第十話 ギルドマスター
「いやぁ、昨晩はうちのトウカを助けてくださったそうで。どうもありがとうございました」
ツェントルムの街随一の酒場型ギルド“シュテルンツェルト”のマスターであるシリウスは少数のパーティに深々と頭を下げた。
夜もそこそこ更けて稼ぎどきだという時間なのに他に客はいない。本来休業日だった日にわざわざ店を開けてくれたようだった。
メンバーが座らされた席には酒やつまみなどがいくつも並べられている。
「いや~攻撃馬鹿のたてのりがいて良かったですわ。それにしてもこんな街中にモンスターが出るなんて…トウカちゃんから聞いたけど最近多いとか?」
「なんか物騒やなぁ。依頼クエストは、どれどれ…」
串に刺さった肉を頬張るアルアスルが返事をしながらシリウスの顔を見た。
タスクは酒を飲みながらクエスト貼り出しの掲示板に目を滑らせる。
「渓谷の魔物狩りがランクBで金貨300…モンスターの爪採取がランクDで金貨120…街のモンスター討伐がランクD…金貨…350!?なんやこの依頼、ランクDで報酬高すぎんか!?」
タスクの声に一同が掲示板の方を向く。
シリウスはクエストの紙を剥がすとパーティメンバーが座っているテーブルに持ってきた。
「昨晩のはこれですよ。毎晩現れるモンスターを全て倒したら…って報酬で。最終報酬のようなものです。とはいえモンスターがどこから来るのか分からず、毎晩のことですから…クエストを貼り出してからもう3ヶ月になりますね」
ギルドで受けられるクエストというのは一般的には難易度ごとにランク分けがされている。一番上がSSで最も低いランクがFというギルドがほとんどだ。
そこから自分に見合ったクエストを選んで受注し、達成されれば依頼主からギルドを通して報酬がもらえるという仕組みになっている。
依頼主は貴族から農民、何百という団体から個人まで多岐に渡るが受注する者は管理や報酬の都合上ギルドに所属という形を取らなければならない。
信頼関係が必須になってくるため完全紹介制のギルドがほとんどだが、シュテルンツェルトはその知名度や集客力を利用してあらゆるクエストを募集、受注することのできる開放型ギルドとなっている。
ギルドに所属する必要はなく、ギルドマスターの許可の証である爪紅を塗れば誰でもクエストが受注できるようになっていた。
そのためシュテルンツェルトには多種多様なクエストや人々が押しかけていて繁盛しているのである。
爪紅はいずれ剥がれ落ちるためクエスト続行には定期的にギルドを訪れる必要があり、それをもって秩序を保っているのだ。
「3ヶ月ねぇ…夜に活動することないから全然知らんかったわ。そんだけの期間毎晩出てるんやったら、どっかにモンスターの召喚陣でもあるんやないですか?無限湧きならどんだけ倒してもキリないな」
アルアスルが報酬と睨めっこしながら呟くと、シリウスは苦笑いして頬を掻いた。
「その可能性は高いんですけどね…以前に一度受注したパーティのメンバーいわく、毎晩違う場所に召喚陣が現れてるんじゃないかと…」
「それはめちゃくちゃ厄介やな…」
「昼には跡形もなく…我々もいちパーティとしてクエストに乗り出したんですが、なんせ夜はね。ギルドと酒場の経営があるもので…」
シリウスの言葉にアルアスルは腕を組みしばらく考える素振りをした。他のメンバーは気にすることもなく運ばれた食事と酒に舌鼓を打つ。
あれもこれも食い尽くしてそろそろ解散の雰囲気が漂い始めたとき、アルアスルが急にニタリと笑った。
莉音はなんとなく寒気を感じてアルアスルの口を塞ぎに行くが逆に口を押さえ抱えられてしまった。
「ほんなら俺らにそれやらせてもらえません?もちろん報酬は山分けでいい。ただ、依頼主にちーっと掛け合うてほしいんですわ」
「ほう?」
「“1週間以内に召喚陣を破壊できたら報酬を倍額にしてほしい”ってね」
アルアスルのウインクが炸裂する。
その場にいた全員がアルアスルのウインクで飛んできた星を喰らい一瞬呆気に取られる。
「…いやいや!こら!アル!そんなんええわけないやろ!!」
タスクが声を荒げ、莉音も唸りながら足をばたつかせて抵抗した。
トウカは新しく酒を注ぎながら笑いを堪えてシリウスを見る。シリウスも面白そうに優しく笑っていた。
「それでしたら、大丈夫だと思いますよ」
「えぇ!?」
一同の視線はシリウスに瞬間的に移った。




