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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
とあるDクラス職員の記録
9/94

もう一人の観客①

「……外だ…」


 有坂にとっては久しぶりの街である。店に置かれている商品や看板の広告を見ると、知らない物ばかりだ。自分が刑務所暮らしをしていた、たった数年でこんなにも世間は様変わりするものなのかと驚いた。



「君が橘さん?」



 突然歩道に設置されているベンチに座っていた、スーツの上に黒いジャンパーを羽織った男が橘に声を掛けた。



「貴方がエージェント:シグマ?」


「いかにも」



 そう答えるとシグマと呼ばれた男は手を差し出して全員と握手をした。



「何?エージェントって。スパイみたいだな。」


「…お前がD-0419だな?よし、説明するから付いてきてくれ」



そして、一行は人通りの殆どない細い路地に入っていった。途中、橘が有坂に耳打ちした。



「エージェントっていうのは現地でScipの調査をする財団職員です。今日は彼の指示に従ってもらいます。」







「日暮シネマ…?」



 それはひっそりと佇んていた。かつては華やかに輝いていたであろう看板を縁取る電球は割れ、全体的に劣化して傾いてしまっている。日当たりが悪いの周りの建物もコケやツタが生え、灯り一つ付いていおらず人の気配が全くしない。入口にある掲示板には上映予定の映画のポスターやスケジュールが貼られていた。ブルーフィルムの卑猥なポスターは色褪せ、おまけの様にインディーズ映画と思しきチープなポスターも貼られている。

 入口のチケット売り場に座り煙草を吹かす妙齢の女性はこちらに気付くと気だるげに長く煙を吐き出した。




「こっちだ」



 じっと視線を向けてくる受付の女性の前を通り、館内の一室に案内される。中は建物の外観から予想できないような機材やモニターが所狭しと並び、ケーブルが乱雑に地を這っていた。



「最終上映時刻は22時。それまでここで待機してもらう。」


「ちょっとまって、俺は映画館で何をするのさ?」


「映画館に来たらすることは一つしかないだろう?映画を見てもらうのさ。」


「映画鑑賞?それが仕事?」



 後で詳細は話すと言って有坂を一人残し、他の者は全員ミーティングを行いに別室へ行ってしまった。

 有坂に説明がなされたのは、何時間も後の事だった。



「D-0419、今日の任務の説明をする。特別収容プロトコルに則り、さっきも言った通りお前には映画を観てもらう。一人でだ。…だがもう一人客が現れる可能性がある。無線を渡すので、万が一そいつが現れたらこっちに連絡しろ。ビデオカメラも渡す。回しっぱなしにして気になるところがあったら映せ。」


「それだけ?」



 これだけ待たされるのだから大層な内容に違いないと腹をくくっていた有坂は拍子抜けした。



「それだけで済むことを祈ってるよ。さあ、上映まであと15分だ。小便済ましとけよ。ウチは途中退館禁止だからな。」


「良いですか?D-0419、エージェント:シグマの言うことに必ず従ってくださいね。」



 橘が念を押した。



「わかってるよ。こっちは釈放がかかってんだからちゃんとやる。」



 エージェント:シグマの他に2人のエージェントがおり、それぞれエージェント:ラター、エージェント:裕子といった。彼らは有坂を劇場内まで見送ると、入場口のドアの前で待機し、SCPが出現したら有坂を避難させる手筈になっている。

 エージェント:ラターとエージェント:裕子の二人に見送られ、重厚な二重扉が閉じられた。



―D-0419、聞こえるか?


「あぁ、聞こえるよ。」


―ヘッドカメラの映像をチェックする。見渡してみてくれ。



 有坂は言われた通り、場内を見渡した。座席数は50程で、やはり小ぢんまりとしていた。赤いシートの椅子は、古さに反して座り心地がよさそうだった。



―真ん中の席に座ってくれ。



 有坂は階段を下り、中央あたりの席に座る。



「F-12って席に座った。」


―OK。じゃあ定刻通り上映する。




 そして、ブザーとともに映画鑑賞は始まった。

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