第十二話 タスクの発明品
降ってきそうなほど星で溢れるドワーフ村と違って、ツェんトルムの夜空は月の光すら地上に届いてきそうにはない。
雨でも降るのかと思うほど重く弛れる雲には鮮やかで官能的なネオンの光が映っていた。
宿の物置からガウをひいて出た莉音は空を見上げて目を細める。
星など、ななつの頃から見ることは叶わなくなった。
「よ~し、そしたら張り切って魔法陣探すでぇ!金金ぇ!」
面倒くさがりだと自称したのが嘘のようにアルアスルは張り切っている。
冷めた目で一同を見ているのかと思われたたてのりも既にエレジーに跨り気合十分だ。
「莉音、大丈夫?」
「あ…トウカ…はい、あっ、うん…」
ガウによじ登った莉音の前に真珠の輝きが現れる。
たてのりの太刀のチェックをしていたタスクはそれを聞いて飛び上がった。
「え!?莉音にトウカ!?この一晩で何が…」
興味津々であることを隠すことがない彼に真実を告げる者はいない。
誤魔化して笑う女ふたりにそれ以上タスクは何も言わなかった。
「とりあえずどこら辺に出るんか目星が欲しいなぁ」
アルアスルが背伸びしながらぼやく。
ツェントルムの街だけでもかなり広い。魔物を退治するにしても、魔法陣がさらに外の山にあるとなると一体どれくらいの日数を要するかわからない。
「そもそもどっち方面かもわからんしな~」
タスクは大きな体躯をさらに伸ばし周囲を見回す。
右手には愛用の大槌を、左手には戦いたくて仕方のなく今にも駆け出しそうなたてのりが乗るエレジーを抱えている。
「モンスターはどっちにせよツェントルムの街に来やったんやろ?とりあえず1体捕まえて、そいつに案内させたらええんとちゃう?」
自分の背よりも高い聖女の杖を背負い直して莉音がなかなか大胆な発言をする。
たてのりはそんな小さな姿を馬上から複雑そうな目で見下ろした。
初対面での軽蔑的な色は消えていたが、今度は距離感を測り兼ねているような感じだった。
「うーん、じゃあそうするか。二手に分かれてツェントルム内のモンスター探すとこからってことで!えーじゃあ班分け…戦力が…偏るなぁ…」
ガウにもたれかかって半分もふもふに埋もれていたアルアスルが悩ましげに首を傾ける。
たてのりひとりに戦力は頼りきりのパーティだ。二手に分かれれば都合が悪い。
「でも効率考えるとな。こう分かれるか」
タスクはガウごとアルアスルと莉音を引き寄せ、トウカをたてのりの方へ押しやる。
たてのりのアシストをトウカにやらせて、戦力の低いアルアスルとタスクには回復として莉音をつける形となった。
いざ歩き出すというとき、タスクは思い出したというようにたてのりの後ろに乗り上がるトウカに小さな玉をふたつ渡した。
「これは?」
トウカの白銀の手に黒ずんだ玉はやけにはっきりと見える。
タスクは自信満々に笑うと腰の巾着から同じものを取り出し、地面に叩きつけた。
「うわっ!」
途端に大量の煙が噴き出し、続いて細い光が勢いよく空へ飛び上がる。
光は重く弛れる空に一瞬赤と青の花を描いた。
その儚い花を追うように耳朶を震わせる大きな音が響き渡る。
「俺らが離れるときに使ってる連絡手段や。渡し忘れるところやった!今回やったら青をモンスター発見、赤を緊急事態発生で使おか」
「これ、タスクが作ったの?すごいね」
トウカは素直な賛辞を口にして玉を大切に持つとたてのりのマフラーを掴んだ。
たてのりはそれを合図にエレジーの横腹を蹴って駆け出す。
見る間にふたりの姿は東の闇へと溶けて消えた。
「じゃあ俺らも行こうか」
「今夜中に見つかるかなぁ」
弱気な莉音の背をタスクが叩きガウを走らせる。
一瞬の間を置いてすぐに己の足で駆けてきたアルアスルが隣にぴったりとついた。
タスクは美しい装飾の施された板のようなものに乗って激しい音を立てながら少し後ろをついてきている。
「わからんけどなぁ、お得意の神さんに頼んどいてぇや」
一糸も乱さない呼吸でアルアスルがそんなことを言ったばかりに、アルアスルとタスクはしばらく大音量のソプラノに付き合わされることとなってしまった。




