桜の考察
前までは全くもって謎だった事がある時から謎じゃなくなった。
「あ、次の授業、着替えですね。」
「そうね。着替えましょう。」
ガタッ…
「真。どこに行きますの?」
「ん?化粧室。厠。雪隠。」
「その3つの意味は同じですわ。」
真は着替える授業の時は必ず化粧室に行く。それでみんなが着替え終わるくらいに戻ってくる。
これってやっぱりアレだからよね…。
「桜?着替えませんの?」
「ん?着替えるわよ。」
ってボーっとしてたわ。私も着替えないと。
「そういえば椿。今日の体育って何やるか知ってる?」
「さあ?存じませんわ。知りたいのなら体育委員の方に聞いたらいかがです?」
「ん~、別にそこまで知りたい訳じゃないからいいや。」
まあ何をやるにしてもそれなりに出来るから問題ないしね。
「体育に関しては桜が羨ましいですわ。」
「あんたは急に何を言ってるのよ。」
「桜は体育に関しては成績がいいから羨ましいのです。」
その『体育に関しては』ってのは余計よ。そりゃあ確かに他の科目の成績は芳しくないけどさ。
「それを言うなら真だって体育すごいじゃないの。」
「確かにそうですわね。二人が羨ましいですわ。」
こんな事言ってるけど椿だって体育の成績は悪い方じゃないわよ。平均よりちょっと上な感じね。
「あら、真。お帰りなさい。急ぎませんと時間ありませんわよ?」
あ、真が戻って来てる。教室内の子はもう着替え終わってるわね。着替えどころか教室に居ない子も結構居るわね。
「おっとそうだな。急がないと。」
周りを確認してから着替え出した真。その着替えの早いこと早いこと。
「つうか桜と椿はいいのか?教室にもう俺達しかいないぞ?」
わぉ!いつの間に!確かに教室に他に誰も居ないわ。
「それは真が着替えるのが遅いのが悪いのよ。早くしてくれないと私達まで遅刻しちゃうじゃないの。」
「そういう事なら行くか。着替え終わったし。」
あら、こんな話しながらもちゃんと着替えてるわ。
「そうね。それじゃあ行きま「お待ちなさい!」
何よ、椿。早く行かないと遅刻しちゃうじゃない。
「真。脱いだ服はしっかり畳まないとダメですわよ。」
服?あ、ホントだ。確かに脱いでそのまま机の上に置かれてるわ。
「そんなん別に大丈夫だって。どうせすぐに着替えるんだしさ。」
「駄目ですわ。そういう少しの緩みが駄目になって行くのですわ。」
あ~あ…。こうなっちゃうと椿は止まらないのよね…。
「真。ここは素直に畳んだ方がいいわよ。こうなったらしつこいから。本当に遅刻しちゃうわよ。」
椿に聞こえないように真の耳元でこっそりとつぶやいて上げる私。なんてやさしいんでしょう。
「マジで?しょうがねえな…。」
真はあっさり折れて素直に服をたたみ始めた。
「よし、今度こそOKだろ!いくぞ。マジで遅刻する!」
そう言うや否やいきなり走り出す真。って早っ!
「廊下を走ってはいけませんわ!」
「そうよ!校則によって罰するわよ!」
とか言うけど私も結構走ってるのよね。今のは真があんまりにも早いから追いつく為のやつよ。
「じゃあこれならいいんだな。」
ガラッ
「危なっ!」
「真!」
真はいきなり廊下の窓を開けると窓から身を投げ出した。
私と椿は窓に駆け寄り下を見た。ひょっとしたら見たくない光景を見ちゃうかもしれないけど…
「…なんで平然としてるのよ。」
「ここ3階ですわよね…。」
下では何事もないかのように真が私達に向かって手を振ってた。
「先に行くから。」
それだけ言うと真は普通にグラウンドに向かって走って行った。
「…あの娘はどんな体をしてますの?」
「さぁ?私も気になるわ。…とりあえず急ぎましょう。遅刻しちゃうから。」
私と椿は廊下を早歩きで進んで行った。ホントは走りたいんだけど椿が文句言うからね。
グラウンドに着いたのは授業が始まるギリギリだったわ。
担当の教師がグラウンドに入って来るととクラスのみんなから小さな声があがった。
「今日、宮下先生なんですか?」
「大石先生お休み?」
とかね。まあ全体的に今日の担当教師を歓迎してない声よ。
「なあなあ桜。あいつ評判悪いのか?」
そんな声に混じって後ろから声をかけられた。考えるまでもなく誰だけはわかるけど。
「宮下先生よ。あの先生ちょっと異常なのよ。最初のランニングで一番遅い人をずっと走らせたりとか…。まぁ真ならそれに引っかかること無いと思うけど。」
「ふ~ん…。イヤなやつだな。」
