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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
Cクラス職員 赤城のリベンジ
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わんわんわんだふる③

 赤城・橘・有坂の3人は元オーナーが身柄を拘束されているというマンションへと向かった。

 マンションはSCP財団が買収した不動産で、財団関係者しか入れないようになっていた。入り口には管理人が鎮座しており、アポを取っていた赤城は、簡単な書類に必要事項を記入し入室を許可された。


 オーナーが住まうという部屋のチャイムを鳴らす。返事は無かったが、鍵が空いていたので勝手に入室した。リビングに据え置かれたソファに痩せた中年の男がこちらを一瞥もせずに座っていた。テレビでワイドショーを観ていたようだが、赤城がテレビのリモコンを勝手に操作し電源を切ると、男は不機嫌そうにこちらを睨んだ。


 

「何の用だ。勝手に入ってきやがって。」

 

「初めまして。私は赤城と申します。貴方にいくつか質問があるんだけど、答えてもらっても良いかしら?」


「……別に、もう全部話したろ。俺はアレについて全く知らないんだ。とっとと帰んな。」



 男は缶ビールを煽り、テレビの電源をONにした。それを即座に赤城がOFFに切り替える。


 

「そういうわけにはいかないの。いい?貴方、自分の立場をわきまえなさい。」


「はん、てめぇら何様だ。どいつもこいつも、我が物顔でよ。」


「貴方こそ何様?貴方に拒否権は無いわ。」



  男は明らかに不機嫌な様子である。散々尋問を受け、おまけに軟禁されているのだから当然と言えば当然かもしれない。

 


「質問するわ……貴方はなぜペットショップを放棄したの?」


「…………前に喋ったろ」


「もう一度聞かせて」


 恐らく、この様子だと男は前にも同じ質問をされたらしい。報告書にはあらゆる質問は既に聞き終わったとされているが、生の声を聞く事が赤城のポリシーだった。退かずに食い下がってくる赤城の様子に、男は諦めたのか渋々と口を開いた。

 

「……経営不振だよ。儲からなかったんだ。あの辺りにはでかいペットショップが無かったからチャンスと思っていたのに………。お陰で借金まみれだよ。クソッ!」



 男は机の足を蹴りつけた。そしてバツが悪そうにビールを煽った。


 

「荒れてるな」

「荒れてますねぇ」


 赤城の後ろで橘と有坂はコソコソお喋りしている。相手を煽るかもしれないから辞めなさい、と心の中で赤城は突っ込んだ。

 


「……だが、俺ん家のアパートに付いてるハッチがまさかペットショップに繋がるなんて思いもしないだろ?不動産に問い合わせても相手にされねぇし、それどころかお前らみたいな変な連中にラチられる始末だ。え?俺はいつ家に帰れんだ???」


「この問題が解決したら帰れるわよ。だからその為にも私達に協力して。」


「本当かよ……。胡散臭ぇな。ま、俺ぁ事態が好転するのを半分諦めてるよ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。」

 

「えぇ。そうさせてもらう。」



 男が話をする気になったようで、赤城も内心ホッと胸を撫で下ろした。もし直接話を聞く事が出来なければ、あの山のような答弁書の中から求める答えを探さなければならなかったのだ。それに、穏便に済むならそれで済ませたい。

 


「じゃ、質問に答えて。貴方はそのハッチがペットショップに繋がっていると気付いたのはいつ?」


「あー……。ペットショップを畳んでから数ヶ月してからだな。あのハッチはな、床下に繋がってるんだ。そこに収納箱がハマったもんで、醤油やら酒やらぬか床やら、調味料を入れてたんだ。ある晩、冷や奴を食おうとして醤油を切らしていることに気付いてハッチを開けた。そしたら、入れてあったもんがさっぱり見当たらねぇ。それどころか、見覚えのある部屋が見えたよ。慌てて閉めたね。」


「成程。」



 概ね答弁書の通りの回答である。この調子だと、新しい情報を引き出すのは難しいかもしれない。しかしここまで来た以上何かしらの収穫を持って帰りたかった。気を取り直して赤城は質問を続けた。



「次。貴方はペットショップを畳んだ時、店の様子は確認した?」


「いや、行ってねぇ。」


「……じゃあ、最後に訪れたのはいつ?」


「………………。」


「……思い出せないくらい行ってないって事?」


「……俺ぁオーナーだぜ。開店早々に行って以来、行ってねぇ。」


「呆れた。経営はどうしてたのよ」


「雇った店長が回してたさ。俺ぁ毎月報告書を受け取ってハンコ突くだけだ。だから、店がどんなだったか直接見てねぇ。」


「そんなだからかしら?あなたの経営していたペットショップだけど、評価は悪かったみたいね。あるサイトのレビューを調べたけれど、低評価ばっかり。」


赤城は携帯端末のとあるページを男の眼前に突きつけた。


「中にはこんな書き込みもあったわ。

 ≪あんまりにも酷くて見ていられなかった。すぐに店を出ました。犬が明らかに体の大きさにあっていないケージに入れられていて可哀想だった。よって⭐︎1。早急の改善求む。≫

 ≪ペットショップだから匂うのは分かりますが、それにしても臭すぎる。排泄物の匂いと獣臭と……なんとも言えないニオイでした。衛生観念はどうなっているんでしょうか。不快すぎたので⭐︎2。犬は可愛かった≫

 ……どうやら、経営以外の問題も抱えていたようね。」



 男はバツが悪そうに頭を掻いた。フケが散って、赤城は眉を顰めた。



「そりゃあ俺じゃなくて店長の責任だ。俺ぁあいつに全権を委ねていた。……逃げられちまったけどな。あの恩知らず。あぁ、あのマヌケ面を思い出すと腹が立つ。クソがッ!」



 オーナーは机の脚に2度目の蹴りを放つ。当たりどころが悪かったのか、痛ててて、と蹲り悪態をついた。自業自得という奴だ。



「……どうやら、有坂の予想があたってそうですね。犬達の怨念がアノマリーを呼び寄せたのか、はたまた自身がアノマリーなのか……。あ、いや。オカルトは信じていませんが。」



 橘の言う通り、有坂の予想はかなり近いのかもしれない。だとすると、潜入したDクラス職員を襲ったのは元来犬だったものかもしれない。


 それから2・3個質問を投げるも、真新しい回答は無かった。これ以上は時間の無駄だと判断した赤城は「また来るかもしれないから宜しく」と言い捨て、男のマンションを去った。

 

 この日は遅かったので3人は財団所持の宿をとり、一夜を明かす事となった。明日は作戦会議である。

この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。


Author: broken_bone

Title: SCP-070-JP - わんわんらんどと犬ではないなにか -

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-070-jp

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