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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
手記:医療チーム所属財団員のぼやき
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あなたの声で②

 出発は明後日の早朝だ。明日準備や打ち合わせを行い、作戦を練る予定である。過去のデータを参考にしながら必要備品や物資のリストを確認して先に一通り準備しようと倉庫を訪れていた。倉庫の棚には薬や輸血パック等が所狭しと備蓄されており、使い捨ての手袋やマスクといったものからストレッチャーガードといったものまで幅広く取りそろえられている。倉庫の管理人に場所を確認しながら必要物資をカートに入れていく。



「血清もあった方が良いかな……。そうだ、カテーテルも各種いる……?」



 棚に陳列された医療品を見ていると、あれもこれもいる気がしてくる。最悪の事態を想定するとありとあらゆるものが必要だ。持っていける荷物は限られているから、最低限に絞らなければならないというのに。

 混乱していたその時だった。――カツーン、カツーン。倉庫の床は音が良く響く。誰かが此方へやってくる足音がしたので、そちらを見ると件の美丈夫が立っていた。心臓がきゅっとなった。狭苦しい倉庫であってもその美しさは損なわれることなく、どんなシーンでも様になるらしい。

 

「阿比留さん、如何して此処へ?」


 私は突然の来訪者に驚きを隠せず問いかけた。

 

「井上クンがここにいるって主任から聞いたから。僕も手伝うよ。」

 

 そう言うと、彼は脇に置いてあったリストを手に取って眺め出した。

 

「いえ、そんな……まだ仮準備ですし。お仕事、お忙しいのでは?」

 

「今日はもう落ち着いたからいいんだ。打ち合わせは明日だけど、君が先行して準備してくれてるのなら僕だけ何もしないわけにはいかないよ。」



 そんなことを言われては、追い返してしまうのは失礼にあたる。本当は完璧に用意したところを見て評価してほしかったのだが、彼がこうして気に掛けてくれるなんてむしろ幸運なのかもしれない。後輩にも気を配れるその姿を見て、成る程これは人に好かれるなと思った。

 

「うーん、輸血パックがもう少しあった方が良いかもね。僕の経験だけど、一般的に必要とされているより多い目に持って行っておいた方が安心かな。あと、そうだな……。これは必要ないかも。」



 考え事をする彼の横顔は見とれてしまうほどに整っていた。


 

「阿比留さんって」

 

「うん?」

 

「何で私を指名してくれたんですか?」

 

「……君は成長株だからね。轟副長に相談したら一番に名前が挙がったんだ。」

 

「そ、そうですか。……期待に沿えるよう頑張ります。」

 

「あはは、頑張ってくれたまえよ!分からない事があったら何でも僕に相談してくれたまえ。」



「僕は完璧だからね」彼はおどけてそう言った。





 翌日、SCP財団日本支部第2ミーティングルームにてSCP-939第四次対策班の打ち合わせが行われた。

 


「皆さん、まずは自己紹介からいきましょ。私はCクラス職員の赤城です。今回の任務のアテンドや現地チームとのやり取りなど、雑務を担当します。どうぞよろしくお願いします。」



 赤城が挨拶を終えると、続いて阿比留が医療チームを代表して挨拶をする。

 


「医療チームの阿比留と、こちらは補佐の井上です。彼女は外現場は初めてですが、高い医療技術を持っています。慣れない面も多いので色々教えてやってください。今回、機動部隊にこの2名で同行させていただきますのでどうぞよろしくお願いします。」


 

 阿比留が挨拶を終えると、私もぺこりと頭を下げた。体格の良い男が続いて自己紹介をし始める。


 

「あんたが阿比留か。噂通りの二枚目だな。よろしく頼むぜ。俺は機動部隊め-2("穴熊ハンター")の隊長、最上だ。こちらは利根川。副隊長だ。俺たちは主に森林に潜むScipの駆除を専門にやってる。今回も捕獲ではなく駆除の方向で行くと聞いているので、激しい戦闘が予想される。よろしく。」

 


 医療チームからは阿比留、井上が出席し、機動部隊め-2("穴熊ハンター")から隊長の最上と副隊長の利根川が、雑務要因としてCクラス職員の赤城の計5名が今回の任務の中心らしい。全員の挨拶が終わったところで、赤城が話を進め始める。


 

「SCP-939についての基礎情報をまずは共有しましょう。皆さん、前のモニターを観て頂戴。」


「アイテム番号:SCP-939。オブジェクトクラス: Keter。世界各地に存在が確認されており、現在対応中のアノマリーよ。日本で姿が確認されたのは今回で4回目。写真は過去の捕獲任務の時に撮られたものです。」


 

 その赤い体躯には見覚えがあった。やはり、過去の講義で取り扱われた例のScipだ。半透明な皮膚の下に赤い組織が透けている様子は、まるで人間が皮を剥がれて筋組織が露出しているようなグロテスクさを醸し出している。鋭い爪が生えた両腕と、細く鋭い歯がびっしりと並んだ大きな口がそれの凶暴さを象徴していた。彼らはその大きな口で人間を捕食するのだという。



「厄介なのは、こいつらが群れで生活しているって事。1匹見つけて仕留めても油断はしないで。あと、こいつらの顎には熱を感知するピット器官があるから隠れてもあまり意味が無いことを頭に入れておいてください。でも眼点は明暗に敏感とのこと。」



 次にモニターに投影されたのは報告書だ。赤城はレーザーポインターで重要な個所を指し示しながら読み上げていった。


 

「現地ではレベルC化学防護装備を装着しなくちゃいけないわ。作業後には忘却物質……AMN-C227の二次的拡散を確実に阻止するため関係職員全員は標準洗浄手続に従わなければならない。だから、今回は標準洗浄機能搭載型の車輛を用意しています。そして、次が最も重要な事なんだけれども全員、2個の防水性電子脈拍計を装着してもらいます。」

 

「1人で2個付けるって事か?」

 

「その通りよ。書いてある通り無線監視システムでバイタル数値をチェックするんだけど、”脈拍が2つとも平坦な波形を示すか故障した場合、着用者は死亡したものと見なされます。職員にはこの着用者からその後発せられる声を無視するよう指示が下され、自動的に収容違反が宣言されます。”……これにはScipの特性が関係しているわ。」

 

「声帯模写ですよね?」

 

「そう。死んだ者の声真似をして犠牲者が出た事案が過去にあったの。だから、死亡した人からの声は疑似餌だと思えって事。これは担当する機動部隊、医療スタッフ全員に周知させてください。」

 

「分かりました」

 

「それと……不自然な子供を見かけたら不用意に近づかない事も。」

 

「子供?何故?」


「そいつの幼体は人間の姿をしているの」



 しんと部屋が静まり返る。人間の子供の姿をしたScipが目の前に出現したとして、いったいどれほどの人がアノマリーだと疑い攻撃することが出来るだろうか?話を聞いていた全員、同じことを思ったのかもしれない。緊張した空気を割るように、誰かが言った。



「でも、SCP-939は研究が進んでいるから対処が容易ですね。これなら早期決着も可能かもしれません。」


「えぇ。でも決して油断はしないで。……では、これにてSCP-939第四次対策班ミーティングは解散します。」

この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。



Author: sinema

Title: SCP-939 -数多の声で-

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-939

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