歓迎会【2】
「いや~、しかし随分集まったもんだな。みんな暇人なんだな~。」
ホールにある壇上の幕の間からホール内を見ると着飾ったたくさんのお嬢様とドリルの家のメイドさんと執事さん。
「それだけ真が注目されてるって事よ。」
同じ幕の間からホールを見てる桜。
「注目ってただ珍しいだけだろ?」
短期間の交換留学だからな。そりゃ珍しいだろう。
「はぁ…。あんたって子は…。」
なんだその呆れた様なため息は!俺は事実を理解した上で話してるだろうが!
「本当に……。」
ぬぉっ!ドリルお嬢様にまで馬鹿にされてる!ちっくしょう!鋭利な髪形しやがって!
「それよりもお二人とも、その行いは品がないですわよ。」
「以後気をつけま~す。」
「俺はお嬢様じゃないんで~。」
そうさ、俺はお嬢様じゃないからな。二人しか居ないなら品が無くたってかまうもんか。
「全く。さて、そろそろ挨拶の時間ですわよ二人共。いったん袖に下がってください。」
あぁもうそんな時間か。それじゃあ引っ込むかな。桜を見ると無言で頷いた。俺達二人はこそこそと袖に引っ込んで行った。
するとスルスルと幕が上がって行った。
『皆様、本日はお集まり頂きましてありがとうございます。』
ドリルお嬢様が自慢のドリルが地面に向かって発射すんじゃねえのか?って感じでお辞儀するとホール内から拍手がおこった。
『まず桂木さんの歓迎会に協力して頂いた生徒会の方からのお言葉を頂きたいと思います。』
「あ、私か。」
桜はもぐもぐとかんでいたものを飲み込みながらドリルお嬢様の方へ向かって行った。
…なんかツッコミ入れんのも面倒なんだけどアイツはいつの間に食い物を口に入れたんだ?
そんな裏で起きてる事なんて知らないホールのお嬢様方は桜の姿が見えると…
「キャ~~~!」
「桜様~~~!」
「素敵~~~!」
ってな感じで騒ぎだす。今日も音響兵器は絶好調だな。ホールなんていう閉ざされた空間だからより一層声が響く。…うん、耳が痛い。
『今日は桂木さんの歓迎会って事で他の生徒会メンバーをおいて私が来たのよ。一応仲良くさせてもらってるし。』
とりあえずは真面目な感じだな。
『今日集まってもらってる人達が正装してるように真も正装してるわ。みんな、期待していいよ。』
さりげなくハードル上げてきやがったな。ただでさえ俺は桜やドリルとは違って騒がれてないってのによ。絶対に期待を裏切るぞ。
『って訳で椿。もう呼んでいいんでしょ?』
挨拶短っ!頼むからせめてハードルを下げてから登場させてくれ!
『それではご登場頂けますわ。どうぞ。』
ド~リ~ルゥ~~!お前もサラッと言うな!マジでハードル高いんだって!
シーンとなるホール。何かに期待をするみたいだな。何に期待してんのかはわかってます!俺が出てくんの待ってんだろ!
「真。早く出てきなさいって。」
うっさいわ!そんな状況で出れる程自信無いんじゃ~!
そんなこんなでまごまごしてると桜が何やら口をパクパク動かしだした。違うな、ちっちゃい声でなんか言ってんだな。
えっと…『こ』『ん』『しょ』『う』『な』『し』
……………『根性無し』だと?誰が根性無しじゃい!あぁ行ったる!出て行ったるわい!
挑発だってのは十二分にわかってんだけど根性無しって言われてそれを肯定する男は居ないんだよ!
ホントなら足跡を鳴らしながら行きたい所だけどまだ冷静な部分があったみたいで俺にできる限りおしとやかに舞台の上に(性格には桜の所に)向かった。
動作は可能な限りおしとやかに、目は桜をガン睨みしながら舞台の中央にやって来た。
『後で覚えてろ。』
声を小さく口の動きは大きく。俺は桜にそういった。桜は軽く肩をすくめる程度だった。
俺は一つ深呼吸をするとホールの方を向いた。ホールにいる方々はシーンとしてる。
ほらっ!やっぱり駄目だったじゃねえか!みんな期待外れで黙っちゃったよ!みんな静かに見てるし!
