号外
いつも通りの朝だった。
朝からやかましく鳴る目覚ましを手探りで探して止めて二度寝。
5分後になった携帯のアラームで渋々起床。
もぞもぞとベッドから降りて台所へ。
お湯を沸かしながら目玉焼きを作り皿に盛る。
パンを焼きながらお湯を注いで珈琲をドリップ。
冷蔵庫からヨーグルトとジャムを取り出し座ると丁度パンが焼ける。
毎度の事ながらジャストのタイミングだな。トーストをかじりながらテレビを付けてニュースを見る。
食事を終えると台所に皿を置いて洗面所に。顔を洗って歯を磨いて頭をスッキリさせる。化粧なんて当然しないから洗面所はこれで終わり。
トイレ行って着替えて準備完了。さて、今日も学校に行くかな。
おっと…携帯忘れてた。
寮から外に出ると今日もいい天気だ。こんな日は屋上とかでゴロゴロするの理想なんだけどなぁ…。
寮には結構な人数暮らしてるから学校に向かう道は当然ながら他の人と同じだ。みんな仲のいい人と話しながら登校してる。
ちなみに俺の近くには……誰も居ませんよ。相変わらずだな。誰も話しかけてはくれないし。…落ち込んじゃうぞ。
でもずっとこんなんだからな。まぁ慣れたっちゃぁ慣れたな。
そんな事を考えてると学校が見えて来た。校門の近くには他校の男共がわんさか。
毎回思うんだけどコイツ等遅刻しないんかな?まぁ見知らぬ人が怒られようが俺の知ったこっちゃないんだが。
男共の前を通過するときに
「行けよ。」
「お前が行けばいいだろ。」
「近寄れるオーラじゃ無いんだよ。」
とか聞こたけど…話しかけないならわざわざ来なければいいのにな。時間の無駄だろ。
校門を過ぎて玄関に向かうと……
「なんだ、ありゃ…。」
掲示板付近に人が大量に居た。なんだ?重要な連絡事項が?
「ごうが~い!ごうが~い!今朝出来たばっかりの~新聞よ~。」
そんな声と共に紙が空を待っていた。近くを飛んでいた紙を掴み内容に目をと…お………
よし、帰ろう。
そう判断した俺は180度体を回転させて再び校門を目指して歩き出した。
しかし、校門に着く前に俺は動きを止められた。
「真?なに外に行こうとしてんのよ?」
「そうですわ。HR始まりましてよ?」
俺の前に立ち、俺の進行を止めたのは、桜とドリル椿だった。…今、会っちゃいけない二人だ。
「帰る。帰ってニートになる。」
俺は1分1秒でも早くここから離れたいんだ。掲示板付近に集まってる人達が俺達に気付く前に!
「ダメに決まってるでしょ。ほら、行くわよ。」
桜はガシッと俺の腕を掴むと玄関の方に向かい出す。
「いや、親戚の叔父さんの友達の妹のクラスメートのペットの元飼い主の通う医者の先生の子供が倒れるって虫の知らせがあったから帰る!」
「それはどう考えても他人ですわ。ほら、行きましてよ?」
少しは考えて~!桜なんか理解出来ずに考えてんだから~!
そんな願いも虚しく椿は桜とは逆の腕を掴んで俺を引きずりだす。
ダメだ~!今アソコに行ったらヤバい事になるんだよ!
こうなったらコレを見せるしか無いな!
「桜!椿!これを見ろ…って腕!桜!腕極まってるから!」
ひねったらビキッと来たぞ!まさか掴んでるだけじゃなくて関節を極めてると思わなかった…。
「なによ?」
「なんですの?」
二人は俺が痛みに耐えながら出した号外に目を落とした。
ジックリ読む必要はないんだ。チラッとでも見れば内容はわかるんだから。
「今日は帰ろう。」
「そうですわね。家で大人しくするといたしましょう。」
よし!二人がちゃんと理解してくれた!掴んでた腕も放してくれたし!
