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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
とあるDクラス職員の記録
22/94

収容

 そしてきっかり1時間後、2人の職員が有坂を迎えにやってきた。両手首と両足、極め付けに腰部分に拘束具が付いた車椅子に乗せられた有坂は聴収室に連れられた。刑事ドラマでよく見る部屋のようだと有坂はぼんやり思った。彼の想像は正しく室内からは外が見えないが、外からは中が見える仕様になっており、大勢の聴衆(オーディエンス)が有坂の様子を見ていたのだった。

 車椅子を机の前にセッティングすると保安職員2人は部屋の後ろにある出入口までに移動し、有坂を監視し始めた。物々しい雰囲気に、有坂は緊張で喉が渇くのを感じた。


「D-0419。初めまして。」


 油圧式のドアが開き、男が一人入室する。即座に部屋の外側からロックがかけられるのが音で分かった。


「私は財団Bクラス職員の牧野だ。よろしく頼むよ。この会話は録音されているが、問題ないな?」

「……はぁ、大丈夫ですけど。」


 牧野と名乗った男が有坂の対面に着席し、尋問が始まった。


「さて、単刀直入に言うが、お前、やってくれたな。」

「……すみませんでした。」


 叱責されるのは分かっていたし、慣れていた。今までありとあらゆる場所でお前は人間の屑だなどと罵倒されて生きてきたのだ。刑務所の場合だと、大抵の場合俺の当直の時は脱走しないでくれと泣きが入ることもあったものだが。今回の件に関しては甘んじて叱責を受ける覚悟でいた。

 

「お陰様で日本支部のセキュリティの信用はガタ落ちだ。まぁな、お前らDクラス職員の仕事内容を考えれば逃げたくなるのも良く分かる。でもお前は逃走しただけじゃないもんな?職員への暴行・略奪に加え、指示の無いScipへの接近。しかも質の悪いことにSCP-910-JP(シンボル)に。支部は大騒ぎだったよ。第三次回収作戦の二の舞になるんじゃないかと皆肝を冷やしたさ。」

「……それは……すみません。」

「……さて、本題に移ろう。君の処分だが、解雇することに決まったよ。」

「……死刑じゃないんですね」

「何、死にたかったのか?君の場合、刑務所に戻ることは無期懲役に等しいだろ?死刑とさして変わらないと思うけどね。」


 有坂は死刑じゃない安心感とその反面、これからの人生が確定してしまった虚無感で真っ白になったような感覚に陥った。もうSCP財団に関わって命を脅かされる心配はないのだ。その一方でつまり彼の獄中人生が決定したようなものである。釈放のチャンスを失ったのは思っていたより大きなショックだった。

 

「だが、君は危険なScipと数回対峙したにも関わらず、生き延びているな。……何故?君は他のDクラス職員と何が違う?」

「……さぁ……。」

「……この記録映像を見るがいい」


 タブレットに映し出されたのは、堀江だった。何かをぼそぼそと呟いているようだが、この映像からでは聞き取ることは出来ない。


「何ですか、これ。彼、生きていたんですね?」


「彼は終了した」

「終了……?終了って、どういう意味?」

「生命を終了って意味さ。……君たちが落ちた水溜まりはお察しの通りScipだ。SCP-910₋JPに呼び寄せられた、ね。あの水溜まりの中は、落ちた人間の生まれ故郷であることが分かっている。なおかつ、生まれた年月のな。その世界で生まれ育った家にたどり着けなければこのようになってしまうんだよ。」

「映像だと元気そうですけど」

D-2576(堀江)は辿り着くことが出来なかったようだね。……水溜まりから這い出てきた彼をなんとか回収したが、臓器は全て委縮して1歳児程度の大きさになっていた。彼を標本として収容する案も出たが、生憎標本は間に合っていてね。仕方なく終了させた。」

「そんな……。」



「彼は仕方なかった。……君は何故帰って来れた?教えてくれ。」

「……水溜まりの中で、男に会いました。昔、母の実家の近所にあった古物商?みたいな店の、店主でした。その人が、家に帰るように俺を案内してくれて……。」


 牧野の眉がピクリと動く。


「意思疎通できる人物が?」

「はい。その人だけでしたけど。他の奴はなんか……。ぐにゃってしてる、っていうか姿が曖昧っていうか。そいつらと喋ったときは何とも思わなかったんですけれど、後から考えたら何か変だったというか……。」

「……その男は特別親しかった人物か?」

「いや、親しい訳では……。って、何です?この質問。これって俺の処罰と関係あるんですか?」

「大アリだとも。じゃあ、その古物商みたいな店に思い入れが?」


 至極真面目に牧野が答える。このインタビューに処罰を左右する何かがあるとは到底思えないが、あまりにも真剣に問いかけてくるものなので有坂もそれに付き合った。


「思い入れ……って程じゃないんですけど。……俺、鍵開けが得意なんです。鍵を開けてその向こうを見た瞬間とかの快感が忘れられなくって、それで脱獄とか逃走にハマっちゃったんです。……俺にその快感を教えてくれたのは、その店でした。その店に古い金庫があって。俺、興味本位だったんです。鍵を開けました。中には何も入っていなかったけど、その感覚が忘れられなくって……今に至るってわけです」


 成る程、と呟くと牧野は黙りこんでしまった。そして暫く考えた後、深いため息をついた。


「分かった。その古物商とやらを調べさせてもらおう。そして君の解雇は一旦保留だ。次の呼び出しがあるまで医務室で療養したまえ。」


 有坂は再び医務室に戻されることとなった。そしてその3日後、彼は再び呼び出されたが、有坂が連れて来られたのは拘束椅子が中央に備え付けられた特別治療室だった。



 口枷をはめられ、全身を拘束された有坂の静脈に注射針が突き刺さり――。


 

 有坂の記憶は()()に処理された。

この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。


Author: sendoh-oroka

Title: SCP-910-JP - シンボル -

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-910-jp


Author: ZeroWinchester

Title: SCP-194-JP - 水溜まりの中の世界 -

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-194-jp

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