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禁忌

「そいつらを生きて帰すな!」


そう叫んだ男は鼻から血を流しながらみんなの注目を集めていた。


「真。浅かったんじゃないのか?」


「おっかしいな~。確実に捉えたと思ったんだけどな。」


だってブーツで顔面にソバットだぜ?普通立ち上がれないって思うだろ?


「犯れ!殺れ!ヤレーーーーーーッ!」


あ…、あの目はヤバいな。イッちゃってるぞ。


そんなヤツの叫びを聞いてヤツの仲間達は殺気だってきた。手には各々が得物を持って。


男達が持っているのは鉄パイプとか角材とか木刀とか空き瓶。それにコショウとかタバスコとか…ってある一部のヤツ!お前はその武器で何をする気なんだ!


目潰しか?目潰しなんだな?そんなもん喰らわないからな!


「いやいや、囲まれちまったな。」


「全くだ。嵐、後ろ任せるぞ。」


「はいよ。その代わり俺の後ろよろしくな。」


俺と嵐は背中合わせになって立っている。さてさて、この人数はどうしたもんかね…。


「話が違う。」


「うるせぇ!引っ込んでろ!」


パシンッ!


そんな声と音が聞こえた。人垣の向こうらしく姿は見えなかったけど。


会話はどうでもいいんだ。肝心なのは一文字さんを殴ったって事なんだ。


「嵐、背中はいいや。一文字さんを頼むわ。」


「構わないけど大丈夫なのか?」


「あぁ、危ないし。それに見せたくないからな…。」


大事なのは前半より後半だ。これからの俺の姿を見られたくないんだ。


「んで、この厚い壁を俺一人で破れってのか?」


「なんだ?出来ないのか?」


「その『俺なら出来る』って感じで言われたら出来ないって言えなくなるだろ。」


別にそんなつもりじゃなかったんだけどな。


「しょうがない。やってやるよ!」


嵐はさっき声のした方に向かいだした。


普段は馬鹿でどうしようもないヤツだけどこういう時には頼りになるヤツだ。一文字さんの事は任せよう。


相手は二つに別れた。嵐を迎えるヤツらと俺に来るヤツら。


「死にやがれ!」


誰が親切に死ぬかよ。まだまだ長生きしたいんだからよ。


俺は向かってきたヤツらに集中する事にした。



・―・―・―


金髪の大きな男の人が叫ぶと桂木さん達が男の人に囲まれた。


それに気付いた私は男の人に向かって行っていた。


「話が違う。」


話では彼女がこの人…金色夜叉を名乗る人に勝てば私は解放されるはずだった。


そして彼女と一緒に来た男の人は相手を倒した。


私はそれを金色夜叉を名乗る人に伝えたかった。


でもその結果は…


「うるせぇ!引っ込んでろ!」


そんな声と共に振り払われた手で返された。


その手は私の頬に当たり私を吹き飛ばした。


飛ばされた私は汚れた床を滑った。


痛みは感じ無かった。ただ自分の無力さを思い知った。


危ないってわかっていながら助けに来てくれた彼女に対して私は何も出来ない。


その彼女は大勢の人に囲まれている。囲んでる人は手に色々な物を持っていた。


助けに行きたいけれど私の足は動かない。気持ちとは裏腹に体はあそこに行っては行けないと…


ただ怖かった。この人達が…。


「うおぅりゃ~!」


そんな私の目の前を影が横切った。その影は壁にぶつかり床に落ちた。


落ちたのは人だった。つまり今、私の目の前を人が床と平行に飛んでいったという事なのだ。


普通では絶対にありえない事。でも確かに起きた事だから何か理由があるのはず。


人が飛んで来た方を見るとまた人が飛んできた。


放物線を描く事なく真っ直ぐに…。


そしてこの不可解な現象を起こした人がだれだか判明した。


桂木さんと一緒に来た男の人が何かを投げた態勢になっていたからだ。


人を投げてできた道をその人は走ってきた。


「よっとぉ!大丈夫か?当たってないよな?」


「当たって無い。」


私がそう言うとその男の人…確か赤井さんは安心したようにため息をついた。


「よかった。もし当たってたら真になにされるかわからないからな。」


そういえばこの人は始めに桂木さんにこてんぱんに踏まれてたわ。


ちなみにこうやって話をしてはいるけど赤井さんは私に背中を向けてたくさんの人の相手をしている。


「一文字さんだったよな。ぅお!危なっ!動けるか?よっと!」


「動ける。」


さっきまで体中にあった恐怖は嘘のようになくなり手足は私の望むように動かす事ができるようになっていた。


「よし。それは助かって危な!動けるなら立ち上がってくれ!」


言われた通りに立ち上がった。体は問題ない。


ただ打たれた頬ところんで擦った膝が痛む程度。


「うりゃ!吹っ飛べ!」


私が立ったのと同時位に赤井さんはまた人を投げた。今度は窓に向かって。


「ひゃあぁぁぁぁ……。」


投げられた人は窓を破って悲鳴をあげながら落ちて行った。


「さぁて、次は誰が鳥になるんだ?」


…少なくとも飛ばずに自由落下してるから鳥にはなってないと思う。


赤井さんを囲んでいた人達が半歩下がった。その気持ちはわかる気がする。人を直線で投げるような人が窓に向かって投げると言っているんだから…。


「来ねぇならこっちから行くぞ!」


赤井さんが一歩踏み出すと相手達は一歩下がった。赤井さんはそんな相手を見てさらに歩を進めた。


そして相手も同じように下がったところで赤井さんは体を反転させて私の方に向かって走ってきた。「逃げるぞ!」


そう言いながら赤井さんは私を抱えた。


「桂木さんが…。」


「いいから!とりあえず安全な所までいくぞ!」


そんな…。桂木さんを置いていくの?私の為にこんな危ない場所まで来てくれたのに…。


それにそもそも逃げると言われても出入り口まではひとがたくさん居て私がいたらとても突破できるとは思えない。


「しっかり捕まってろよ!」


赤井さんは私を抱えたままさっき人が飛んでいった窓に足をかけた。


…窓に足?冗談でしょ?


