駅前
桜と椿と遊びに行く当日、俺は駅前で非常に困った事態におちいっていた。
別に天気が悪いとか途中で事故にあったとかそんなんじゃない。
俺が困っている理由はというと…
「よかったら遊びに行かない?」
まぁ、ナンパだ。
さっきから絶え間なく声をかけられてもう、ウンザリだ…。
「結構。連れを待っているので。」
俺はできるだけ穏便に断り続けているわけだ。
駅前だけあって人が多い為こういった連中を物理的に沈黙させるのは問題外だ。
たまたま通りかかった中に宝華のお嬢様がいるかも知れないし、すぐ近くに交番もあるしな。
ってより明らかに困ってんだから交番の中の人が助けに来てもいいと思うんだがその気配も無しだ。
職務怠慢だろ…。
「連れって彼氏?」
ふざけんな!俺が彼氏なんて作るはずないだろうが!
「……。」
無言でナンパ野郎の反対に顔を向ける。我慢してるけどこれ以上見てたら手が出そうだ。
「無視しなくてもいいだろ?なぁ、話しようぜ。」
すぐに反対にまわって俺の顔を見るナンパ野郎。
イライラするなぁ…。
めっちゃ殴りてぇ…。
ヘラヘラしてるコイツの鼻っ面に拳ぶちこみたくなってきたぞ。
やってみたらどうなるかな?
こいつはのた打ち回るかな?
「真、お待たせ。」
俺の我慢が限界に近付いて来た時ようやく知っている声が聞こえた。
ナンパ野郎を無視してそっちを見ると、桜が歩いて来た。
「待ってはないけど早く着いたのに関しては後悔してる。」
桜は俺を見て現状をアッサリ理解したようだ。
「そうみたいね。どう見ても知り合いに声を掛けられてるって訳じゃなさそうね。」
「ああ。さっきからうんざりしてたんだよ。」
俺は嫌な顔を隠しもしないで桜と話を始めた。
「あ、この子が君の待ってた子なの?可愛いじゃん!俺もダチを呼ぶから2対2で遊ぼうよ!」
ホントにイライラするな…。物理的に黙らせてえ…。
「結構ですわ。一人呼んでも人数があいませんですから。」
ナンパ野郎も俺達も同時に声の方向を見た。
そこには相変わらずドリルヘアーの椿が居た。
「桜、真。お待たせいたしました。向かいましょう?」
そういうとナンパ野郎に見向きもせずに駅に向かって歩き出した。
当然そんな事をされて黙っているようなナンパ野郎ではなかった。
そもそもここで黙っているならあんなにしつこく声をかけないだろうからな。
「待ってよ。だったらさらにもう一人呼んで3対3ならいいだろ?すぐに呼ぶからさ。」
男はポケットから携帯を取り出しすぐに誰かに電話をしはじめた。
こっちの都合を一切聞かない自分勝手なやつだな。
いい加減限界に来ていた俺は一歩を踏み出した時
パチン…
椿が指を鳴らした。その瞬間だった。
「えっ?えっ?なんだよ?むぐぉ!」
どこからともなく現れた妙に身なりのいい男性二人がナンパ野郎を両脇に抱えて口を塞ぎながら連れ去って行った。
一歩を踏み出して殴ろうとした体勢のまま固まる俺と棒立ちで固まる桜。
何もなかったかのように普通に流れて行く人々。
「さぁ、参りましょうか?」
そして平然としてる椿。
「なぁ、今の方々はなんだったんだ?」
なんとか気を持ち直した俺は首を回し椿の方を向いた。
「あれは私の家の執事ですわ。」
なんて事を花の咲いたような笑顔を浮かべながら言いやがった。
「あれが噂に聞く『崎島家執事部隊』か。」
「なんだ、そりゃ?」
「その名の通り、崎島家の執事達の部隊よ。街中で椿がトラブルに巻き込まれそうになると現れるのよ。」
なんだ、そりゃ?
「ちなみに似たものに『崎島家メイド部隊』ってのもいるらしいわよ?」
め、メイドもかよ…。
俺はゆっくり駅前の人達を見渡した。
さっきのナンパ野郎はもはや影も形もない。
この人の中にその部隊の人間がいるって事かよ…。
椿の家はあなどれないな…。