「真。一言お願いしますわ。」
この状態でか?会場内がめっちゃ冷めきってますけど!そんなに俺を虐めて楽しいか?
『あ、今日は私の為にこの様な会を開いて頂きまことにありがとうございます。』
ペコリとお辞儀する。やらないぞ?マイクにゴンッ!なんてボケはやらないからな。
会場内はスッゲー静か。うわ~、帰りてぇ~。
『知らない方もいらっしゃるかと思いますので自己紹介させて頂きます。霞ヶ崎学園から参りました桂木 真と申します。2ヶ月間ですが皆様よろしくお願い致します。』
こんなもんかな。もう一回ペコリとお辞儀をしてマイクをドリルに返す。
『でわ皆様。お食事とお飲物を用意してますのでお召し上がりくださいませ。』
ドリルがそういうと幕が降りてきた。桜とドリルが礼してるから俺も一緒に頭を下げる。
やがて幕が完全に降りきると頭を上げた。そんで俺は桜の方を向く。
「桜。根性無しってのは随分な言い様じゃないか?」
「なによ。なかなか出てこないのが悪いんじゃないのよ。」
「あんなハードルを上げられて出られるか!現にみんな期待外れで黙っちまってたじゃねえか!」
桜とドリルは俺を見てそんでお互いの顔を見て………笑い出した。なんで?
「あははははは!」
「ふふふふふ!」
なんで笑ってんだよ!人の不幸がそんなに楽しいか!しまいにゃ落ち込むぞ!
「あははは。もうここまでくると凄いよ。」
「ふふふふ。本当ですわ。まさかここまでだとは思いませんでしたわ。」
ちくしょう。いじけてやる…。座り込んでのの字書いちゃうぞ…。
「真、ごめんごめん。大丈夫よ。とりあえず下りよ。少しは食べたいし。」
そうだ。食い物があったんだ。ずっと着せ替え人形してたから腹減ったぞ。
歩き出した桜、ドリルに続いて舞台から降りてホールに入った。
『桜様~!』
『椿様~!』
二人は速攻で囲まれた。俺は巻き込まれないように二人から離れて壁に寄りかかった。
「冷たっ。」
忘れてたぜ。背中パックリ開いてんだった。しかしよくこんな布切れに近い服を皆着れるもんだ。
俺がそんな考えをしてるとさっき俺を着せ替え人形にしてた一人である椿の所のメイドさんがやってきた。
「桂木様。なにか飲まれますか?」
メイドさんの手にはトレーがあり数種類の飲み物があった。未成年だから乗ってるのはジュースとかなんだろうな。
「ではそのウーロン茶を頂けますか?」
そういうとメイドさんはトレーからウーロン茶を取り俺に渡した。
「桂木様。とてもお似合いですよ。この中で一番ですよ。」
流石だな。こういう所でさりげなくお世辞が言えるんだもんな。
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです。」
こういう時は笑顔で返すべきだよな。俺はメイドさんにニッコリ微笑みかけた。
「い、いえ。お世辞ではなくて……。そ、その、失礼します。」
メイドさんはそそくさとどこかに行ってしまった。ん~…なんか失敗したのかな?こういう場所でのマナーはわからん。
まぁいいや。失敗は次回の糧にすりゃいいしな。
俺は壁に寄りかかったままウーロン茶を飲んでホール内を見渡した。相変わらず二人は集団に囲まれている。
残りの人達は思い思いに会話をしながらチラチラと俺を見てる。なんだよ。言いたい事があるならハッキリと言ってくれよ。なんか気になる。
なんか食おうにもがっつり食ってる人はいないしな…。さて、どうしたもんかな…。
「お~い。」
二人もまだ向こうで囲まれたままだしな…
「無視しないでよ~。」
さっきのメイドさんも忙しそうだし。皆はチラチラ見るだけだしな…。俺って嫌われてんかね?落ち込みそうだ。
「桂木さん!」
「っ!」
なんだ!敵襲か?敵襲なのか?よっしゃ、総員第1種戦闘準備!って総員って誰だ!
