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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
閑話②
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消照闇子

 SCP財団日本支部は、秘匿性を保持するために日本のとある山奥の地下に空間を広げたものだ。そのせいか、館内は陽光が届かずに薄暗く、冬でも湿度を感じるほどじっとりとしていた。とはいっても、それは館内の改修工事が行われる数年前の事である。




「鳴瀬チーフ。前から気になっていたんですけど、このポスターって何なんですか?館内でよく見ますけど、アニメかなんかのキャラクターですか?」



 星谷研究員はとあるポスターの前で足を止めていた。研究室から引き戸のドアを開け共有資料室へ続く廊下に出ると、すぐ右手にそのポスターは貼ってある。今まで特に気にも留めていなかったが、よくよく見ると多少場違いなビジュアルなので疑問に思ったのだ。

 ポスターには、長い黒髪に黒いセーラー服を身に纏った美少女がアニメ調の絵柄で描かれている。少女が可愛らしくポーズをとっているその横には、でかでかと「館内は明るく清潔に保ちましょう」とスローガンが書き記されている。



「あぁ、消照闇子ね。そういえば、最近見なくなったわね。」


「けてるやみこ?なんですか、その物騒な名前のキャラクター……。」



 財団の公式キャラクターだろうか。じゃないと、名前にオブジェクトクラスを示すKeterなどというSCP財団にとって不謹慎なワードが入っている筈がない。



「昔はいたのよ。彼女。」


「え~?まるでこのキャラクターの女の子が実在したかのような言い方ですね。」


「だから、実在したんだって。」


「それは……ええっと……?」


「SCP-835-JP。それが彼女よ。」


「まさかアノマリーなんですか?」



 このアニメキャラクターみたいなのがアノマリーだって?星谷研究員がそう思うのも無理はない。現実にこのような平面的なキャラクターが出現するだなんて、あまりにも異様だ。この世界は3次元(4次元と異論を唱える者もいるだろう)であり、彼女はあまりにも2次元チックすぎる。

 


「そう。プロトコル・アイドル-835制定により封じ込めできたの。」


「へぇ。対処されたんですね。消照闇子はどんなSCiPなんですか?」


「ざっくりいうと財団職員を対象として起こる異常現象よ。対象は攻撃を受けると行方不明になるんですって……。それで、対象が居たところには大量の血痕が広がっているそうよ。」


「想像していたより物騒すぎますね」


「それで、彼女は財団と敵対する組織で育てられた暗殺者で、テレポートができて、闇を操る事ができるの」



 ちょっと盛りすぎなんじゃないか。星谷はそう思ったが、鳴瀬が楽しそうに語るのに水を差すような真似は無粋だと思って突っ込まなかった。



「じゃあ、プロトコル・アイドル-835は一体どんな内容だったんですか。」


「あぁ、それね。確かキャラクター化して設定を作り、財団員に周知させたの。丁度あなたが見ているポスターとか、漫画とかアニメに落とし込んでね。そりゃもう、研究チームでも一時期大流行りしたんだから。どこを見ても消照闇子のグッズとかイラストで溢れていたわ。」


 ほら、と鳴瀬は自分のデスクの引き出しから彼女のイラストが描かれた、年季の入ったクリアファイルを取り出して見せた。商業作品として申し分ない出来栄えだ。これもイラストを描くのが得意な財団員がデザインしたのだろう。



「そんなことで封じ込めたんですか?」


「できた。消照闇子は……概念だからね」


「概念?」


「暗闇に対する、潜在的な恐怖。文明が生まれ、光と言うものを手にするまで我々人類は闇に支配されていたわ。ジャングルの木々が作り出す暗闇や、深淵のように暗い海原……本能的に闇は恐ろしいものだと遺伝子が知っているのね。貴方も経験が無い?子供の時分、夜にトイレへ行くのが怖かったり地下室が怖いと思った事。」


「……身に覚えがあります。僕は夜の仏間が怖くて近寄れませんでした。」


「でしょ?消照闇子はそういった恐怖心の表れね。だから、その現象を偶像化して身近な存在にすることで、財団職員の闇に対する恐怖心を薄れさせたって訳。」


「あ……!似たような話を僕も聞いたことがあります。怪談を聞いたり怪奇現象に遭遇した時、全く関係のない、くだらない事を考えたら恐怖心が薄れるって。それでお化けが消えたって話もあるから、有効な手段なんでしょうね。」


「ある意味貶めた、と捉えることもできるわよね。ちょっと違うけど、二次創作や関連作品が増えるたびに原本の情報量がが少しずつ希釈されていくのとニュアンスは一緒よね。漫画がアニメ化した時に微妙な出来上がりになったりするのと同じで。一方で、人目に触れる機会を得てより人気が増してファンが増える事も否定ができないから難しいわよね。まぁ、原作の情報量が100だとして、その二次創作物は一体、原作の何%の情報を伝えることが出来るのかって話。尺の問題もあるから……。いや、話が逸れたわね。ごめんなさい。」


「うーん、ちょっと違うけど、特定の宗教でも偶像崇拝を禁止したりしますもんね。確かにそれでかわいい女の子の萌えキャラクターとして描かれたりなんかしたら、なんとなく威信がガタ落ちっていうか。威厳を感じないですもんね……。」

 

「宗教問題は国際問題に発展してしまうから扱いが難しいわね……。推論でしかないけどまぁ威信を保つためでしょうね。」

 

「親しみやすさと近寄りがたさは相反するものですし、崇拝と冒涜は表裏一体ってわけですね。なんか、色んな事に言えるかも……。」


「まぁそういうこと。ざっくり言うと、プロトコル・アイドル-835はアノマリーにキャラクター性を持たせて財団職員の意識を変えて、恐怖心を失墜させたってかんじ。」


「へぇ、それで無力化できるScipもいるんですね。他のScipもそうだったらいいのに。あの……ほら、財団本部で有名なSCiP。そうそう、SCP-096とか、SCP-682とか!キャラクター化してグッズなんかにしちゃえば、なんか可愛くないですか?そうしたら脅威が薄れて弱くなったりしませんかね?」



 成瀬研究員がキャラクター化したそれらを思い描きながら嬉々としてそう言うと、鳴瀬は急に眉間に皺を寄せた。



「……ちょっと、不謹慎よ星谷君。財団は必死に無力化を試みているのに。それらの影響で一体何人の人が亡くなったと思っているの?真剣な人の誠実さを貶めるのは良くないわ。」



 ――あっ、僕怒られるんだ。ノリで言っただけなのに。

 難しい。今の不謹慎だったかな。……軽蔑された?

 星谷は愕然としたが言い訳したい気持ちを殺して、ボソリと「すみません」と謝った。




 この世の匙加減は難しい。リスペクトか模倣か。親近感が湧くと捉えるか俗物化したと捉えるか。何かについて肯定的な話をするとき、誤解の無いよう言葉は選ばなくてはならない。

 結局は誠実さが重要なのだ。――星谷研究員はまた1つ賢くなったのだった。

この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。


Author: home-watch

Title: SCP-835-JP - 消照闇子-

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-835-jp


Author: Dr Dan

Title: SCP-096 - シャイガイ -

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-096


Author: Dr Devan

Title: SCP-682 - 不死身の爬虫類 -

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-682

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