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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
Cクラス職員 赤城のリベンジ
70/94

わんわんわんだふる①

 

 都内某所。

 バーで飲んだくれる女性が一人。見かねたマスターが声を掛けた。



「お客様 そろそろやめといた方が……。」


「うるさいわねぇ!ほっといてよ!」



 こう邪険にされてはどうしようもない。マスターは諦めてそっとしておくことに決めた。



「ヒック……なんで私が。」



 飲んだくれる女性こと赤城理沙、32歳。SCP財団日本支部Cクラス職員。彼女は人生において不調期を迎えていた。イライラして何をしてもうまくいかない、そんな気分が付きまとう。きっかけは分かっている。前回の任務の失敗が、すべての不調の引き金なのだ。

 

 ――先の第四次SCP-939掃討作戦での失敗は赤城にとって10年勤続したキャリアを揺るがす一大事だったのだ。

 SCP-939による損害は予定より遥かに大きく、その責任問題を問われていた。それでも自分の見積もりは悪くなかったはずだと赤城は未だに思っている。問題は、自分が得た情報は現地のエージェントから又聞きしたものである事である。現地エージェントがアノマリーの数を見誤っていたことが原因なのだ。彼が正確に数を伝えていたらそもそもこのような悲劇は起こらなかったのだから。

「報告通りの情報から見積もった私の手配人数は間違っていない」と、司令元の上司にそのように訴えたが最悪の場合を考えなかったのか?と一蹴されてしまった。


 アノマリーを相手に仕事をしているのだから、人間の予想をはるかに逸脱した事態になることも大いにあり得る。SCP-939のオブジェクトクラスはKeter。猶更、何が起こるかわからないことを上には理解してもらいたい。SCP-939がちょっとばかし研究が進んでいるからと言って……。だから、今回は自分のせいではなく諸々の不幸が重なっただけだ、と赤城は自分に言い聞かせていた。

 

 しかし今日の赤城の機嫌が悪いのは、件の上司から届いたメールが原因だった。内容は以下の通りである。

 



 

C-23674 赤城ちゃんへ

 

 やぁ 久しぶり。元気にしているかい?

 突然だけど君は犬、好きかな?

 俺は最近ボーダーコリーを飼い始めたんだ。こいつが可愛いのなんのって。嫁も娘も、俺には目もくれないってのにその犬には猫撫で声で喋り掛けて面倒見るんだ。俺のポジションを奪われたみたいだぜ、まったく。憎らしいが、それでもあの生き物は可愛いもんだ。無邪気で、愚かで、非力だ。人間がいないと生きていけないのを分かっているのか知らんが、それでも愛嬌を振りまく。無償の愛を感じるよ。

 話が逸れたな。何を隠そう、来週から**県に出張を頼みたいのだよ。

 **県**市のとある集合住宅に地下室へと通じるハッチがあるのだが、そこに入ると廃墟に飛ばされるそうだ。そこは犬専門大型ペットショップの跡地で、店は200█/11/██に倒産している。財団所有の不動産会社が、現在の所有者だ。

 すでにそのペットショップの元オーナーの身柄は財団で確保している。

 そこへ赴きアノマリーの対処を頼むよ。若手のCクラス職員を2名つける。面倒見てやってくれ。それと、Dクラス職員を使っても構わない。

 君には期待している。健闘を祈るよ。

 君の愛する上司 周防より

 

 追伸

 今年のボーナスが楽しみだな。

 



 

「……クソッ。あの阿保上司!」

 

 碌にビジネスメールも書けないこの男が上司だなどと信じたく無い。無茶苦茶だ。同じ組織に所属しているからと言って、部下にこういう崩れ切った文章でメールを送れるその精神性が信じられない。今までどうやって生きてきたのだろうか?何故彼のような男が今の地位を持っているのだろうか。

 それに、赤城が何よりも許せないのは試されているということをありありと感じたからだ。財団は、存在価値を問うている。雇用し続けることに意義があるのか、改めて確認しようとしているのだ。Cクラス職員の若手を付けると言っているが、自分が使えるかを監視するためだろうと赤城は予想した。

 

 彼女が財団ネットで情報を集めてみると、どうやらこのアノマリーへの対処はすでに一巡したものだった。過去に、異常性が確認された段階でDクラス職員を使用した実験が行われていたようだったが、結果的に数名のDクラス職員が異空間に閉じ込められたまま生死も分からずハッチの中に閉じ込められているらしい。彼らも救出して見せろということだろうか。

 それらの厄介ごとの処理をしろという訳だ。完全に事後処理であり、気分の良いものではない。


「いいわ、財団がその気なら私は完璧に決着をつけてやろうじゃないの。」


 そして、周防に私の価値を分からせる――。赤城はリベンジに燃えていた。



 

 そして、週明けに彼女は**県に降り立った。到着した駅のとあるカフェで例のCクラス職員2名と待ち合わせをしていた。店内に入ると、真面目そうな女性と、ガラの悪い男の2人がこちらに向かってお辞儀した。


「……貴方達、先週更新した()()()は持っている?」


 これは、財団職員が公の場で「SCP職員ですか?」という質問を回避するために使われる合言葉のようなものである。


 女性の方が、ごそごそとカードを懐から取り出した。SCP財団職員ならば必ず携帯している、セキュリティクリアランスレベルを示すカードである。これは、財団職員の身分証のようなものであり、これを財団の保持する建造物で使用すると鍵として使用することができるのである。赤城は女性が提示したカードを受け取り、チェックする。日本支部所属 Cクラス職員 橘瀬那 24歳……。偽装カードではなさそうである。赤城は彼女にカードを返却した。


「確認したわ。よろしくね。私は赤城。」

 

「赤城さん、初めまして。Cクラス職員の橘です。本日よりお世話になります。」


 はきはきと返事ができる優秀そうな子だと赤城は思う。それと同時に、私にもこんなフレッシュな時期があったことを思い出し、少しばかりのセンチメンタルに陥った。

 橘が横にいる男に肘鉄をしながら挨拶を促す。

 

「同じくCクラス職員の有坂です。よろしくでーす」


 こっちの青二才には躾が必要そう――そう思った直後、彼の脳天に橘がチョップを叩き落とした。


「痛ッてぇ!!!」

 

「こら!まずはお前もカードを提示するんだよ!」


「寮に忘れた」


「馬鹿ッ!!!前にも言ったじゃないの!」


 2発目のチョップが有坂を襲った。


 

 「まぁ……貴方との関係性で関係者だってことは分かったわ。彼女の言う通り今後は必ずカードを携帯しておくことね。」


 

 目の前で繰り広げられるコントを目にして、この2人が自分を監視するために派遣されてきたのではないかという疑問が揺らぐ。本当に、ただの助手として派遣されてきたのだろうか。

 ……それにしても先が思いやられるのだった。

 

この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。


Author: broken_bone

Title: SCP-070-JP - わんわんらんどと犬ではないなにか -

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-070-jp

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