わんわんわんだふる④
「よし……揃ってるわね?作戦会議を始めるわ。」
翌朝、ホテルの1室を貸し切って会議が行われた。赤城はテーブルについた面々を見渡す。橘、有坂、そして朝方合流した現地エージェントの宮本だ。宮本は、アノマリー発見時から管理を担当しているCクラス財団職員である。
「皆さん、今回はよろしくお願いいたします。周防さんから話は伺ってます。バックアップは私が承りますので、お気軽に仰ってください。」
「よろしくお願いします!」
橘がびしっと挨拶をすると、後ろにいた有坂も続けた。
「……この4名で今回は任務にあたります。まず、今回の任務の目標をハッキリさせるわ。」
そもそも、周防からの今回の業務依頼はメールで届いた「対処を頼む」という一言で片づけられてしまっていた。対処といっても色々ある。例えばアノマリーを持ち帰る、だとかその辺一帯を一般人の立ち入り禁止にしろ、といったものだ。普通、上から届く業務依頼はそれらのように具体的な指示であるし、そうあるべきである。従って、今回の対処とは何か、目的を明確にする必要があると赤城は判断した。
「ずばり……D-32414とD-42671の発見・救出よ。」
そのような状況で現実的に行える事は、被害者の救出だろう。既に、先の調査で特別収容プロトコルは確立されている。今更出来る事といえば、被害者の救出・ハッチの中の異空間にいる何かの無力化・ハッチ自体の非アノマリー化のいづれかになるだのだが、その中でも最も現実的で成果を得られる可能性が高いものを選択したのだ。
「そうなると、ハッチへの侵入は必須ですね。事件はハッチの中の異空間で起きていますから。」
「初回の探査記録から確立された特別収容プロトコルに従うと、方法は3つね。①内部調査が目的の場合ハッチから侵入して3分以内に退出する必要がある。②化け物……SCP-070-JP-2との接触を図る場合はDクラス職員に必要装備を持たせて侵入させなければならないわ。その時は安全のためにハッチを施錠しなければない。」
赤城がそう一区切りつけると、有坂がまって、と口を挟んだ。
「つまり……そのDクラス職員は見殺し?……酷いじゃん、それ。まるでさ……宇宙に人工衛星を放つようなものじゃん。」
「どういうこと?例えが分かりにくい。」
「いや、だから……。帰り道を閉ざされて……一人でなんとかしなきゃいけない状況に放り込まれるってことでしょ。指示している人間は安全地帯からなのに、ソイツは危険な場所に置き去りって……。酷くない?」
「別に、見殺す訳じゃないわ。救出する試みはずっと模索されているわ。今だってそうでしょ。見殺しにするのなら、そもそもこの会議だって行われない。SCP-070-JP-2と接触したら、今のところ帰れなくなるってだけ。帰れる方法を現に探そうとしているのよ。」
「うーん……そうですか……。いや、すんません。続きをお願いします。」
有坂はどこか腑に落ちない様子であったが、それに構っている暇はない。赤城は話に戻った。
「③、複数人からなるチームでの潜入なら、レベル4以上の職員の承認が下ればOK……。私は今回、この方法が良いと思っているわ。……宮本さん、その、古いペットショップらしき異空間のマッピングはできているのかしら?」
「はい。前回潜入させたDクラス職員の証言と映像記録を元に、部屋の上面図を作りました。」
宮本がPCに表示してある画像を見せてくれた。映像から家具や建具の位置を抽出した図面だ。上から俯瞰で書かれており、小部屋が繋がった1階と、階段で昇降ができる2階の図がある。
「……さて。潜入する者は大きなリスクと危険を負うことになるわ。……今まで行われてきた調査・実験の結果から、潜入したDクラス職員2名とも行方不明及び生死不明……。まぁ、初めに潜入したDクラスに関しては、音声確認が取れているから多分生きているんでしょうけれど……。」
「潜入してから大分経ってるけど、食事とかどうしてるんだろ。」
「さぁ……。それなら、睡眠や排泄だってどうしてるの?って話になるけれど。そういう生理的欲求を感じない空間なのかもしれない。それよりも、2人のDクラスを襲った化け物はどう対処しますか?」
「銃撃や格闘といった物理攻撃が効くか分からないけれど、試みようと思うわ。」
「効かなかったらどうするんすか?」
「有効手段がどうかを試すの。今回が駄目でも次に繋げることができるわ。Dクラス職員たちの救出がベターだけど、銃が聞かないとかそういった情報を得ることがマストよ。」
「……でも、侵入した者が脱出できない可能性もあります。アノマリーが出現すると、ハッチの開閉ができなくなります。仮に、アノマリーをなんとかできたからといって、異世界から戻ってこられるとは限りません。」
ーー確かに、それは盲点だった。ハッチが開かないのでは元も子もない。それに、先のミスで人員を危険な目に遭わせてしまったこともあってこれ以上誰かを犠牲にすると、今度こそ追放されて職を失うかもしれない。そう思うと、急に弱気になってくる。赤城の計画が狂いそうになったその時だった。
あの、赤城さん。と橘が挙手をしたのだ。
「その件、私に一つ提案があるのですが……。」
「橘さん。何かいい案でもあるの?」
「……この、有坂という男は鍵開けを得意としています。アノマリーに遭遇した後に開閉不可になったハッチも、彼なら開けることができるかもしれません。……侵入し、化け物が現れてからハッチを開けることさえできれば、被害を最小に抑えつつ、情報の獲得ができると思います。」
「えっ?俺?」
まさか、急に自分の話題になるとは露にも思わなかった有坂が素っ頓狂な声を上げる。それを見て、赤城がはぁ、と呆れたようにため息をついた。期待した自分が馬鹿だった。
「……橘さん。いくら彼が鍵開けが得意だと言っても、ハッチはアノマリーなのよ。……SCiPなのよ?只の物理的な開錠ができるとは到底思えないわ。現に、開ける試みはすでに行われて失敗しているのよ?」
「彼は以前、アノマリーの影響下におかれた、閉ざされた扉を2枚開錠した記録があります。爆弾でも破壊できなかった扉です。……周防さんも彼の事をご存じだったのではないでしょうか。わざわざ、私と有坂を指名したということは……。」
確かに、と赤城は考える。あの日私に送られてきたメールは少々不自然だった。急に若手の面倒を見ろだなんて、突然すぎる。それに仮にそうだったとしても、大きなミスを犯した者のところへわざわざ寄越すだろうか。つまり、そういうことなのだろうか。
「……有坂君、貴方何者なの?」
「えっ、いや、俺にも分かんないです。」
「……彼の力を試してみるのは如何でしょうか。私がDクラス職員1名と、機動部隊員1名の計3名で潜入。赤城さんと宮本さんと有坂がハッチのあるマンションの部屋で待機。……これで如何でしょう?」
有坂の不思議な力と、橘の行動力。若手だからと舐めていたことを赤城は反省した。
それにこれはつまり、そういうことなのだ。周防からのメッセージ。
ーーこの2人をうまく使え。ということだ。
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Author: broken_bone
Title: SCP-070-JP - わんわんらんどと犬ではないなにか -
Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-070-jp




