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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
チャーリー・アンダーソンと尺度N
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それほどNじゃない④


  翌日、10:00。チャーリーとスヴェンスカが再びスヴェンスカの住む例のアパートに向かうと、アパートの前で宅配業者らしき服装の男とかち合った。なるべく中で一緒になりたくない。そう思ったチャーリー達は目を合わせることなく彼を通り過ぎようとしたその時だった。すれ違いざま、男がエイダに突然話しかけたのである。



「おはようございます。カンガルー運輸ですが、貴方はスヴェンスカさん?」

 

「……俺らも彼女に用事があるんだ。……ん?」



 チャーリーは男の顔をじっと見つめた。明るい髪の色に、口から除く白い歯。爽やかな印象を与えるその男の顔に見覚えがあったのだ。

 


「あれ?お前、マーティンか?」

 

「よぉ、チャーリー。その腹、一発でお前だと分かったぜ。相変わらずだな。」


「マーティン!!何だ、来るなら一言連絡寄越せよ!」


「驚かせたかったんだ。お前がイングラインドに居ると聞いて指導員兼輸送係に立候補したんだ。まさかこんなところで会えるなんてな。」



 エイダは、自分をそっちのけで盛り上がる2人を冷めた目で眺めた。チャーリーがここまでハイテンションになることは珍しいからだ。彼のこのような姿を見るのは、ナッシュビルのレーンモーターミュージアムを仕事で訪れた時以来である。あの時も置いてけぼりにされて実に不愉快な時間を過ごしたものである。(――つまらなさそうな顔をカメラで抜かれない様に細心の注意を払ったものだ。)

 


「……その人、知り合いなの?」


「あぁ。俺のエンジニア時代の友人だ。会うのは5年ぶりか?」


「そうなの?どうも、お友達さん」



 エイダがにこやかに挨拶をするとマーティンは目の色を変えて、彼女の手を握りしめた。

 


「貴方はミス・エイダ!貴方のことはいつもTVで拝見しています。画面で見るよりもお美しいですね。」


「あら、そう?」



 マーティンの熱烈な握手も一端の芸能人であるエイダには慣れたものらしい。流石ファンの対応に慣れている有名リポーター様だこと――とは言いつつも嬉しそうじゃないか。顔が良い者同士はやっぱり合うね。チャーリーは半分呆れながらも、エイダが彼に抱く第一印象が悪くなかったことに安堵した。

 


「これ以上の立ち話は不審だ。中で話そう」



 部外者への露出を避けるためチャーリーは華麗に彼女らを安全圏へ誘導するのであった。





 


「初めまして。エージェント=スヴェンスカ……いや、ソフィア・スヴェンスカさん。素敵なお名前ですね。俺はマーティン・ブルック。ポーランド支部でメカニックとして働いています。」

 

「えぇ、その、は、初めまして。機械に詳しい方が来て下さって助かります。」



 押しに弱そうなスヴェンスカがマーティンに気圧されている。そのテンションに呑まれ、彼女は彼の握手攻撃に遭っていた。



「で、肝心の人工知能は?」

 


 これ以上マーティンが女に尻尾を振っていては時間がいくらあっても足りない。チャーリーが催促をすると、ようやくマーティンがスヴェンスカから離れた。「これだよ」マーティンが荷物の梱包を解くと、持ち手のついた重厚な黒いケースが現れた。



 「そんなのが人工知能なの?思っていたより小ぶりね。」



 大きさは、2泊3日用サイズのキャリーケースくらいである。エイダはもっと仰々しい見た目を想像していただけに拍子抜けした。



「えぇ。運搬可能なサイズにするのは大変だったと聞いています。最初期は一部屋丸々がBalance.aicとして必要とされていました。ですがこの数年で研究が進み、より現場で使いやすくコンパクトになっていったんです。やっぱり現場で必要とされる事が多いですからね。技術の進歩は目覚ましい……。さぁ、このケースを開くと……よっと。」



 開いたケースがそのまま機械の卓となるらしい。スイッチや画面が並んだ、複雑な見た目の機械の塊である。



「なんだかDJブースみたいね。」


「そりゃ面白い。ブチ上がれるやつを頼む。」



 機械が苦手なエイダにはDJブースに見えるらしい。――舐めた野郎だ。人類の叡智の結晶に向かってなんてことを言ってくれる。



「Balance.aicのセッティングは少々厄介なんです。まぁ、俺にかかれば大したことは有りませんがね。少々お待ちください……。」



 不安そうに眺めるスヴェンスカに「不埒な野郎に見えて結構やるんだ」とチャーリーが耳打ちすると、彼女は安心したようだった。そして彼女も何かできることをしようと思ったのか自室に戻って使えそうなものを持ってくると言って姿を消した。

 マーティンはBalance.aicとPCを幾重ものケーブルで繋ぎ、専用の機械を設営していく。その鮮やかな手つきをチャーリーは質問を交えながら興味深そうに眺めた。




「さぁ、どうぞ。これで使えますよ」



 15分後、人工知能Balance.aicが組みあがった。卓から繋がったPCには膨大な文字列が並んでいる。



「これでどうやってN度を算出するんですか?」



 「写真データか文章で対象となる物体を指定すると、ここの欄に数字が出るようになっています。……ここの数字だけに注目すれば大丈夫。これがN度です。」


「意外と簡単かも?」

 

「おいおい、エイダ。ここまで持ってくるのが大変なんだぜ。……じゃあ、さっそく色んな物体のN度を測っていこう。そしてオブジェクトの説明ができるだけの情報を集めるんだ。」


「あとはどうぞご自由に。セットアップの為に来ただけだからね。もし必要であれば俺は記録係をしよう。……何からいく?」

 

「なら……私のボールペンは如何?」

 


スヴェンスカはジャケットの胸ポケットに差した1本のボールペンを差し出した。PCに接続したカメラでそのボールペンの写真を撮ると、PC画面にN度が表示された。




<#財団支給のボールペン N ness=2.8>




「ボールペンのN度が2.8?……これだけじゃ何とも言えないわね。」


「もっと色々計ろう」



 じゃあお次にこれはどう?とスヴェンスカは色々なものが入ったカゴからリンゴを取り出した。

 


「グラニー・スミス種。アップルパイにしようと思ってスーパーで買ったんです。」


「OK。じゃあ今度は入力してみるか」



 PCのキーボードで名称を入力すると、以下のようなN度が出た。

 



<#リンゴ(グラニー・スミス種) N ness=12>




「ボールペンの約4倍。……何となく無難な数値に見えてしまうな。次、いこう。」

 

「じゃあ、こちらは?私の車。ビュイック・センチュリー。1998年製なの」



 スヴェンスカが携帯電話に映った写真を皆に見せた。納車直後の写真だろうか。赤い車の前で彼女がポーズを取っている。



「表に停まっていた車か?中々良い車だな」


「有難うチャーリー」

 


 <#自動車 (1998製ビュイック・センチュリー。エージェント・スヴェンスカが所有。) N ness=11300>



「……数字が跳ね上がりました。」


「相対的な重さかしら?」


「いや、それだと計算が合わない。リンゴ1個が仮に400gだとすると、車は……大体372㎏。6世代目のビュイック・センチュリーなんて1500㎏程あるんだぜ。……軽すぎる。」


この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。


Author: (account deleted)

Title: SCP-4517 -それほどNじゃない-

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-4517

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