表向きは生徒の不得手な部分を埋めるって名目らしいけどね。やられる方からすればそんなの関係ないし。
「今日は大石先生が所要でお休みしてますので私が代わりに担当します。準備運動の後、各自のペースでグラウンドを3周して下さい。」
やっぱり開始のランニングやるのね。とっとと終わらよっと。
代表の号令の下みんな準備運動をしてる中、私はそんな事を考えてた。チラッと後ろを見たらかなり真面目に準備運動してるのが見えた。かなりやる気ね。
「それではランニング始めて下さい。」
宮下先生がそういうとみんな走り始めた。まぁウォーミングアップがわりに軽く走ってっと…
私はそんな足遅くないから流し気味に走ってもビリって事はないしね。
「桜。真はどこにいますの?」
走り始めて少ししたら椿が声をかけて来た。椿もいくらか余裕ありそうね。
「真?あの娘の事だから先頭グループにいるんじゃないの?」
「私もそうかと思ったのですけど前には見当たらないんですわ。」
そう言われて私も前の人達を見たけど確かにあの目立つ金髪が無いわね。
「ホントだ。まぁ真の事だから大丈夫でしょ。」
「そうですわね。真が最下位というのは考えられませんものね。」
私と椿のこの考えは……………覆された。
「はい、3周終わりっと。さてさて、真はどこにいるかな~?」
横で息を整えてる椿は放っておいて私は走ってる娘達を見て行った。
「桜…真は…居まして?」
前から順に見ていってようやく真を見つけた。…って、あれ?
「居たけど…すごい位置よ。」
真は私達の予想に反して最下位の子の横を走っていた。
「なんで真があんな位置で走ってますの?」
「ひょっとしてさっき着地に失敗してたとか?」
そうじゃないとこれは説明がつかないんじゃないかな?
そんな話してるうちにもうすぐ真がゴールしそう。
「もう少しですよ。頑張りましょう。」
「はぁ…はぁ…はぃ…。」
なんて言うか励ましながら走ってるわね。
「はい。ゴールですよ。」
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
とりあえずゴールしたわね。最後真が背中押してたけど…。アレ?背中押したって事は最下位は真なんじゃない?
「みんな走り終わりましたね。最後は…桂木さんですね。」
「はい、そうです。」
何のん気に返事してるのよ。ちゃんと説明したのに。
「では、桂木さんは今から更に10km走って下さい。後の人達は体育館に移動して下さい。」
10km!?今の時間を考えると授業中には間に合わないじゃないの。
「はい。わかりました。」
そしてアンタはなんで快諾してるのよ。
「真?大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。授業中には体育館に行けると思うし。」
この余裕は一体なんなのかしら…。
「桂木さん、はじめますよ。皆さんは体育館に移動して下さい。」
先生に呼ばれると手をヒラヒラふりながらスタート位置に向かった。
私それを見ながら体育館に足を向けた。
「真は大丈夫でしょうか?」
「本人は大丈夫って行ってたけど…。」
体育館ではバスケットボールとバレーボールに別れてそれぞれ自由にやってる。私と椿はバスケットボールで今は休憩中。
体育館の壁に寄りかかってやってる試合を観戦中。
当然話題は今走ってる真の事。そして真の事を気にかけてそうな娘がもう一人。
それはチラチラと出入り口を見てる娘。ランニングで真と一緒に走ってた娘よ。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。真は真なりの考えがあったんだろうし。」
「そうですわよ。そうじゃなかったらあの位置を走る訳ありませんもの。」
とは言ってるけど授業時間いっぱいまで真は走らされるんだと思うけど…。
「桜。そろそろ私達の出番のようですわよ。」
「そうみたいね。さて、行きますか。」
「ちょっと疲れたけどまだまだ動けますからね。」
・・・・・あれ?
私と椿の話に加わってきたのは?
「うん、意外となんとかなりましたね。」
「「ま、真!?」」
そう。まだ走ってるはずの真が私達の後ろに立ってたの。
「しかしバスケットボールか。もう走りたくないんだけどな~。」
そんな事言いながら足取り軽く真はバスケットのコートに入って行った。
…多少はわかったつもりだったけどあの娘は謎が多すぎるわ。