入園口
さて、ようやくユニランに到着したわけだが…
天気のいい休日だけあってか、開園前にも関わらず凄い人だ。
家族連れやカップル、友達同士と様々だけどみんな楽しみって感じの顔をしてる。
勿論、俺も楽しみな訳だけどそれ以上に桜と椿はすごいもんだ。
来る最中の電車の中で二人で
「これに乗る。」
とか
「こちらにも行きますわよ。」
って会話をずっとしてるくらいだ。
ただその会話を俺を挟んでするのは止めてもらいたかったな。
気付いたら俺の膝の上にパンフレットを広げられてたから動くに動けなかったし…。
座る配置を変えればよかったってちょっと後悔したぞ。
今も二人でどの乗り物に乗ろうか話してるし。
「二人共、今からそんなにテンション上げてると息切れしちまうぞ?」
下手をしようもんなら子供よりも騒いでる気がするぞ。
「チケット買ってくるからそれまでに落ち着いておけよ?」
二人にそう伝えて俺はチケット売り場に並んだ。
ただでさえ人が多く並んでるんだから少ない人数で並んだ方が迷惑にならないだろうからな。
金は後で二人から徴収すればいいさな。
人が少しずつ流れていく。
窓口は3箇所開いていて次々と客の相手をしている。
おっと、俺の番だな。
「学生、三枚で。」
大きいのだと中で不便だから丁度で払わないで崩しておくか…。
『お返しになります。お楽しみ下さい。』
釣りを財布にしまってチケットを受け取って列から外れる。
さて、少し時間はかかったけどあいつらは落ち着いたか?
「桜!あなたが何と言おうともこれだけはゆずれませんわ!」
「それは私も同じよ!あんたには退いてもらうわ!」
なんでさっきより盛り上がってんだよ…。周りの人達がすっかりギャラリーになってんじゃねえか。
「例え一国のトップが地に額をこすりつけようともゆずりませんわ!」
国のトップの土下座かぁ。興味はあるけど実際見たらどん引きだろうな。
そしてギャラリーの皆様。椿の啖呵に対して声援や拍手を送って煽らないように。
「私だって、たとえ拳銃を突きつけられようと意思は変わらないわ!」
たかだか遊園地で命をかけるのもどうかな~と俺は思うわけだが…。
ギャラリーの皆様。だから拍手を送らないように。
より調子に乗りますんで…。
二人はお互いに至近距離で睨みあっている。
あぁ、そうか。
周りに居る人はギャラリーにまわってるだけじゃないんだ。
近付くに近付けないオーラを二人が纏ってるから止められないんだ。
両手を腰に当ててじっと桜を睨む椿。
気のせいかトレードマークのドリルも鋭利になってる気がする。
腰を落として半身で椿を睨む桜。
拳を握り今にも一発かましそうな体勢だ。
確かに今のこの二人を止めるのは無理そうだ。
もしも手を出そうものならただじゃ済まなそうだ。
そんな中、俺は困るわけなんだが…。
なんせ手元にはチケットが3枚あるわけだ。
1枚は俺ので、後2枚は渦中の人物に渡さなきゃならない。
つまりはあの中に行かなきゃならないわけだからな。
二人のエリアに入った途端に桜の拳と椿のドリルが襲ってきそうだ。
想像するだけで背中が冷たくなってくるぞ。
しかし、他の無関係な方に犠牲になってもらうのは心苦しい。
しょうがない、覚悟を決めるとするか…。
俺は大きく深呼吸して一歩を踏み出し…
「真と観覧車に乗るのは私よ!」
「いいえ!私ですわ!」
地面に接すると同時に思いっきり滑らせた。
当然、そのまま体制を崩して転けた。
「二人乗りに乗るんだから椿は諦めなさいよ!」
「そうは行きませんわ!桜こそ諦めたらいかがですの?」
俺の中で覚悟が崩れ力が抜けて行くのがわかる。
争いの内容が観覧車だと?
ってかこれを聞くと俺はますますあの二人の所に行きにくくなるんだが…
どう考えても、ここで行く=奪い合いの人物だもんな。
…………さて、ちょっと自販機でも行ってコーヒーでも買って飲んでようかな。
体勢を直して自販機に向かうわけだけど…
「だったら本人に決めてもらえばいいのよ!真!」
はいはい、予想はしてたよ。どうせ逃げられるとは思わなかったよ。
ギャラリーの方々はキョロキョロとしてる。
まぁ、誰にたいして言ってるかなんてわからないからな。
俺も周りに習ってキョロキョロとするけど…
「なに他人のふりしてんのよ!真、こっち来なさい!」
やっぱそうなるよな。俺に向かって手招きまでしてるし。
視線が俺に集中しまくりだよ。
しょうがない…。行くか。
「はいはい。んで二人は何を揉めてんだ?」
周りから好奇の視線に晒されながら俺は桜と椿の所に行った。
「何って観覧車に乗る組み合わせよ。」
「そうですわ。二人乗りの観覧車に誰が乗るかの話し合いですわ。」
一応、話し合いで済ませようって気はあったんだな。一触即発って感じだったけど。
「二人とも乗りたいなら桜と椿で乗ればいいんじゃないのか?」
乗りたがってる二人の邪魔をするほど嫌な人間じゃないからな。
「あのね、真。私達の話し合いの内容は、どっちが真と乗るかなのよ。」
「そうですわ。真が乗るのは決定事項ですわ。」
なんでそうなるんだ?そんな乗り気じゃ無い俺より乗りたがってる二人が乗る方がいいじゃないか。
「私達は二人乗りに真と乗りたいわけ。それなのにあんたが居なかったら意味ないじゃないの!」
「そうですわ。少しでもお互いに差をつけたいのですわ!」
…ん?差を…?
あ、あぁ…。そういう事か…。
嫌、その気持ちはすごいありがたいんだけどな…。
この二人は好意をもってくれてるわけだからな。
「それじゃあ二人乗りじゃ無くファミリーのやつに三人で乗るってのは?」
「「えっ?」」
なんでこの二人はそんなに驚いてんだよ。
「それが嫌でどうしても二人乗りがいいって言うなら俺は乗らないから二人で乗ってこい。」
「ま、まぁ。」
「真がそう言うのでしたら。」
うん。物分かりのいい子で俺は嬉しいぞ。
「んじゃぁ、二人の争いが終わった所でこの状況をなんとかしてくれ。」
「この状況…ですか?」
どうやら二人は周りがどうなってるか理解してないみたいだな。
「周りの人達が桜と椿の言い争いに注目してたんだぞ?」
俺がそう言うと二人はようやく周りを見だした。
「え?え~~~?」
そして自分達が置かれてる状況を理解したらしい。
「つ、椿!あんたの所の部隊を使って!」
「ダメですわ。執事もメイドも駅以降は来ないように言ってますから!」
おうおう。二人共、大慌てだな。
「それなら一人一人殴って記憶を消すわ。」
「それはダメですわ。そのような事したら私達もただではすみませんわ。」
「だな。そんな事しようものなら法の裁きが来る前に俺が物理的な攻撃で止めるからな。」
まぁ、簡単に言えばぶん殴って止めるって事だけどな。
「じゃあどうするのよ!」
「知りませんわ。桜も少しは考えて下さい。」
慌てる二人とそれを見てるギャラリーの皆様。
それは結局開園になるまでずっとそのままだった。