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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
サイト-8155でのとある違反事件
37/94

シーヒューマンは総生主の夢を見るか⑤完

「以上が葉山の証言です。」

 

 体格の良い老け顔の男が資料を抑揚のある声で読み上げ終わると、それを黙って聞いていた男は目を静かに開けた。

 

「吉田君、御苦労」

 

 男は一礼すると一歩下がり、ドアの前に控え直る。


「葉山君、今の証言の中に間違いは無いかね?」


 椅子にどっしりと腰かけて問いかける男の名は牧野。SCP財団日本支部Bクラス職員であり、法務部と一般的に呼ばれる部署のNo.2である。年齢のわりに現代人らしい若々しさを保っているお陰で気さくそうな印象を受けるが、彼をよく知る人物達はそれが彼の武器の一つだと知っている。主に職員の不祥事や外部で起こした違法行為の火消しを行う為に作られた組織の中でも、彼は一目置かれる存在だ。


「……間違いありません。」


 牧野は目の前の椅子に着席する男を一瞥する。脚部と上半身の一部に包帯を巻かれた男が背中を丸めてちょこんと椅子に収まっている。毒性のある液体に触れ、皮膚が爛れてしまったらしい。自業自得だ。彼は保管ロッカーからScipをくすね、あろうことか自宅で生育していたのだ。外部に被害が漏れることなく、最低限に抑えられたのは不幸中の幸いだろう。SCP-1852₋JPに関しては、未解明の部分も多い。もし外部に流出していたら多かれ少なかれ被害が出ることは間違いない。彼の犯したことは重罪だ。


「まぁ、さっきも説明した通り君は解雇されるだろうね。給与と退職金は規定通り出るし、君の記憶と社会保険等の情報は修正しておくよ。ご家族にも……あぁ、失礼。いらっしゃらないのね。じゃ、何か質問は?」


「……いえ、何も。」


 がっくりとうなだれる男の情けない姿をみて葉山は思う。彼の、生物の育成に対する熱量をSCPの管理に宛がってやれたら素晴らしい成果を残しただろう。彼にとって退屈な部署に配置されたことが事件のトリガーになったのかもしれない。だが、向かない部署に配置されてしまったのは彼のアピール不足であり、仕方のない事だ。本来採用時に人事部が特性を汲み取ってやるべきなのであるが、人の潜在的な犯罪性というのはまた別の問題である。そこまで優しくしてやれるほど世間は甘くない。人員もリサイクルして退職者を減らしたいところだが、救ってやれない奴はいるものだ。今回の件は上が彼の異動を許さなかった。


「そうかい。じゃ、ここにサインと捺印を……」


 

 葉山が部屋から退室すると、牧野は大きな溜め息をついた。ここの所、違反職員の処分がやたら多すぎる。つい先日Dクラス職員が脱走し、その火消しに追われたところだ。


「あー、やだやだ。今月3件目だよ。罰則をもっと厳しくすべきなのかねぇ。」


 ごちる牧野に、吉田が答える。


「……ストレスの発散させる機会を職員に与えるとか如何でしょうか。」

「それいいね。……例えば?」

「娯楽……いや、スポーツ……。……現場で役立ちそうな格闘技のクラブなど如何ですか。」

「格闘技か……そういや昔、Dクラス30人の脱走をたった一人で阻止した博士がいたんだ。彼が特別な武術を習得していたな……。うーんいいね。採用!」


 この人は本気で言っているのか冗談で言っているのか分からない時がある。上司のフットワークの軽さに半ば呆れつつ返事を返した。


「はぁ。」

「君も是非習得したまえよ。」


 保守的な考え方に囚われがちな自分とは対照的だと吉田は考える。牧野が若々しさを保てているのは、古い考え方に囚われない柔軟な思考のお陰なのかもしれない。――彼の言動にハッと気付かされることも多いのだ。彼を尊敬している。だが、怪しげな武術に身をやつす程自分も暇ではない――

 

 「……考えておきます。」


 ――やはり自分には、無難な返事がよく似合う。俺ぐらい気楽に仕事してたら葉山みたいなへまはしなかっただろう。

 仕事にはテキトウさも大事なのだよ。吉田は扉から遠ざかっていく葉山へそう心の中で語りかけた。


この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。


Author: tatenano

Title: SCP-1852-JP - 博士のシーヒューマン観察キット! -

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-1852-jp

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