた。
「そう畏まらないでくれたまえ。皆、諸君らをお待ちかねだよ」
そう気前よく笑ったゼーローゼに連れられた広間は絢爛豪華の言葉そのままの光景が広がっていた。
煌びやかなシャンデリア、銀色に輝く燭台、通り過ぎる人々はビロードとシルクを翻して歩き、杖や首元では色鮮やかな宝石がまばゆく光を放っていた。
訛りのひとつもない高貴な話し声が弦楽器に合わせて上品に弾む。
純白のクロスがかけられたたくさんのテーブルには見たこともない料理が所狭しと並べられ、紳士淑女は立ったままそれらを摘んでいた。
給仕はそんな人々の間を流れるようにすり抜けながら金色の葡萄酒を運んでいる。
「こ…こんな…こんなやんごとない御所に…あてのような…ドワーフがいてもええんか…?」
眩しすぎる世界に莉音は目を回した。
「ははは!我が領地と偉大なる王国の城下町を脅かしていたモンスターを退治してくれた英雄を種族で蔑ろにするなどそれこそ領地剥奪ものだよ。それに、ドワーフ族あってのこの国の豊かさだ」
ゼーローゼは莉音の頭に手を置いてタスクとも目を合わせる。
「我が領地にもたくさんのドワーフが暮らしている。君たちには本当に感謝しているのだよ」
タスクは臆せずに笑顔を返した。
「今日はドワーフが2名来ると聞いていたからね、料理をたくさん用意したのだ。その関係で立食式になってしまったが、まぁこういうのもよかろう。遠慮せずに存分に楽しんでくれたまえ」
「は、はい…!」
莉音は目を輝かせてはにかんだ。
ドワーフは体こそ小さいが大喰らいだったり悪食だったりすることが多い。ヒューマンの成人の食事量で2、3人分くらいを平らげることが常だ。
ゼーローゼの細かい気配りに一同は感心し、遠慮なくパーティに参加した。




