案内
「ご挨拶が遅くなりました。私が宝華学園の生徒会長を勤めさせて頂いている冬野 聖【とうの ひじり】と申します。」
ピンと背筋を伸ばして俺を見ながら挨拶をしている人、この人が生徒会長らしい。
手間のかかりそうな長い髪はサラサラしてる。切れ長の目で俺を、生徒会室全体を見ている。
「霞ヶ崎学園から参りました、桂木 真です。よろしくお願いします。」
なんか緊張すんな。変なプレッシャーを感じる。
「桂木さん、宝華学園の全生徒を代表してアナタを歓迎致します。ようこそ、宝華学園へ。」
ニッコリと俺に向かって微笑みかける冬野会長。
「まずは生徒会のメンバーを紹介します。そちらでデッキブラシを持って寝ているのは副会長の水無月 桜【みなづき さくら】さんです。」
俺が踵をぶちこんだのは副会長らしい…。これはヤバいよな〜〜。
後で謝っておこう。
「そしてそちらで箒を持っているのが一文字 幸【いちもんじ ゆき】さん。会計の職をお願いしています。」
こっちの人は会計かよ。よし、謝ろう。目が覚めたらすぐに謝ろう。
「そして桂木さんを案内して来たのが甲野 棗【こうの なつめ】さんです。」
あ、ようやく普通にしている人の紹介だ。甲野さんはペコリと俺に頭を下げてきた。なんか感じのいい娘だな。
「そして次は……。あら?他の方々が居ませんね。」
そうなんですよ。皆さん気付いたらいないんですよ。
「他の方々でしたら面倒事と後々の処理を避けるように逃げましたよ。」
なるほど…って…。
面倒事ってのは俺の事なのかな、やっぱり。
ってか、それ以上に気になる事あるんだよね…
「あの…。」
「はい、なんでしょう?」
鉄壁の微笑みだな。不意打ち気味でも一分も崩れない。
「あの、そちらのお二人は大丈夫なんでしょうか?」
俺は椅子に寝かされている二人を見ながら会長さんに聞いてみた。
「そんなヤワではないので大丈夫ですよ。」
そりゃ生徒会室で暴れてる位だからヤワじゃないとおもうんだけど…
「いえ…自分の履き物が…。」
座った態勢で踵を鳴らすと『ガッガッ』と重い音が聞こえる。
「ブーツなんですよ…。」
甲野さんと会長の目がデッキブラシを離さない副会長さんを瞬時に捉えた。
そうなんですよ。ブラシで弱まったとはいえさ、いいのが顎にはいっちゃったんですよ。
「大丈夫ですよ。副会長は頑丈ですし。」
「そうですね。かねてから『自分は頑丈だ』と言ってましたからね。」
『頑丈』って便利だな。二人ともその二文字で通そうとしてるし。
「では、二人は目を覚ましそうにないので私と甲野さんで桂木さんの案内を致しましょう。」
「そうですね。じゃあメモだけ置いていきましょう。」
甲野さんは近くにあった紙になにかサラサラと書いて机の上に置いた。
『そんな感じです。』
…………。
どんな感じだよ!こんなメモ見て何を理解しろってんだ!
「こんなメモでいいんですか?」
多分、当然の疑問だと思う。目が覚めてこんなメモみたらテンパること請け合いだ。
「予定は伝えてますから十分に伝わります。では、甲野さん、桂木さん、参りましょう。」
席を立ち扉に向かう会長。そんでその後ろに着く甲野さん。…いいのかなぁ…。
結局俺にはどうしようもなく二人の後に続いて生徒会室を出た。
「桂木さん。どこか行きたい所ありますか?」
…ノープランだ。この会長はどうやら案内する順番を決めてなかったらしい。
「遠慮なさらずに行きたい所をおっしゃって下さい。」
遠慮しないでと言われてもな…。
「…じゃあ食堂へ。」
「はい。では食堂に参りましょう。」
そういって歩き始める会長。その後ろを歩く甲野さん。俺は道もまったくわからないからその後ろをくっついていった。
…これが食堂なのか?これが食堂に足を踏み入れた俺が真っ先に思い浮かべた言葉だ。
平然と足を進める会長と甲野さん。
その会長を見る他の人達。ここに居るって事は宝華の生徒なんだよな。やっぱ会長ともなると人気なんだろうな。あきらかに憧れ視線だし。
そして、これが当然です。みたいな感じで居られる会長と甲野さんもまた凄いな。…俺もなんか見られてる気がする。
『誰だ、こいつ?』
的な視線だな。ヤッベェ…視線がチクチク刺さる。
そして、これはどこのレストランだ!食堂なんてレベルじゃねぇぞ!
「桂木さん。こちらどうぞ。」
会長と甲野さんはすでに座って俺を呼んでいる。
「あ、はい…。」
訳もわからず俺は会長達のいるテーブルにいく。…普通、食堂のテーブルは丸テーブルじゃない…。テーブルクロスもかかってない。
しかし驚くのはまだこれからだった。俺が椅子に座ったその瞬間だった。
「いらっしゃいませ。」
………はぁ?なんでウェイターがいるんだ?
「こちらメニューです。」
メニュー…ですか。なんなんだこりゃ…。
「私はダージリンを。」
「私も。」
二人共メニュー見てもないぞ…。すでに見る必要もないんですか…。
二人、いや、三人の目が俺を見てる様な気がする…。気のせいか…?
メニュー…メニュー…っと。
って…こ、これは!
メニューに並んでるのはABCD……。え、英語で書かれてるぞ…。読めなくは無いけど…アイツ等じゃ無理だろうな…。
「おれ……、私はフレンチロースト。」
メニューを閉じてウェイターに渡す。
食堂のはずなのに変に疲れるぞ…。思わず俺とか言っちまったし…。堪えろ。可能な限り猫被るんだ。
「桂木さん。」
「は、はひっ?」
なんだ急に。俺って言ったの聞こえてたのか?
「桂木さんは紅茶は飲まれないのですか?」
はひ?なんでまたそんな質問を…。俺は訳もわからず視線を反らした。右を見ても女の子…左を見ても女の子…。当然、前を見ても女の子…。そして皆の手元にはカップ…。理解した。
「コーヒー飲む人居ないんですか?」
「居ないとまでは言いませんが学生では希少な事は確かです。」
なるほどな。確かに紅茶の種類多かったし。こんだけ種類が多いと自分の好みを探すのも一苦労なんだろうな。
「そういえば桂木さん。この後のご予定は?」
予定?予定って言われてもなぁ…
「荷物を整理する程度です。」
「そうですか。では門限の時刻までに帰れればよろしいですか?」
そうだな…。荷物ったってそんな多くないしな。飯食って少し片付けりゃ大丈夫かな。
「はい。それくらいだったら大丈夫です。」
門限は7時…だったよな。はぁ…門限か…。面倒だな。
「では一息ついたら校内を回りましょう。」
一息ついた後俺は会長と甲野さんに連れられて校内を見て回った。
後ろに人がゾロゾロ着いて来てたけど…。会長さんてメッチャ人気あるんだな…。
んで人気者の会長といるからって俺をジロジロ見ないでもらいたいもんだ。疲れるから…