歓迎会【1】
只今、着せ替え人形の真っ最中!あれやこれやと色んな服を着たり脱いだり(着させられたり脱がされたり)で大忙しだ!
こら、責任者出てこ~~い!
「真、こちらも似合うと思いますわよ。」
こら、責任者!そんな楽しそうに服選びしてんじゃねぇ!
なんでこんな事になったのか…それは昨日の話……
「真。日曜日は空いてまして?」
授業の合間の休み時間ドリル椿がそんな事を聞いてきた。
「日曜?別に予定はないな。ゴロゴロしてそこらを探索するくらいだし。」
さすがに周りに何があるのか知っておきたい。誰かに聞こうにもかなりの確率で俺の趣味に合わない可能性がある。たとえば服とか。
「それならよかったですわ。実はアナタの歓迎会を行おうと思いまして。」
「そんな、いいよ。なんか悪いし。」
俺なんかに歓迎会なんて勿体無いしな。みんな予定もあるだろうし。
「残念ながら開催はもう決定なんですわ。数日前から準備してますから。」
はぁ?それは随分大層だけど…
「それで俺に予定があったらどうすんだ?」
「もちろん決行ですわ。」
即答しやがったぞ。俺の予定は関係なしか!
「今回はまぁいい。次回からは事前に言ってくれ。」
「わかりましたわ。」
全く、お嬢様は意外と恐ろしいな。
「んで、どこでやるんだ?」
「ホールの使用許可をとりましたのでホールで行いますわ。9時にいらしてください。」
「はいよ。」
休みの日に学校に来るのか。授業じゃないとはいえあんまいい気分じゃないな。
「服は普通でいいんだろ?」
「そうですね。真は普通でいいですわよ。」
この時気付くべきだったんかな…。『真は』って言葉の意味に。そんでもってドリル椿と後ろの桜の黒い微笑みに…。
そして今日の8時半。少し早いけど俺はホールにやって来た。まぁ、なんか手伝う事もあるだろう。
ホールの扉を開けると……なんじゃこりゃ!広っ!高っ!凄っ!
なんかスッゲー飾り付けられてる。なんなんだこのハイソな貴婦人がハハ~ンでエレガントな紳士とランラン♪みたいな内装は!馬鹿じゃないのか!
俺はゆっくり扉を閉めた。
「俺は何も見なかった。うん、見なかった。そして誰にも見られてない。よし、帰ろう。」
俺は扉に背を向けて来た道を逆戻りする事にした。
しかし、その一歩を踏み出す事ができなかった。
「ぐっ!」
背後から首に手を回されれば例え誰であろうと前には進めないだろう。
「真。どこに行くのよ。」
この声は桜か?は、離せ…。喉が……。
俺は喉に回された腕を軽く2回叩いた。言うまでもなくタップの合図だ。
桜はそれに気付き腕を離した。
「ケホッコホッ…不意打ちとは卑怯だぞ…。」
「そんなのは来ていきなり逃げ出すのが悪いのよ。」
一理ある…、いやいや、あんなん見たら誰でも逃げ出すわ!
「とりあえずアンタはこれから控室に行くのよ。ほら、来なさい。」
ぐぉ!腕を引っ張るな!自分で歩けるから!つか痛い!そんなに強く握るな!
俺は桜に連れられてホールの中の控室へと連行…連れられていった。
控室には信じられない数の服があり、ドリル椿が待っていた。
そして今に至る………。
もうかれこれ1時間は着せ替え人形をやってる気がする。
周りにはドリルの家の方々が…。マジなメイドなんて初めて見た。いや~実在したんだな…。
「真。ちゃんと協力して頂きませんと困りますわ。」
そんなんしるか!あんな動きにくいヒラヒラした長い服なんかきれるか!
「疲れた…。」
服を着たりするのって意外と重労働だな…。結構疲労がたまってきてるぞ。
「それは真が暴れるからですわ。」
「全くだよ。抑える私の身にもなってほしいよ。」
そう、散々暴れてる俺を抑えてるのは桜withメイド隊。ってより主に桜。
「真。どんな服なら着て頂けますの?」
「男物の服。ダメなら妥協してズボンのヤツ。」
これはもう何回もやってるやりとり。ちなみに今着てるのは白いマーメイドドレス。なんかスッゲー足にまとわりついてきてイヤだ。そもそも白いのになんか溢したらシミになっちまうだろ!
