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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
とあるCクラス職員の懐古
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トロッコ問題

 

 講義室から出てくる橘に茶髪の女性が駆け寄る。


「橘さん!お疲れ様、今日の共通オリエンテーション長かったね。ちょっと疲れちゃった。」

「お疲れ、井上さん。ごめんね、私が変な質問しちゃったから伸びちゃった。」


 茶髪の女性__井上めぐみは橘の1つ下の歳にあたるが、同じ時期に採用された同期だ。彼女は医療チーム配属であった。共通オリエンテーションは様々な配属先の職員のSCP財団に関する一般知識を公平に学ぶ場だ。いずれは各々違う部署に配属されることが決定していても、一週間の共通オリエンテーションを経て後各配属先の専門的な講習を受ける事になる。

 橘はCクラス職員として数年雇用された後、フィールドエージェントとしていつか独り立ちをするつもりだ。地域に根差して一般人を保護し、脅威から守ることが出来るその役職に橘は憧れていた。

 

「ううん、あの質問、私も同じ事を思ってたから橘さんが質問してくれてよかったよ。」


 愚かな質問をしてしまったのではないかと反省していた橘にとっては、この言葉は大変ありがたいものだった。どうも、SCP財団の人間は人命に対してドライな気がしてならない。採用されたての者ならばこの考えを理解してくれるかもしれない。


「井上さんは?さっきのどう思う?」

「私は看護師だし……そりゃあ大勢を助けたいとは思うけれど、目の前の患者さんを救う事が全てだと思う。目の前の一人の命も救えないで、大勢を救える医師なんて居ないもん。」


 橘はなるほどと納得した。この観点は井上が医学に従事する者故の考えだ。しかし彼女の言う事も一理あるし、大いに賛同できる。


「私も……。目の前で苦しんでいる人がいたらきっと放っておけない。Dクラス職員が元犯罪者だとしても、生きる権利がある。命の価値は……多分一緒だと思う。」

「橘さんらしいね。……いつか、私たちの考え方も変わっちゃうのかな。”1人の犠牲なら仕方ない”って。あーあ、共通オリエンテーションもあと3日かぁ。もっと橘さんと仲良くなりたかったなぁ。」

「本当にね。正式配属後もたまには会えるのかな?……それか、私が怪我したら井上さんに手当てしてもらいにいこうかな?」


 冗談交じりでそう言うと、井上はクスリと笑った。


「もう、怪我なんてしちゃ駄目」


 彼女と一緒に過ごせるのはあと3日。それからは、それぞれのフィールドで仕事に邁進する日々になり、疎遠になるだろう。心を許した同期とのこのような何気ないひと時が絆になり、いつしか美しい思い出になる。

 橘世那はそのことを良く分かっていた。

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