それより誰だ!いきなり大声を上げたのは!
俺は左右を見渡す。お嬢様方が俺を見てるけと近くには誰も居ない。マジで誰だ!
「こっち。こっちだよ~。」
声のするのは下から。…下?俺は視線を下げる。あ、いた。
「あらあら迷子かな?お母さんとはぐれたの?」
う~ん…。メイドさんか誰かの子供かな?流石に校内には託児所なんかないだろうしな…。
「だから丁寧に失礼な事言わないでよ~。」
ぷく~っと頬っぺたを膨らませるこの子供。なんか見覚えがあるんだけどな。
「お嬢ちゃんはどこの子供かな?」
「私はあなたの担任よ~。」
タンニン…?シミやソバカスのあれか?いや、そんな成分が人になって出て来られてもな…。たんにん…たんにん…。
「そうでした。姫ちゃん。今は飴とかは持ってないですよ?」
そうだ。文〇省の考え違いによって生まれたうちのクラスの担任だ。通りで見覚えがあると思った。
「そうじゃなくて~。桂木さんの知り合いって人が来てるの~。」
俺の知り合い?はて…?こっちに来て知り合いはまだそんなに居ないんだけど誰だ?
「その人は今どちらにいらっしゃりますか?」
「ホールの入り口~。行くなら私も行くよ~。」
行くならって知り合いってのを放って置けないよな。
「では行きましょうか。」
俺は姫ちゃんの手を握ってホールの入口に向かった。…姫ちゃん、そんな手をブンブン振るの止めてくれ…。犬の尻尾じゃないんだから。皆こっちをガン見してるんだからさ。
ホールから廊下を通って玄関的な場所に出るまずは太陽の眩しさが目に染みた。中が薄暗かったせいか?姫ちゃんは俺から手を離してパタパタと先に走って行って………コケた。
それも木陰で座っていた人達の前で。
おかしい…。別に転ぶような段差はないのは俺も見たんだけどな。
俺が転んだ姫ちゃんを見てると姫ちゃんは自力で起き上がった。
偉い偉い。泣かないで自分で立つなんて。後でチョコでもあげよう。
そんな考えをしながら立ち上がった姫ちゃんの所に行く。
「姫ちゃん。大丈夫?」
「痛い…。」
あらら…。泣いちゃいないけどもうちょいで泣くな。目がメッチャうるんでるし。
「急に走ったりするからですよ。」
姫ちゃんの前にしゃがみ頭を撫でながら目元をハンカチで拭いてやる。
って姫ちゃん!涙を拭くのは構わんが鼻をかむんじゃない!マジで!
「すっきりした~。」
くそ!満面の笑顔だぞ。俺はこのハンカチをどうしたらいいんだ?
「姫ちゃん。それで私の知り合いの方は。」
処理に困ったハンカチを姫ちゃんに渡しながらそう尋ねた。
「この人達よ~。」
姫ちゃんが指差したのはすぐ近くで一部始終を見ていた方々。
「知ってる人~?」
はい、知ってる人達ですよ。それは十二分に。ただこの人達と話すにはある問題があるな。
「姫ちゃん。水無月さんと崎島さんに私がここに居る事を伝えてもらえますか?すぐに私も戻りますので。」
姫ちゃんが居ると面倒なんだよな。色々な事で。
「いいよ~。」
姫ちゃんは快く快諾してくれた。なんか子供にお使いを頼む気分だな。
姫ちゃんはクルリと背を向けるとパタパタて走って転ばずにホールの中に戻って行った。
俺は姫ちゃんが無事に中に入ったのを確認すると待っている人達をみた。そこに居るのは3人。
茶色いロングヘアーの人。この人は座り込んで木に寄りかかってる。
黒い肩くらいまでの長さの髪の人。この人は俺の顔を凝視してる。そんなに見ても穴は開かないからな。
黒いロングヘアーの人。この人は校内の様子を見ている。
3人共俺の見知った人だった。ただなんでここに居るのかがサッパリわからん。
「で、お三方。一体何の様なんだ?」
三人の視線が俺に集中した。




