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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
監視記録:重要人物の行動監視及び報告
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ミーム猫①


「うふふ!猫は可愛いな……」



 橘が談話室で休憩をしていた時のことである。最近の彼女の日課は動画共有サイトの動画を漁ることだ。従って、待機中の彼女は空き時間を使ってある動画を見ていたのである。



「あっ。センパイもそれ観てんの?」


「あぁ、有坂。うん、最近ハマっちゃって。ずっと観てるんだよね。」



 柄にも無く公衆の面前で笑う橘の姿が目に止まり、有坂は声を掛けたのである。ふと、彼女が観ている携帯端末の画面に目を向けると猫がくねくねと踊っている動画が流れていた。この動画はなぜか巷で大ブームを起こしているらしく、同じ猫の画像素材を使った同じ様な構成の動画が有志によって作られまくっている。出てくる猫も可愛いが、曲もキャッチーで、動画の内容も幅広く妙な中毒性があったのだった。


 

「皆よく動画なんて作るよねぇ、素人なのに。凄いわ。」


「知ってる?これ、猫ミームって言うらしいぞ。」


「……猫は分かるけどさ、ミームって何?」



 ミーム。有坂にとってはあんまり聞き馴染みの無い言葉だった。



「なんだ、有坂知らないのか。ふふん、教えてやる。…………えーと……」



 ミーム、ミーム……流行り、だっけ?言語化するのが難しく、橘が言葉に詰まっていた時だった。



「ミームとは、情報の遺伝子みたいなものです。」



 会話に乱入してきたその声を辿ると、好青年といった言葉が似あう、見覚えの無い男だった。



「……?誰ですか?」


「あぁ、いえ。すみません、お節介だったかも……。あなた方が気になる話をしていたから。僕は只の通りすがりの研究員です。」



 研究員と聞いて有坂達は納得した。外見はお世辞にも体力がある様には見えない。何なら、ナヨっとしていて如何にもインドア派といった風体だからだ。


 

「はぁ。それはどうも……。」


「続けますね。即ち。ミームとは脳から脳へ伝播する複製可能な情報です。例えば、ファッションショーが挙げられます。秋服コレクションとか言って、ファッションショーが行われるとメディアや訪れた人が、今年の流行りとして認識します。それは雑誌やテレビといった様々な媒介物によって、人々に拡散される訳です。今年はファー付きの服が流行るぞ、とかヒョウ柄が流行るぞ、とか。すると、それを知った人が同じように拡散能力を持つ訳です。」


「成程……。所謂、刷り込みって奴ですか?」


「厳密には違うけれど……。まぁ、平たく言うとそう言うことですね。ミームは、文化を形成する要素です。家の中では靴を脱ぐ、だとか。家に帰ったら手を洗う、だとか。食事をする際には頂きますと言う。……これも全て、日本国内でミームが人々の間に広がったものです。」


「へぇー。面白い。貴方はなんでそんなに詳しいんですか?」


「まぁ、財団で働いているとミームという言葉はよく聞きますし。僕ら研究員はそれも取り扱うから。……それじゃ、僕行かなきゃ。またどこかで会いましょう。」



 言いたいことを全て言い切ったのか、その男は立ち去ろうとした。



「……あの、お名前は?」



 橘が名前を聞いたが、その声はどうやら届かなかったようである。



「行っちゃった。」


「突然会話に割り込んできて何かと思ったけど……。分かりやすかったな。」


「おっと!もうこんな時間。有坂、そろそろ出発の時間だ。」


「OK。駐車場に行こう。」



 今日は遅めの出動だ。赤城から応援依頼が来ている現場に午後から向かう予定だったのだ。数か月前に別の現場で一緒に行動して以来、赤城から何度か応援に呼ばれて一緒に行動をする事が増えた。経験豊富な赤城に指導してもらいながら仕事をするのは橘にとってはいい経験のように思われたし、有坂も誰かに音頭を取って貰えるのは気が楽だった。


 社有車を走らせる事数時間。高速道路や田舎道を梯子し、2人は地方都市の**市を訪れていた。かつては交通の要所として発展し、現代では温泉街や宿が立ち並ぶ観光名所である。とはいえ、都市部から離れた山間部に位置する為、住人の高齢化が著しい。都市部の若者へ向けて移住を誘致したり自作PR動画をネットで公開するなど、住民達はあの手この手で涙ぐましい努力をしている、よくある田舎だ。


 2人が車を降りると、卵の腐った臭いがあたりに立ち込めている。有坂は昔、どこかでこのにおいを嗅いだことがあったのを何となく思い出した。



「これって……硫黄のにおい?流石、温泉地だなぁ」


「温泉かぁ、滞在中に入りに行きたいな。」


「やったぁ。俺、アハホテルにはもう飽きてたんだよね。」


「そう?私はあの感じ好きだな。綺麗だし、朝食ビュッフェとか最高だろ。ベッドとかテレビとかの配置がどこに行っても似ているから第二の家って感じで安心するし。あの距離感?も良いんだよね。……さて、赤城さんのホテルは……っと。」



 観光客の気分になってしまう前に、本来の目的をまず達成しなくてはならない。赤城が指定したホテルが待ち合わせの場所なのだ。住所情報を頼りに、地図アプリを駆使して歩くこと10分。


 

「あっ!おーい、こっちよ!」



 手を振る赤城を発見した。その背後には、年季の入った、いかにも老舗旅館といった風体の立派な建物が鎮座していた。



「……職権濫用ってやつですか?」


「あら、失礼ね!今回はいいお宿に泊まりたかったら宿泊費申請上限のオーバー分は自費よ。経費は無駄にはできないわ。」


「私たち、こんな旅館に泊まって良いんですか?」


「いいのよ、たまには!貴方達も荷物部屋に置いてきたら?一服したら私の部屋で打ち合わせしましょ。」

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