昼休み
「起立、礼。」
終わった…。やっと終わった…。
流石にキツいな。そもそも授業で作法とかあってもな…。全然意味わかんねぇぞ…。
さて、取りあえず昼だ!飯食って午後に備えるか…。
「桂木さん。」
ん?俺を呼ぶこの声は一体だれだ?机から視線を上げて上を見ると…
うわぉ…この方は俺の後ろの席なのにいつの間に前に回ったんだ?
「ちょっといい?」
「拒否権は…?」
「ない。」
バッサリ切られた。…せつない話だなぁ。
「昼食をとらないと…。」
「いいから。」
この目はマズイな。断ったら殺るって読めるな。でも断らなくても結局殺られそうだけど。
「お付き合いします…。」
少しでも寿命を伸ばそう。本当に少しかもしれないけど…。
「じゃあ着いてこい。」
クルッと背を向けて歩きだす水無月さん…だっけ?今なら逃げられそうだけど…。逃げたら後が怖いな。着いて行くか…。
「桜様〜〜〜!」
そして廊下に出て直ぐに囲まれてる。耳が痛くなるような声だ。
「桜様〜〜〜!」
「お昼をご一緒に!」
「いえ、私と!」
なんだこりゃ…。全く訳のわからん状況だ…。
「すまない。今日は予定があるんだ。また今度な。」
うぉ!笑った!初めて見た!
「きゃ〜〜〜!」
そんでもって囲んでた人達が卒倒した!なんて破壊力だ!
そんな倒れた人達の横を抜ける様に歩いてく水無月…だったよな?俺もその後ろに着いて行く。
「人気なんですね。」
小さな声でそう尋ねた。大きな声だすとなんかヤバい雰囲気だからな。
「役職着いてるからだ。別に興味ない。」
サラッとしていらっしゃる。見た感じ役職どうこうだけじゃ無いと思うけどな。嵐が居たら黙ってないだろうな。
それだけ言うとスタスタと歩いて行く水無月さん。すれ違う生徒から熱い視線浴びまくりです。そして俺にくる視線が辛いです…。
「ここだ。」
視線にさらされながら歩いて着いたのは…道場か…?
靴を脱いで続く様に入る俺。目の前には横開きの扉。こりゃ間違いなく道場だな。
「入ってこい。」
中をキョロキョロと見てると声がかかる。あ、もう扉の向こうに行ってるし…。
「失礼します。」
入り口で一礼してから中に入る。
「桂木さん。お待ちしてました。」
はいはい、お待たせしました…って、おい!なんで他に人が居るんだ?
中に居たのは会長、会計の人、それと甲野さん。
まさか袋叩きにあうなんてオチか?
「どういった事でしょう…?」
考えられるのは袋叩きか…たこなぐりか…フルボッコ…。ってだいたい同じ意味だな。
「水無月さん。説明してないのですか?」
口を開いたのは会長。ちなみに会計の人からはものごっつい睨まれてる。刺さります!刺さりまくりです!
「してない。説明よろしく頼んだ。」
それだけ言うと個室に入って行った。更衣室か?
「桂木さん。突然来て頂いて申し訳ありません。」
「いえ…。」
視線を閉まったドアから会長に戻す。
「実は水無月さんが桂木さんと手合わせしたいと言われまして。」
手合わせ…?お互いのお手々のしわとしわを合わせて…じゃないよな…。
「それは昨日の件で…ですか?」
相当恨んでるだろうからな。公に仕返しなんだろうな。
「そうです。ただ仕返しではなく技術を知りたいとおっしゃってました。」
技術ね…。そんなたいしたもんじゃないけど…。
「…わかりました。私でよければ…。」
断れないよな。いきなり殴ったりしてるし。…殴ってないな。副会長は蹴ったんだな。
「ありがとございます。では桂木さんも準備して頂けますか?」
準備と言われましても…特にすることないけどな…。唯一あるとすれば…。
「ヘアゴムありますか?」
髪が邪魔だ。普段なら気にしないけど動くなると流石に気になる。
「髪を結ぶのですか?でしたらこちらに来て下さい。私がやります。」
お言葉に甘えよう。髪なんかいじらないから苦手だし。
会長の所に行って座る。会長は俺の後ろに回った。…会長以外の足音も聞こえた気がする…。
「桂木さんの髪は染めてる訳では無く地毛なんですね。根元まで同じ色ですね。」
「キレイな髪ですね。」
この声は甲野さんだな。ってかあんまり観察しないでもらいたい…。恥ずい。
更に願うなら会計の人。正面からジーッと見ないで下さい。
「あの…何か?」
「気にしないで。」
気になるわ!せめて座るなら普通に座ってくれ!ちゃんと膝を床につけて!
くっそ…、どこを見てればいいんだよ…。やっぱ横か?
「頭を動かさないで下さい。」
はい、すいません。動かしません。再び正面を向く。視界に入る会計の人の顔。及び会計の人の白い足と薄い水色の……。
あうあう…。まぁ見れて嬉しいのはあるんだけどさ…。流石に堂々と見るのはマズイし…。
あ…。ある事がわかった。俺って天才じゃねぇ?そんである事をした結果……
ほら!見えなくなった!予想通りだ!これで問題無いな!後は髪を結んでもらうまでこのままで居ればいいんだ。
って結ぶだけなのにいやに時間かかってんな…。
「あの…まだ結び終わらないんですか?」
「今ブラシかけてますからもう少々お待ち下さい。」
ブラシ?たかが結ぶだけなのになんで?
「サラサラですね。羨ましい。」
「全くです。」
いやいや、そんな事無いと思うけどな…。って早く終わってくれないかな…。
「これはどんな状況なんだ?」
あ、あっちは準備終わったみたいだな。副会長の声が近くで聞こえる。…どんな状況なんだろうな…。
俺の後ろで俺の髪をいじってる会長。それを見てる甲野さん。俺の前に座ってる会計の人。それに挟まれて目を閉じてる俺。…自分でいいながら訳わからない状況だな。
「幸、見えてるよ。」
「知ってる。別に減るものじゃないし。」
減ってます!俺の精神的ななにかが現在進行形で!INGでガリガリ減ってますから!
「桂木さん。準備はできた?」
う〜ん…どうなんだろう…。
「会長、どうですか?」
「大丈夫ですよ。髪を結ぶのにそんな時間かかりませんから。」
じゃあ今まで一体何をしてたんだろう…。
「じゃあ桂木さん。やろうか。」
やろうか…って…。うぅ…。お腹減ったよ…。