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太陽の向こう側  作者: しのはらかぐや
第1章 結成
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第十九話 ゼーローゼ邸へ


装飾の多い馬車が広い田舎道をゆっくりと通っていく。

ツェントルムの街から山を一つ越えると、それまでのレンガ造りの鮮やかな建物や蒸気機関の景色とはうって変わって広大な田園風景が広がっていた。

遠くの高台では牧場であろうか馬や羊などが草を食べて鳴き声をあげている。

大都会ともいえるツェントルムも街から少し出れば郊外はのんびりとした田舎町である。


「これ全部ゼーローゼの土地かぁ~やっぱり豊かそうやな」


「こんだけ広かったらみんながここでずっと暮らしていけるんやろなぁ」


「思ったより色んな種族が住んでそうやな」


資産に敏感なアルアスルをはじめ、口減らしで貧しい村から出てきた莉音や体格で住むことができなかったタスクも次々と感嘆の声を漏らした。

アルアスルとタスクはツェントルムに滞在しているが、あの少人数では街の外に出るクエストは危険で受注できないため山を越えることはあまりない。

こういう機会でもなければ来ることもなかっただろう。

3人はゼーローゼから迎えとして寄越された貴族しか所有が許されない高級馬車に乗っていた。

広い窓にふかふかとした柔らかい座席、手慰みにワインやお菓子まで用意されて3人は大はしゃぎで長い旅路を楽しんでいた。


「それにしても、後ろの車はえらく静かやないか?乗り物酔いとかする方なんかな?」


アルアスルがいかにも高級な包装紙に包まれたお菓子を剥きながら後ろの車を気にかける。


「まぁ長旅で疲れてるんやない?トウカちゃんに至っては夜型やし、2人とも寝てるんかもしれんで」


タスクは気にした様子もなさそうにワインを3人分のグラスに注ぐ。

そしてふと窓の外を見て目を輝かせた。


「あっ、村の人らが手振ってくれてんで!おーい!」


「優しそうな人らやなぁ、豊かな証拠や」


タスクとアルアスルは歓迎してくれる村人たちに手を振りかえす。

莉音は外の様子ははっきりと見えないためテーブルの上の食べ物に釘付けだった。


「このふわふわしたやつ美味しい!」


「ケーキか!う~ん一流の味。おいアルも食ってみ」


「いやークエスト受けてよかったなぁ」


3人は顔を見合わせて笑った。


前の車の賑やかさは後ろの車にまで伝わっている。楽しげに笑う声が広すぎる車内の余白に反射して余韻を作っていた。

ガタガタと車体が揺れ軋む以外にこの車内には音がない。

トウカはもう3本目になるワインをボトルで飲みながら外の景色を眺めている。

たまにお菓子も摘むが一切の音を立てずただ静かに咀嚼し飲み込んでいた。

向かいに座るそんなトウカを一瞥し、たてのりはトウカとは反対側の窓に目をやる。

広い道を進む馬車の窓は一方は田園風景を見せているが、もう一方はただ並んだ森の木々が通り過ぎていくだけだった。

何も、することがない。話すこともない。

皆が一緒にいるときは話せるがいざ2人きりになると話題がなく無言になるというのはこの世にごまんとある例だ。

仕事でなければトウカは目の前の男のご機嫌取りをするよう媚びて話しかけることはなく、たてのりも都会で名を馳せた色女にヘラヘラと話しかける度胸や言葉のレパートリーを持ち合わせてはいなかった。

なんとも言えない居心地の悪さだけが2人の間を埋める。

(戦闘のときはいざしらず、なぜ今回も俺とトウカさんで分けたんだ…?)

たてのりの疑問は声になることすらなく、前の車の喧騒だけがただ車内に虚しく響いていた。

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