屋上
「……ぎ……。」
「…らぎさ…。」
ん…なんだ…?
「桂木さん。」
肩を揺すられ声をかけられて俺は目を開けた。
視界に入ったのは俺の顔を覗きこんでいる会長さんとハリセンを振りかぶっている一文字さん。
「ダウト!なんでハリセンを振りかぶってんだ!」
そう言った瞬間に一文字さんはハリセンを背中に隠して首を横に振った。
「気のせい。」
「いやいや、気のせいじゃないから!肩からちょっと見えてるし!」
「それは幻覚。」
「それで、そっかぁとか言わないからな!」
この子は平然と何を言ってんだ…。
「桂木さん。そろそろ昼休みが終わりますよ?」
そんなやりとりの中、平然として居られる会長さんにも驚くけどな。
会長に言われて時計を見ると昼休み終了5分前になっていた。
「随分と寝てたな…。しょうがない、教室戻るかな。」
戻ると逃げる所を目撃してた誰かさんがうるさそうだけど…。
「桂木さん。ここにはどうやって来たのですか?」
「そういう会長さん達はどうやって?そして何をしてんですか?」
ここは立ち入り禁止のはずだからな。だからこそ屋上に逃げたんだし。
「私と一文字さんは生徒会の用事で、です。ちゃんと鍵を借りて入ってきましたよ?」
横では一文字さんが無言で頷いてる。へぇ~、昼休みなのに大変だなぁ。
俺は立ち上がると屋上の落下防止のフェンスまで行った。
「俺は授業中に窓から教室を抜け出してここから上がってきたんですけど。」
フェンスから腕を出して下をチョンと指差す。
「そこから?」
「危ないですよ?」
まぁ確かになれてない人なら危ないだろうな。かと言ってこんな事に慣れてる俺もどうなんだかな。
「霞ヶ崎では結構やってましたよ?部活の勧誘とか意味の分からない事で追われたりするの多かったから。」
「勧誘?」
一文字さん、そんな首を軽く傾けながら聞いてくるなよ。
「そう。霞ヶ崎って人数多いから部活の数も多くてね。そんな部活連中から大会に出てくれって勧誘されてたんだよ。」
主に朝の登校時に勧誘されてたんだけど昼休みとかでも結構来てたからな。
「まあ、大体断ってたけどな。」
「それは何故ですか?」
おっと、今度は会長か。
「他の学校の真面目に練習してる人達にろくに練習もしないヤツが挑むのは申し訳ないから。大会ってのは日頃の成果を出す場だから。」
だから俺にはそういった方々と対峙する資格は無いと思ってるからな。
たまに出ても団体戦とかで負けないとか目立たないでやってたし。
そのせいでゆ~ちゃんに怒られた事もあったな…。
「そんな話をしてるより…昼休みもう終わりだろ?戻らないとな。」
ここで開始のチャイムが鳴ったらさすがに間に合わないからな。
「そうですね。私と一文字さんの仕事も終わってますし、戻りましょう。」
「来たルート戻るの?」
「なんだ?それはイジメか?普通に戻れるなら普通に教室に行くぞ?」
なんで自ら進んで苦労をせないかんのだ。
「ではお二人共中に戻って下さい。鍵を閉めますよ?」
会長がドアを開けた状態のままで俺達を見てる。これは申し訳ないな。
いそいそと屋上から校内に戻ると会長はドアの鍵を閉めた。
「あ、桂木さん。2つほどよろしいですか?」
「はい?」
会長の声により階段に向かって出していた足を戻して後ろを向いて会長を見る。
「まず一つは、リボンを着けて下さい。リボン無しでボタンを開けるのは校則違反になりますので。」
あぁ~…。確か初日に姫ちゃんにも言われたな。懐かしいな。
確かにこっち来てから一度もリボンしてないな。
「取り締まられるならします。ただ不慣れなんでしたく無いのが本音ですけど。」
「それじゃあ校則の意味が無い。」
だよなぁ~~。守るのが校則だもんな。
ちなみに
『廊下の窓から飛び降りては行けない。』
『ベランダ(テラス)の手すりを使って屋上に上がっては行けない。』
は校則でやっちゃ行けないって書いて無いのは知ってる。
だけど
『屋上は危険の為立ち入りを禁ず。用事がある際はその旨を教師に伝え許可が下りた際には鍵を貸し出し立ち入りを認める』
って書いてあるからやっぱり違反か?
ドアから入らなければ違反にはならないのか?
「そして2つ目ですが…。」
そうだ、2つって言ってたな。
「来週の金曜日の午後は全校で授業は中止になります。」
授業中止!?それは願っても無い朗報じゃないか。
「ちなみに桂木さん。来週の金曜日は何の日だかご存知ですか?」
はて…?来週の金曜日?なんかあったか?
「その様子ではわからないようですね。」
はい。全くもってわかりません。
「来週の金曜日で…桂木さん。あなたの交換留学が終了します。」
………は?
「そのため来週の金曜日の午後は集会が開かれます。」
終了…?もうそんなになるのか?
「どうしたの?」
「あ…いや…。そっか…交換留学だったんだな。」
なんか色々あったからここに居るのが普通になってた…。
そっか…戻るのか。
「その集会の際に桂木さんから一言頂きますので…そのつもりで居て下さい。」
会長はニッコリ笑って締めくくった。そして俺を追い越して歩いて行った。
会長の後ろには一文字さんが続いて俺は二人の後をただついていく様に歩いた。
何も考えずに歩いたけど気付いたら自分の教室の前に居た。
ちゃんと教室の位置を把握してるって事だな。
「…ま、真…。あんた…どこに…行って…た…のよ…。」
突如後ろからハァハァって荒い呼吸と共に両肩に手が押かれた。
恐る恐る振り返ると、肩で息をしながら俺を見てガッチリ俺の肩を掴む桜と喋れないくらいに疲労して俺の肩に手を置く椿がいた。
あ、あの…指めり込んでますよ?
ってか痛い痛い痛い痛い!