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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
閑話④
88/94

成瀬研究チームの雑談ログ②


「あれ?これ、書き間違いかな……?」



 月末の報告書の提出が終わって、いつもの激務が落ち着いたある昼下がり。珍しく雑務も片付いていて、差し迫った業務もない、つまり大変穏やかな一日を過ごしていた星谷研究員は、勉強を兼ねて膨大な報告書を読み漁っていた。アメリカ・ドイツ・中国など世界各国から常時提出され続けているアノマリーに関する報告書は、すべて目を通すのは不可能に近い程の数がある。その中から興味を引いたものを厳選して読んでいたのだが、とある報告書を読み始めて、思わず独り言が出てしまった。



「どうしたの?星谷君。」


「あぁ、成瀬チーフ。その……。オブジェクトクラスってあるじゃないですか。keterとか、safeとか、収容難易度で振り分けられるクラス。……この報告書は違う書き方しているから、何かの間違いかなって思ったんです。」



 星谷の声を聞きつけた、同じく暇そうな成瀬がチェアを滑らせて、わざわざ星谷のデスクまでやって来てパソコン画面を覗き込んだ。



「どれどれ?……報告書No.SCP-210-FRね。」


「”オブジェクトクラス:ウサギ?”それに、”脅威レベル:ウサギ”って……。ふざけてます!僕、脅威レベルなんて聞いたことありません。これ、書いた人どうかしてるんじゃないですか。」


「あら?そう?変わったオブジェクトクラスで書かれている報告書、実は結構あるのよ。」


「……そうなんですか?」


「それに……あなたが見た報告書はフランス支部の報告書よね。フランス支部の他の報告書を見てみれば分かると思うけど、脅威レベルという項目が独自に設定されているのよ。元来備わっているオブジェクトクラスに付随して、より危険度をはっきりさせる名目で生まれたフランス支部独自のシステムって聞いたことがあるわ。確か……危険度は色で分類されるの。危険度に合わせて、7色だったかしら。白・青・緑・黄・橙・赤・黒……。」


「へぇー、そうなんですね。僕、お恥ずかしいことに知りませんでした……」


「まぁ、私たちは日本国内の仕事が中心だからね。知らないのも無理はないわ。国によって書き方が微妙に違っているみたい。それでも概ね一緒だけどね。」


「なるほど。だから日本支部でもわざわざ英語でオブジェクトクラスが設定されているんですね。財団はアメリカが本部だから、日本支部は本部に倣ったってことですね。日本式のユニークなオブジェクトクラスを設定しても面白そうなものですけどね。危険度-虎とか、危険度-鬼とか、危険度-竜とか……分かりやすいし、かっこよくないですか?こう……少年心をくすぐるというか。」


「もう、漫画を読み過ぎよ。」

 

「……あれ?でもチーフの話だと、フランス支部のアノマリーの脅威レベルは色で示されるんでよね。だったら、この報告書……SCP-210-FRの脅威レベル表記ってやっぱりおかしくないですか?だって、脅威レベル:ウサギですよ。……どういうことなんだろ?というか、この報告書自体が奇妙です。”SCP-210-FRはウサギです。”って?おかしいですよ。」

 

「きっと報告書内に答えがあるわ。よく読んでみたら?」


「……。”説明”を読んでいるんですけど、最初は、可愛い黒ウサギの説明をしているだけですね。それが段々、物質的な説明になっていってるというか……。わ、肉に……。あぁ、シチューになってしまった……。いや、待て。ん?……何だこれ?」


「……ちょっと見せて?」

 


 成瀬は星谷のPCマウスを奪い、報告書を頭から読み始めた。しばしの沈黙が流れる。

 


「…………。」



 成瀬がPCからやっと顔を離したかと思えば、腕を組み何かを逡巡し始めた。

 


「成瀬チーフ?」


「……このオブジェクト、危険ね。担当だった博士が死んでる。……後任の博士も危ないんじゃない?フランス支部は、その事に気付いているのかしら……?」


「え?どういう意味ですか?確かに意味の分からない報告書でしたが……。」


「よく読んでみて。君ならこのアノマリーの本質がわかるはずよ。……私、ちょっとフランス支部の知り合いに問い合わせてみる。大丈夫だと思うけど……まぁ、念の為。」



 成瀬は星谷にそう言い残すとケータイをひっつかんでチェアを颯爽と転がしどこかへ行ってしまった。



「あぁ、もしもし?レオン、確認したいことがあるんだけど……。」



 遠くの方で成瀬が誰かと電話を始めてしまった。一人残された星谷は、しばらくその報告書とにらめっこすることになったのだが、その危険性に気付いた時には成瀬が電話を終えて戻ってきた。



「どう?星谷君、分かった?」


「……これ、報告書作成者の博士がおかしくなってたのではないのでしょうか。ウサギの事を崇拝しちゃってますよね。そしてシチューにして食べた。……しかし、その亡くなった博士の家にはウサギが生きている。……このウサギは生き返った?」


「どうかしら。断定はできないけれど、同一個体だとしたら不死鳥のように復活したのかしらね。」


「でも、それよりやばいのは後任の博士がまるっきり同じ文章で報告書を書き始めようとしちゃってるところです。……前任者と同じ結末を辿るような気がしてならないのですが。」


「おっ。気づいちゃったわね。まさに、私が危惧していたのはそこよ。……で、フランス支部の友人に聞いたんだけど。このままでいいみたい。」


「え?でも、この後任の博士の命が危ないのでは?」


「しばらくこのままにしておくらしいわ。解決方法が分からない限りね。」


「そんなぁ!折角その危うさに気付いたっていうのに。誰かが被害に遭い続けるじゃないですか。そんなのって……。」


「……まぁ収容できてるんだしいいんじゃない?」


「……確かに。」



 財団はアノマリーを確保・収容・保護できていたら良いのだ。必ずしも無力化しなくてはならない、という決まりなど無いということを星谷は思い出した。



「問題解決ね。……さ、私、次の研究のテーマ考えよーっと。」



そういうと、成瀬はスイ―っと転がし自分のデスクへと戻っていった。



「……僕も別の報告書読もうっと。……なになに?世界中のセシウム時計がちょっとだけズレる?……それだけか……次の報告書は……。」



 ……星谷も再び報告書の海へと潜るのであった。




この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

Author:(account deleted)

Title:SCP-210-FR -ウサギ-

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-210-fr


Author:shinjimao

Title:SCP-009-JP -閏秒-

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-009-jp

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