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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
チャーリー・アンダーソンと尺度N
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それほどNじゃない⑥完

「じゃあ続きをやるとしよう」



 4人は1時間程の休息を挟んだ後、様々な物のN度を調べる為に再び例の部屋に集合した。幾つかの物体のオブジェクトを調べた(迷走するだけだった)後、スヴェンスカは一旦自室に戻り、大きなファイルを持って再び現れた。



「あの、私……N度を知りたい人物が居るんです。次はその方でも良いですか?」


「いいとも」



 スヴェンスカは分厚くファイリングされた住民リストから1枚の書類を抜き取り、Balance.aicに読み込ませた。



「それは誰?」



 エイダが問いかけると、スヴェンスカはその資料をエイダにひらりと見せた。職業や出身地等といった個人情報が記入された資料だ。このアパートを借りる際に管理人によって作成されるものだという。資料の右上に、細身の男が映っている証明写真が貼り付けられている。



「彼はダミアン・ピスク氏です。この部屋の最後の住人でした。」


 


 <#ダミアン・ピスク N ness=0>



 

「……。0ですって……?ねぇ、マーティン。この人工知能壊れてんじゃないの?」


「壊れているもんか。エラーも出てないし正常だよ。ゼロはゼロだ。」


 

 マーティンは自信たっぷりにそう主張したが、エイダはどこか納得のいかない様子だ。そんな中、エイダは確信したようにもう一つの提案を行う。

 

 

「ねぇ皆さん。もう1人……N度を調べても良いですか?」




 

<#ラングドン・ピスク N ness=ERROR:整数値オーバーフロー>





 Balance.aicのモニターに表示されたエラーの表示を見てマーティンが叫んだ。



「測定不能だと?こんなの初めてだ!」


「おい、スヴェンスカ。この人物ってもしかして……。」


「えぇ、そうです。ダミアン氏のお兄さんです。……ほら。例の、大学に勤めていらっしゃった……。」



 エイダは昨日の事を思い出していた。そう言えば、初めてこの部屋を訪れた時に、スヴェンスカが説明をしていた。著名な大学に勤める数学者を兄に持つ、元住人の話である。


 

「それにしたって、なんで最後の居住者の兄弟のN度がぶっ飛んでいる訳?ピスク兄弟の数字はどちらもおかしいわよ!」

 


 N ness=0とオーバーフロー、両極端な数字であることは間違いない。しかし、N度が何を表した数字なのか判明しない限りはこの乖離の真意を理解することは難しいだろう。皆が考え込む中、ぽそりとスヴェンスカが唇を震わせた。



「……私、何となく分かっていました。バスタブの中のオブジェクトが何なのか。……そしてN度が何なのか。」



 ――事態の突破口は意外な人物だった。

 


「スヴェンスカ、聞かせてくれ。」



 チャーリーが促すと、彼女は慎重に話し始めた。



「N度は……私の憶測にすぎませんが、きっと……オブジェクトから見た価値なんです。つまり……N度が0だったダミアン・ピスク氏は…………。自分の価値が限りなく低いと感じていたのでしょう。それこそ、ボールペンや犯罪者以下だと。逆にラングドン氏のN度がオーバーフローしていたのは……。分かるでしょう?身近な存在の人が立派だと、どうしたって比較してしまって劣等感を抱いてしまう。……光が闇を生むみたいに。」


「成程な。……そう言われてみると、しっくりくる。やたら人間のN度が高かったのは、劣等感からくる無条件のリスペクトだったという訳だ。」


「分からないわ、私には。兄弟が立派だからって何?別の人生を歩む他人じゃない。……そんな事で……?」


「お前には一生分からない感覚だろうよ。」



 生い立ちに問題があるエイダが、現在のようなタフな精神の持ち主に育ったのはある意味奇跡だったと言えるだろう。彼女は良くも悪くも、人の感情に鈍い。それは時には強さにもなるが一方で誰かを傷付ける危うさを孕んだものだ。――まぁ、相棒たる自分の長年にわたる涙ぐましい努力の賜物なのだが――。チャーリーは心の中で独りごつ。万が一エイダに聞かれでもしたらえらい目に遭うこと間違いなしである。