「よし、帰るぞ!バレないうちにこっそりと。」
二人は無言で頷いて俺の後に続いて校門に向かって歩き出した。
バックに某彗星から地球を守る宇宙飛行士の曲がかかりそうだ。
しかし、そんな壮大な行進はあっさりと終わりを告げた。
「お三方、どうしました?校舎は反対ですよ?」
静かに退却しだした俺達の前に現れたのは生徒会長様でございました。
「ちょっと体調がすぐれないもので…寮に戻って休もうかと…。」
「あ、私も。」
「同じくですわ。」
俺の意見に乗っかる二人。…って乗っかったらバレバレだろ……。
「わかりました。とにかく教室に向かって下さい。遅刻してしまいますよ?」
案の定あっさりバレたぞ…。
教室に向かえですか…。教室に行くにはあの人だかりを超えなきゃならないんですよね…。
「あの人だかりはなんですか?あれでは中に入れないではないですか。」
俺がチラッと見たのに気付いたのか会長も人だかりに目を向けて歩き出した。
なぜか桜の手を引きながら。
よし、このスキに桜を犠牲にして逃げるとするか。
俺が一歩を踏み出すと体が後ろに引っ張られた。
「真。逃がさないわ。」
「離せっ。お前を犠牲にして俺は助かるんだ。自分を犠牲にして人を助ける。美談じゃないか。」
「自ら犠牲になるのと生け贄とじゃ違うから。真も一緒にね。」
ぐぉぉぉぉぉっ!手がっ!手が痛い!ミシミシ行ってるから!
そんな激闘の中、俺の視界の隅にドリルが揺れたのが見えた。とっさに俺は空いてる手を伸ばしてドリルの肩を掴んだ。
「椿ぃ。この状況でお前だけを逃がすと思うか?」
「お離しなさい。私は最後の一人になっても無事生還してみせますわ。」
「一人になんかしないさ。さぁ、一緒に行こう。」
「そうよ、椿。私達は仲間じゃない。あなたを一人にしないから。」
「さわやかに言ってますけど騙されませんわよ。手をお離しなさい。」
チッ!今の流れなら『わかりましたわ。』とか言ってくれると思ったんだけどな…。
現状は会長が桜の手を引き、桜は俺の手を握りつぶそうとしてて、俺は椿の肩をガッチリ掴んでる。
つまりはほぼ一列になってるって訳だ。朝の登校時間に校門付近でこんなことしてたら………まぁ目立つよなぁ~。
「桜様!」
「椿様!」
「聖様!」
と、まぁ人気者は声をかけられる訳なんだよ。
声をかけられるって事はその人がそこにいるってのがバレるわけだ。
チラッと見ると人だかりから人が少しずつこっちに向かって来てるのが確認できた。
こりゃぁヤバいんじゃないか?
「桜様。これは本当なのですか?」
「椿様。お答え下さい。」
迫り来る方々が手に持ってるのは号外新聞。あっちゃ~…最悪だ。
「皆様が手にもたれてるのはなんですか?」
当然、会長はそれに目が行くよな…
「えっと…、『噂のお嬢様に熱愛発覚!…短期留学中の桂木真嬢が告白される現場に本誌記者が遭遇した。』…あら、随分衝撃的な現場に…。」
全然人がいるような感じはしなかったんだけどな…。
「『お相手は同じクラスの水無月桜嬢と崎島椿嬢。この大人気カップルはどうなるのか?』どうなるんですか?」
ここで保留って事実ひ言ったらどうなるかな~。桜と椿のファンから罵詈雑言を浴びせられるかな?それとも物理的にくるかな?
「そもそもその新聞は間違ってるんですって。大人気なのは桜と椿だし…。」
人気なのはカップルじゃないじゃん!
「問題点はそこでは無いと思いますが…。それに間違いでも無いと思いますが。」
「まずはこの囲みの中から私達がどうやって抜け出すかが一番重要なんじゃないかな?」
桜、お前はいい事を言った。確かにこの人垣をどう抜けるかが問題だ。
手を出す訳には行かないしなぁ…