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逃亡

「キツいな…。」

「さすがに…疲れるわね…。」

「……………。」


上から俺、桜、椿だ。


まぁ休み時間の度に追われてればこうなるよな。


椿なんかは喋れないくらい疲れてるし。


「問題は…次だな。」


そう。追われるものとして次が最大の山場だ。この授業で午前中は終わり…つまりは昼休みになるんだ。


その時間まで後10分ほどになっている。


授業など耳に入らずただどう逃げるかだけを考えていた。


窓の外は雲一つない天気で俺の心の中とは正反対だった。


…窓かぁ。


ある事が俺の頭に閃いた。こんな状況なんだ今更お嬢様らしくもなにもないか。


俺は窓に手をかけてゆっくりと窓を開けた。


外から入る空気が俺の体を撫でて気持ちいいな。


窓の外はベランダ(テラス)になっていて人がいられるようになっている。


落下防止に柵が設置されている普通のものだ。


窓を開けた俺はペンケースからボールペンを一本取り出して一息ついた。


「よし。」


手にもったボールペンを俺の席とは反対側…つまり廊下側の扉に向かって投げた。


ペンは真っ直ぐ飛んで行き、カッという乾いた音を立てて壁に刺さった。


「キャッ!」


近くのクラスメイトが悲鳴を上げた。


教師を含む俺以外のクラス全員の意識がそちらに向いた。


その瞬間に俺は窓枠を飛び越えてベランダ(テラス)に出た。


そして柵の上に立ち天井…上の階の柵の一番下を掴む。


落下防止の為柵の高さが高いのが幸いして手は楽に届いた。


その状況になってから窓の中……教室内を見るとまだ騒然としていた。


そんな中、桜と目が合った。


まぁ、桜は俺の後ろの席だから俺の動きはバッチリ見えてたんだろうな。


俺は桜にバイバイの意味で手を振ってからその手を上に上げて上の階の柵を掴んだ。


「よっと…。」


腕に力を入れて体を上に上げる。


顔が上がって上の階の教室の様子を見た。


流石は真面目なお嬢様学校。みんな熱心に授業を受けていた。


これなら外を見る人は居なさそうだな。


俺は柵を乗り越えて一息ついてからさっきと同じように上へと登った。


目指すのは立ち入り禁止になってる屋上だ。


「よっこいしょ。」


最後の柵を乗り越えて無事に屋上の地面に足を付けて一息つく。


天気は快晴。風は少しふいていて暑さは無い。しいて言えば快適だ。


「とりあえず昼休みはここですごすか。」


大体追われるのは3人でも追うのは不特定多数なんだ。


そんな分の悪い鬼ごっこを長時間やるのはごめんだ。


2人には悪いが俺はここで昼を過ごす!


時間をみると後5分くらいで昼休みになるくらいだ。


俺は階段のドアの横の壁に背中を預けて座った。


とりあえず寝て過ごすとしよう。それ以外にする事ないし。


俺は静かに目を閉じた…






お昼休みに入ると普段とは違う騒がしさに学園内は包まれた。騒がしさの内容は今日の朝に配られていた号外のせいだと思う。


そのせいで私の所にも何人も生徒が来たから。


「一文字さん。真様はどちらを選ばれたのですか?」

「真様と桜様…。お似合いですわ。」

「いえ、椿様と真様がピッタリですよ。」


そんな言葉に私は特に返事を返さなかった。


何故なら状況もわからずに答えるのは間違ってると思うから。


まぁ…確かにどうなってるのかは気になるけど…。


そんな事を考えてると私の携帯が震えた。


画面を見ると『冬野会長』と映し出されていた。


「はい。一文字です。」


『冬野です。今、大丈夫ですか?』


「はい。大丈夫です。」


昼食はもう食べたし他にすることもないし。


『でしたら手を貸して頂きたいのですが。』


「わかりました。どこに行けば?」



会長が指示したのは階段の踊場。…なんでここを踊場って言うのかしら?こんな所で踊ったら足を踏み外して落ちてしまいそうなのに。


「一文字さん。お待たせしてすみません。」


階段を眺めていたらそちらから会長がやって来た。手にはなにやら袋を持っているけど。


「いえ。それでなにを?」


呼ばれて来たけど何をするのかは全く聞いていなかった。ただみんなからの質問から逃れられるから来たのだ。


「屋上の柵に数カ所緩みと塗料の剥がれがあるとの事なのでそれの確認です。」


屋上は立ち入り禁止だから普段は確認出来ないから確かにそうなっている部分もあるでしょう。


「なぜ「一人でやるよる二人の方が楽しいと思いません?」


私の言葉を遮るように会長はそう言った。会長が言ったのは私が聞こうとした事の答えでした。私が聞こうとしたのは


「なぜ私が呼ばれたのか?」


だったのだから。


「今日は天気もいいですから屋上は気持ちいいでしょうね。」


会長はポケットから鍵を取り出すと私の前を通り階段を登っていった。


確かに教室にいるよりは何倍も気持ちよさそう。


私は会長に続いて階段を登った。


会長は鍵を開けてドアを開けた。


風がスーッと入って来て気持ちいい。これなら屋上はホントに気持ちよさそう。


「あら。」


なんだろう…。会長が何か見つけたみたい。


「何か?」


会長の背中に追い付き声をかけると会長はドアのすぐ横を指差した。


そこには壁に寄りかかって寝ている渦中の人、桂木さんがいた。


秋の日差しを浴びてキラキラと輝く髪。そして整った顔立ち。なにかの絵か写真のように見えた。


「騒ぎに疲れてお休みみたいですね。…今の桂木さんを写真にとったら欲しがる子が多そうですね。」


全くもって会長の言う通りだと思う。今や桂木さんは学園の人気者だし、憧れを持っている子も多い。


「どこから入ったの?」


私の口から出てきたのはそんな言葉だった。


会長が鍵を開けるまでここには入れないはずなのに彼女(彼かな?)はここで寝てる。これで寝てるんじゃなく死んでたら屋外ながら密室的な感じなのよね。


「一文字さん、カメラ持ってますか?うまくいけば雑費が増やせますよ?」


会長はどうやら本気みたいだった。…たまにこの人の考えがわからないわ。


私は当然カメラを持っていないので首を横にふると会長は残念そうな顔をした。


「そうですか。では起こすと悪いですから静かに作業をはじめましょう。」


今度は首を縦に振り私は時計回りに、会長は反時計回りに屋上の柵の点検をはじめた。


点検中に校庭を見ると人の集団が元気に走ってるのが見えた。


あれは桜かな?当人の一人はここで寝てるのに大変ね。

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