「彼は精神科から薬を処方されていました。もしかしたら心の病気だった可能性もあります。自分に価値が無い……自分の存在を消してしまいたい……そう考えていたのかもしれません。」


「ダミアン氏がこの異常現象を引き起こしたって訳?」


「あくまで私の想像です。でも……私も彼の気持ちがほんの少しだけ分かるんです。」


「まぁ過去にも、人間が何かを強く願ったことで異常現象が発生した例はあるから可能性は0じゃないな。自分の存在を無くす。……そんな力が発現したのかもな。」

 

「バスタブの中にあるオブジェクトは、つまり……。そういう事?」


「多分。」


「…………。」

 


 口には出せなかったが、4人は同じ考えに至っていた。

 姿を消した最後の住人、ダミアン・ピスク氏。

 ――行方は未だ不明である。



「もう皆分かっただろ。……だが全てが解明された訳じゃ無い。この異常現象がいつ発現したかは気になるところだな。ダミアン・ピスク氏の生前か、それとも死亡してからなのか。それに、この異常現象が引き起こされたとするなら自然発生的なものなのか、別のSCiPの影響なのか……。調べることはまだまだある。」


「そうですね。まだ調査の余地は有りますが、Balance.aicを用いた調査はこれで十分でしょう。……これだけの比較対象のデータがあれば、報告書としての体裁を保てるだけの内容が書けそうです。……あとは、私1人で何とかやり切って見せます。」



 肩の荷が降りたのか、スヴェンスカの表情はどこか穏やかだった。その表情を見ると、エイダの顔も綻ぶのであった。



「なんだかんだ役に立てて良かったわ!……これで私達もお役御免かしら?」

 

「えぇ。休暇中なのに来てくれて有難う。チャーリーにエイダ……。それにマーティン。……態々遠いところから。本当に有難うございました。情けない話ですけど、私1人だと……きっと、ここまで辿り着けませんでした。……もっと、私、ちゃんとしないといけませんね。」


「何言ってるのよ。スヴェンスカ。私達はチームよ?」


「チーム?」思わずスヴェンスカは復唱した。今まで、どこに行ってもお荷物扱いされてきた彼女が初めて掛けられた言葉だった。

 

「そうだ。俺らは組織で働いてるんだ。国境を越えた組織でな。……志は同じだ。俺達は1人でアノマリーと戦っている訳じゃない。」

 

「そうだわ!……スヴェンスカ、今夜ヒマ?ミュージカルを観に行こうと思っているんだけど一緒に行きましょうよ。折角出会えたんですもの。」



 スヴェンスカの手を取り、目で行こうとエイダは訴えかけた。その手の温もりにスヴェンスカは戸惑いつつも、その温もりを心地よく掌で感じていた。

 


「ミュージカル……。私、そういうのあんまり分からなくて……。…………。いいえ、是非。一緒に行きたいわ、エイダ。」



 スヴェンスカがそう言うと、エイダは弾けた様に歓声を上げた。



「ワォ、決まりね!マーティン、貴方はどう?」


「お誘い有難う。……でも、今回は遠慮します。」



 あら、そう?とエイダは気にも留めていない様だ。マーティンはチャーリーに向き直った。

 


「チャーリー、またな。生きていたらどこかで会おう。」


「……あぁ。またな。」



 固い握手を交わすと、マーティンはいつの間にか片付けていた人工知能セットを持ってアパートを去っていった。



「……それじゃ、飯でも食いに行こうぜ。」


「え?さっきピザ食べたばかりじゃ無い!」


「ピザなんざ……握り潰してみろ。そんな大した体積ないだろ。腹が膨れると思うか?」


「もう、呆れた。」



 ――スヴェンスカはそんな2人の掛け合いを見てくすりと笑うのであった。

この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。


Author: (account deleted)

Title: SCP-4517 -それほどNじゃない-

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-4517



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