「しょうがないですわね。これは出したく無かったのですけど。」
ドリルお嬢様は2着の服を取り出した。1つはドレス、色は黒。なんか背中が腰の辺りまで開いてて胸元もけっこう…。
もう1つの色も黒。ただしこっちはタキシード。なんだ、男物のあるんじゃねぇかよ。
「それとこちらを。」
ドリルお嬢様はなんかを俺に出してきた。なんだ?手紙か?
白い封筒には『真くんへ』…ってこの字は見覚えあるな。母さんの字だ。
俺は手紙の封を開けて中を読んだ。
『真くん。元気にしてる?真くんの事だからきっと元気にしてると思います。優ちゃんから真くんがパーティーに参加するって聞いて服を用意しました。真くん、ズボンを履きたい気持ちもわかるけどよかったらドレスも来てね。それでよかったら写真も欲しいな。じゃあ体に気をつけて頑張ってね。 光』
さすがは母さん。わかってるな。なんか写真とかって文字が見えたけど…。まぁ用意してくれたんだしそれくらいはいいか。
「手紙にはなんて書いてありましたの?」
「ん?中読んでなかったのか?」
手紙から視線を上げて目の前のドリルお嬢様を見る。
「心外ですわね。人様の手紙を無断で読むような真似は致しませんわ。」
確かに人の手紙を読むような人間には見えないな。
「それよりも椿。お前この歓迎会の事ゆ~ちゃんに言ったのか?」
椿は顎に手を当てて何か考えた後口を開いた。
「ゆ~ちゃんというのが誰だか存じませんけど霞ヶ崎学園であなたを一番知っている方には言いましたわよ。」
「なんでだ?」
「食べられないものを出されたら嫌ではないですか?」
俺を馬鹿にしてもらっちゃぁ困るな。俺に嫌いな食べ物は無い!
…まぁちょっと苦手なものはあるけどな。
「それより早く着替えませんと時間ありませんわよ。」
そうそう、さっき聞いたら開始は11時らしい。つまり2時間くらい着せ替え人形にするきだったみたいだ。あり得ないよな…。
「そうだな、じゃあこっちを。」
俺はドリルお嬢様の持ってる服のうちの一着を取った。するとドリルお嬢様の表情が変わった。
「真?先程まで嫌がってましたのにいかがなさいましたの?」
ドリルお嬢様が驚くのも無理は無いと思う。俺が選んだのは黒いドレスだったんだから。
「こりゃスゲェな。大胆なのは上だけかとおもったら随分深くスリット入ってんじゃん。」
これを選んだ母さんは恐ろしいと思うな。スリットがあって細い感じのドレスだからこりゃ足見えるな。
前なら嵐ほどではないにしろチラッと見える足をいいなぁとは思って見てたんだけど…。まさか自分で足をこんな風に晒す事になるとはな。
「椿。頼みがある。」
「は、はい。なんですの?」
「俺が着替えてる間にカメラ持ってきてくれ。母さんが見たいらしいからさ。」
「えぇ、わかりましたわ。」
椿は持っていた服を近くの使用人に渡して部屋を出ていった。
さてと後はこのドレスに着替えるだけなんだけど…。
「桜。アンタは外で待っててくれないか?」
「なんで?私も真をいじりたいのに。」
アナタは自分に正直だね。そんなハッキリといじりたいっていうなよ。
「アンタを信用してない訳じゃないんだ。ただ信用がアンタに足りないだけだ。」
「ちょっと!どちらにしても意味は同じじゃないの!」
うん、そうです。同じなんです。
「メイドさん達。桜を外に出しちゃって!」
俺が桜をズビシッと指差しながらそう言うと…
『かしこまりました。』
4人のメイドさんが桜に向かって突進して体を拘束して桜を引っ張っていく。
「待ってって!あんた達誰の使用人なのよ!離して!私も真をいじるんだから~~~!」
バタン…
ふうっ、これでやっと静かになったな。
さて、後はこの目を輝かせてるメイドさん達か…
ス~ハ~ス~ハ~…
「よっしゃ!バッチこいや~!」
瞬間でメイドさんに囲まれた。砂糖に群がる蟻か!無事に着替え終わる事を祈ろう…