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記念

「ねえねえ、真。聞きたい事があるんだけど。」


歓迎会から一週間ちょっとたったある日の昼休み。桜、椿、俺の3人で昼飯を食ってる時、桜がいきなり口を開いた。


「俺に聞きたい事?なんなんだよ?」


俺は周りに聞こえない位の声で返事を返した。歓迎会以来より一層周りからの視線が強くなった。やっぱりあまりに歌が下手過ぎたんだろうな。歌わなけりゃよかった。


「真って霞ヶ崎学園の方にずっと住んでるの?」


「あぁ。生まれてからずっと住んでるけど?」


食後のコーヒーを口元に運びながらそう答える。うん、今日もいい香りだな。


「じゃあさ、金色夜叉って知ってる?」


「ブッ!」


あ、危ねえ…。飲んでたら間違いなく毒霧クラスの勢いで吹いてたな。


「その反応じゃ知ってるのね?」


知ってるも何も…なぁ?俺の事だからなぁ…。


「真はその金色夜叉を見たことありまして?」


「まぁ…あるな。」


会話に加わって来た椿に返事を返す。鏡を見りゃいつでも見れるし…。


「話した事は?」


「ない。」


これがもしもあったら俺はブツブツ独り言を言う危ないヤツになっちまうから。


「な、なんで急にそんな話をしだしたんだ?」


冷静になろうとコーヒーを飲む。…あぁ、味がわからない…。


「なんかその金色夜叉と仲間の鬼がこっちに来てるらしいのよ。」


「………ッ!コホッケホッ…。」


コ、コーヒーが気管に入った…。


「ま、真。大丈夫?」


俺は片手を上げて大丈夫ってサインを送る。まぁその間にも咳こんでる訳なんだけど。


それにしても…。俺は現にここに居るからまぁアレだけど…。嵐の馬鹿もこっちに来てるのか?


「私もその話は聞いてますわ。校内でも噂されてますし。」


なんだと?俺はそんな話聞いた事ないぞ。…ってそうか…。こっちに来てから交遊関係があんま広くないもんな。大半の人からは話かけられないし…。俺って嫌われてンかね…。


「そうなのよ。こっちに来てなんか暴れてるらしいのよ。」


待て待て待て待て待てぇい!暴れてる?俺は比較的大人しくしてるぞ!


「かなりの人が被害に逢われてるらしいですわね。」


「そうなのよ。もう噂が流れ出してから1ヶ月くらいになるけど被害は増える一方だってね。」


「いっかげつ…?」


ちょい待ち!俺が来てからまだ一週間くらいなんだけど…。


「名前が出たのは1ヶ月半前。」


「それって夏休み開始位からじゃない。」


「そんな長くなんて信じられませんわ。」


夏休みからだと俺は向こうに居たぞ。しかも両手を怪我してたからそれどころじゃなかったし。


って…おい!


「なんか一人増えてないか?」


「そうかな?」

「そうですか?」

「気のせい。」


上から桜、椿。んで………。やっぱ増えてるじゃねえか!


「あ、幸。」


「こんにちは、一文字さん。」


「こんにちは。」


ん?この人なんか見覚えがあんだよな…。え~っと…


「肘、痛かった。」


あ~~~!そうだそうだ。生徒会の会計の人だ!


「俺だってアンタと桜のせいであんなの曝されたんだからな。」


あの写真のスライドを止められなかったのはさすがに辛かった。そもそもはあんな写真を送ってくるゆ~ちゃんが悪いんだけどな。


「あんなのとは何ですの?」


おうっ!そうだ。ドリル椿はそんときの事知らないんだ。


「何ってこんなの。」


ここで一文字さんは何事も無いように普通に写真を出してきた。


「なっ!」


慌てて写真を隠す俺。そこに伸びる手が一つ。


「あら、まぁ。」


ドリル~~~!なんでそんな咄嗟に手が出るんだよ!


「真ってこんな趣味がありましたのね。」


うぎゃ~~~!よりによって猫セットの写真かよ!


「そんな趣味は無い!それは騙されたんだ!」


そんな変な疑いをかけんじゃねぇ!俺の人間性が疑われるだろ!


