番外編小噺 風呂での一悶着③
タスクは唖然とした。確かに、目がこれでは足場の悪い風呂に一人で入るのはなかなか危険だろう。
慣れていない大きな場所であったら尚更だ。しかし、莉音ももう成人はしている。
二十年も生きてきて、一人で風呂に一度も入らなかったなんてことはないだろう。
「え、教会ではどうしてたん?教会は広い大湯やろ?」
聞いてからタスクは後悔した。教会にはシスターがかなりいて、女性集団といっても過言ではない。
皆が一度に風呂に入るわけではないとしても、誰かしらは入浴を手伝ってくれたのだろう。
それにしても、会ったばかりの異性に風呂に入れてもらうのをここまですんなり受け入れているのはおかしい。聖女は肌を出すことすら嫌うはずだ。
タスクの思考を遮って莉音はさらなる爆弾を落とした。
「教会では神父さまに入れてもらってたで」
「……しんぷさま……?」
神父はもちろんシスターではない。
「神父様……って……男?」
「そうやけど……?」
なぜ、女性集団である教会でわざわざ数少ない男が聖女を風呂にいれているのか。
「ちょお!その神父様って大丈夫!?どんなドワーフ!?いくつ!?」
「神父様はドワーフやなくてヒューマンやで。今年おいくつやったかなぁ、あてよりちょっとだけ上くらいとちゃうかな?」
「ロリコン!!!!???!?」
タスクの中で教会の秩序が崩れていく。
「神父様はな、お肌のご病気やねん。あてと一緒に湯舟に入るとお湯に強い回復効果が宿るさかい、一緒に入ってるねん」
「そ……そうなんか……」
物心つく前に村を出て長らくであり、神父のことを全く知らないタスクはそれ以上何も言うことができなかった。
ひとまず、ロリコンのことなど置いておくことにする。問題は今の状況だ。
宿泊客は自分たちしかいない上に、宿主の妻は随分前に他界している。こんな深夜にあいている近くの施設はない。
つまりこの宿とその周辺には女性は莉音しかいないのだ。
なにより本人が男性に風呂に入れてもらうことを何ら違和感なく受け入れていることが何よりたちが悪かった。
「ゆっくり故郷の話でもしたいし、タスクとお風呂入ろうかなと思って!入れてくれん?」
タスクは散々悩んだ挙句、莉音の服に手をかけた。
「ふっふふーんお風呂お風呂~」
「風呂は明日でいいって……」
「あかん!たてのり、返り血どころかゲロまみれやねんぞ」
しっぽを左右にご機嫌に振りながら湯気で曇った引き戸を開ける。猫は水が嫌いだというが、人型のときは不思議とお風呂は好きなのだ。
アルアスルは脱衣所で未だにヨロヨロするたてのりの鎧を全て外し、無理やり風呂に押し入れた。
安宿とは思えないほど広い風呂はパーティ皆のお気に入りだ。さすがに露天風呂はないが、大湯と水風呂、薬湯があって贅沢なものである。
ひとまず身体を流そうと大湯の湯を桶に汲んだアルアスルは、それまで湯気で見えなかった人影を捉えた。
「あれ!部屋に声かけて返事ないと思ったら、タスクもう来てたんか」
振り返ったタスクは温泉にいるのに疲労困憊といった表情をしていた。目元にはタオルを被せ、何かを見ないようにしている。
ぼんやりするたてのりに頭からお湯をかけていたアルアスルは違和感を覚え、タスクの裏側を見る。
びっくりするほど小さな肢体ながらしっかりした豊満な肉付き、本来ならば種族として浅黒くあるはずが、教会で過ごしたせいで比較的色白な手足。
「もしかしてアルちゃん?」
「え……あ…?」
タスクの陰から嬉しそうに顔を出したのはもちろん全裸の莉音だった。
「え…うわーっ!!!!!!!」
「何だネコ、うるさ……うわぁー!!!!!!!」
驚いた拍子にたてのりが頭から湯舟に落ちる。
「なんで男湯に莉音!?痴女!?!?」
「ちょっとな……後で話す……」
ぶくぶく沈むたてのりに構う者はいない。結局アルアスルもタスクと同じように目元をタオルで覆って風呂に入ることになった。
「大勢で入ると楽しいなぁ」
呑気な莉音の声に、一同は本気で女性メンバーを探すことを決意した。