そう思った瞬間私の体を浮遊感が襲った。


「!!!!」


私は腕に力を入れて赤井さんに抱きついた。


「ぐぇっ!」


浮遊感は一瞬。すぐに重量を感じる事が出来た。しかも着地の際にさっき飛んでいった人を踏んだらしい。らしいっていうのは私の足が地面に付いてないから。赤井さんに抱えられて尚且つ抱きついているから。


「へぇ。悲鳴をあげないなんて大した度胸だな。」


赤井さんの言う通り悲鳴は上げなかったけどけして度胸があるわけじゃない。ただ驚き過ぎて声が出なかっただけ。


「さて、非常に嬉しい状況で言いたくないんだけどそろそろ手を離してもらえるか?」


「えっ?あ……。」


私はすぐに手を離した。言われて気付いたけど赤井さんに抱きついたままだった…。


手を離した私はその場に座り込んだ。緊張が切れたのと、さっき飛び降りたのもあとて私は見事なまでに腰を抜かしていた。


「大丈夫…じゃなさそうだな。こんな状況で悪いけどここで待っててくれ。」


赤井さんは私に背中を向けて入り口の方を見ていた。


「待って。一つ聞かせて。」


「ん?電話番号とアドレスなら喜んで教えるぞ?」


「違う。そんなのじゃない。」


「そんなのって……。」


端から見てわかるようにガッカリしてる。…ちょっと言葉間違えたかしら?


「さっき言ってた『偽物』について。」


「あぁ、その事か。『偽物』ってのは『本物』じゃないって事だ。」


「じゃあ、アナタ達が?」


「想像通り。真が『本物』だよ。俺も『赤鬼』なんてよびゃりょ!」


…………………。


話をしていた赤井さんがいきなり飛んでいった。


「はぁ…はぁ…。幸、大丈夫?」


「桜…。」


どうやら赤井さんを攻撃したのは私の目の前で息をきらせているこの人物のようだ。


「あんた!私の友達に手をだしたら承知しないよ!」


桜は飛んでいった赤井さんと私の間に立ってそう言った。


当の赤井さんは蹴られた脇腹が痛いらしく脇腹を抑えながら悶え転げてる。


「あ、桜…。」


「幸、大丈夫だった。なにも変な事されなかった?」


「あ、うん。」


って違う。ちゃんと桜に説明しないと…。


「くぉぉぉぉ…。そ、その子は友達か…?」


少し痛みがひいたようで転がるのを止めた赤井さんが体を起こして口を開いた。


「そうよ!それ以上近寄ってみなさい!もう一発いくわよ!」


「もう一発くらうのは勘弁して欲しいな。」


脇腹を抑えたまま立ち上がる赤井さん。不意打ち気味に桜の攻撃を受けたのにこんなにすぐに立ち上がれるなんて…。


「ここでもう一発喰らうと足手まといになっちまうから行くとするかな。」


「戻るの?」


「ん?ああ。あいつなら大丈夫だろうけどな。サボってると何言われるかわかんないしな。」


この人はあの敵だらけの中に戻るんだ。


あれ…?それじゃあ…


「なんでわざわざ外に?」


「あいつが怒ったからかな?」


またわからない事が…。怒る理由がわからない。あと、答えになってない。


「お嬢さんはアイツのダチなんだろ?アイツはダチを傷付けられて黙ってられるヤツじゃないからな。」


傷………?ひょっとして振り払われた時に殴られたこと?


私は相手の手が当たった頬に自分の手を当てた。


「幸、傷ってなによ?ってよりこの人は連れてった仲間じゃないの?」


「傷っていうほどじゃない。」


そういえば桜の誤解をといてない…。でもそれよりもこっちの方が大事ね。


「桂木さんが怒ったから外に?」


「ああ。真はあんた達に怒った時の自分を見られたくないみたいだからな。」


「真って怒るとそんなにヤバいの?」


桜、いい質問。私も聞こうと思ってた。


「おお、ヤバいぞ。あの名前がピッタリ…いや、可愛らしいくらいにな。」


あの名前って『金色夜叉』?それが可愛らしいって相当な気がする。


「さて、そろそろ俺は戻るぞ。真のダチに傷付けたのは許せねえし。…それに俺達の名前語って悪事働くなんざぁな。」


そう言い残して赤井さんはボーリング場の入り口に向かって走っていった。


必然的に残るのは私と桜の訳で…。


「幸!無視しないでよ!アイツは何なのよ!」


「あの人は…。」


私は赤井さんが入って行った入り口をみている。今は人影は無い。だけどあそこから2つの人影が無事に出てくる事を信じてる。


「本物…。中にいる『金色夜叉』の相棒の『赤鬼』よ。」


最近流れてた噂とはかけ離れた2人。





ところでさっきから時々上から人が落ちてくるのは…。


やっぱり桂木さんがやってるのかな?


…彼女は怒らせないようにしよう。

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