「それとアンタ!なんでこんなの持ち歩いてんだよ!」


他の写真をポケットに入れて処分しながら会計の人に詰め寄る。


「楽しそうだから。」


楽しくねえよ!少なくとも俺は超不快な思いしてんだけど!


「椿!それから手を離せ!処分するから!」


「嫌です。処分するくらいなら私が頂きますわ。」


くっ!この!引っ張ってもマジで離さないし!頂かれたくないから処分したいんだよ!


「よかったらまだあるよ?」


だからなんでアンタが写真を持ってんだよ!


「幸、アタシにも何枚か頂戴よ。」


お前も欲しいのか!俺の写真なんか持っててもなんも意味ないだろうが!


「他の皆にもあげようかな?」


他の人なんかより一層欲しがらないぞ!考えてみればわかるだろ。誰も俺に近付かないんだぞ?


「頼むからそんな写真はやめてくれ。普通の写真ならともかく…。」


あぁ、もう!なんで昼休みにこんなに疲れる思いをしなきゃ行けないんだよ!


「普通のならいいの?」


「少なくともこんなのより何十倍マシだ。それ以前に俺の写真なんか何に使うんだよ!」


「記念。」


なんの記念だよ!ホントに意味がわからないんだけど。


「友達記念。」


…………はぁ?友達…記念?


「それは俺とアンタがって事か?」


頭が混乱してきたぞ。煙噴いてショートしそうだ。


「イヤ?」


「別にイヤって訳じゃねえけど…。いいのか?俺ってなんか嫌われてるっぽいぜ?」


なんだか固まる会計の人。たしか一文字さん。ゆっくり動いて桜を見る。無言で頷く桜。今度はドリル椿を見る。同じく無言で頷く椿。


そんなのを見てると3人はいきなり集まって小声で話だした。


(今の本気?)

(これが本当にそう思ってるのよ。)

(私も最初は疑ったのですが…。)


声が小さすぎて何を話してるのか全然聞き取れねえ。なんだかハブにされてる気分だ。しょうがない、いじけながらコーヒーでも飲んでよう…。


若干冷めたコーヒーを飲みながら3人の様子を見る。3人の話は変に盛り上がってるみたいで俺は入る隙間は無いみたいだ。


(真は自分の事を嫌われ者ってホントに思ってるのよ。)

(嘘。)

(本当ですわ。人が近付かないのも逆の理由ですのに。)


なんだか話の内容はよくわからないけど話ながら人の顔をチラチラ見るのはやめて欲しいな~。


その話し合いは昼休みが終わる前まで続いた。


多分、俺は居なくてもよかったんだろうな~。でもさすがに一人だけ帰るのも悪いしな。


話してる3人とそれを見てる俺。こりゃ確実にハブられてるって光景だよな…。マジで落ち込みそうだよ…。


俺が机にのの字を書いてるとどうやら3人の内緒話は終わった様で再び一文字さんが俺を見てきた。片手にはどこから取り出したのか(本当に謎だ)デジカメを持っていた。


「友達記念。」


まぁ、俺としては構わないんだ。こっちでの友達少ないし。短期間とはいえ少しでも仲のいい子欲しいし。


「わかった、わかった。」


一文字さんからカメラを取り片手を思いっきり前に伸ばす。


「私も一緒に入る。」


「私も入りますわ。」


桜と椿も俺の所に寄ってくる。あ~、それは構わないんだけど桜。さりげなく俺の脇腹に肘をぶちこむのはやめてくれ。…飯食った後だし。


「そ、それじゃあ撮るぞ。√4は~。」


「「2。」」


「えっと~…」


パシャ…


撮ったのを確認する…。何故か桜だけ悩んだ表情で指を折りながら数えてる。桜、こんな問題で悩まないでくれ。


「プリントアウトはどうするんだ?」


「生徒会室でする。」


持ってたデジカメを一文字さんに返しながら聞いたらそう答えた。


「ま、まったぁ。撮り直しを…。」


「駄目。」


桜の懇願を一蹴した一文字さんはポケットから何やら一枚の紙を取り出して桜に渡した。


「これも駄目。」


「あ、うぅ…。」


桜が渡された紙を見ながらうめいている。横から覗くと紙には


『¥380

お菓子代として領収します』


そんな風に書いてあった。そりゃお菓子代で領収書は通らないだろ…

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