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歓迎会【6】

「真、シメになんかやってよ。」


唐突に桜にそう言われて俺は目を点にする。あやうく持ってた皿を落とすところだったじゃないか。


「お前は一体何を言い出すんだ?」


「いや~、椿に聞いたら後はこのまま普通に終わるっていうからさ。それじゃつまらないでしょ?」


まぁそれは確かにつまらないかも知れないな。だけどそこでなんで俺なんだ?


「まこっちゃん。お返しは大事だと思うよ。」


お返し?あぁ、わざわざ歓迎会開いてもらってるもんな。そう意味なら俺に声がかかる理由も納得だ。


「やるのはいいとして何をしたらいいんだ?」


俺はこんな時に披露できるような芸は無いぞ。


「なんでもいいんですわよ。軽く歌をうたうとかでも。」


「「歌?」」


椿の言葉に反応したのはゆ~ちゃんと巴。なんで?


「そういえば、真。あれ以降歌ったりした?」


あれ以降ってのは変わってからって事だよな。そういえばなんだかんだカラオケも行ってないな。


「歌ってないな。音楽の授業も選択してないし。こっちでもそんな授業なかったしな。」


そもそも歌うの自体あんま好きじゃないからな。


「ほほぅ…。」


ゆ~ちゃんと巴がお互いの顔を見た後に俺を見てニヤニヤしてる。なんだかスッゲー気になるんだけど。


「じゃあ歌ってきなさいよ。ちゃんと真剣にね。」


そりゃお礼なんだから真剣に歌うけどよ…。知ってるか?俺って音楽の成績悪いんだぜ?1年の時に必修でやった時なんて10段階で3なんだからな。そんな俺の歌なんか相当ヤバいぜ。


「まぁいいや。そんで音はあんのか?アカペラなんかだったら嫌なんだけど。」


「演奏するならピアノがありますわよ。曲を流すのでしたら音響室から流せますわ。」


ピアノなんか俺は弾けないぞ。そりゃお嬢様連中はガキの頃に習い事とかしてんだろうけど俺は遊びに夢中だったからな。


「ピアノは無し。音響室でなんか捜す。んで音響室ってどこだ?」


「舞台の袖から階段を上がった所よ。」


「サンキュー。じゃあ曲を見て来るわ。」


手をヒラヒラ~っと振りながら桜に礼をいい音響室を目指す。さぁて、どんなのがあるんだろうな~。


これであるのが讃美歌だけだったらどうすっかな~。





―・―・―・―・―


「まこっちゃんの歌聞くの久しぶりだな~。」


「これは気合い入れないと。」


私の前で真のお姉さんと友達の天城さんがなんだか気合いを入れてる。


「ねぇ、真って音楽の成績ヤバいの?」


そんな気合いを入れてる天城さんに私は聞いて見た。


「うん。確かに成績はヤバかった気がする。」


へぇ~。なんかあの子ってなんでもこなしてそうだから意外ね。


「そうよ。担任の私が保証するわ。真は確か3だったわよ。他の成績も知りたければ教えるわよ。」


…酔ってるのかな?ワイン4本飲んでるし。じゃなかったらこんなペラペラ言わないよね。個人情報に関しては厳しいはずだし。


それにしても真って音楽の成績良くないんだ。あの子ってなんでもこなしそうな気がするから意外だったわ。


「そういえば、真は模試で凄い成績を取ったと聞きましたわ。本当ですの?」


あ~、それなら私も知ってる。霞ヶ崎学園から届いた資料に書いてあった。確か1位だったね。


「あの時は珍しく真が真面目に勉強してたわね~。クラスも成績いい子が多かったし。私の評価もグンッと上がったのよ。」


この人はこれが素なのかな?…いやいや、酔っ払ってるだけよね。そう言う事にしておこう。


「珍しくって優さん…。あの時は『アンタ達。後悔したくなかったら前回よりも上になりなさい。』って言ったんじゃないですか。」


き、脅迫したの!?この人教師だよね?


「そういえばそんな事言ったかもね~。」


しかも認めたよ!な、なんなんだろう。普通の学校の教師ってみんなこうなの?


「か、会長さん。霞ヶ崎学園ってどんな所なんですか?」


少し話した感じこの会長さんは真面目そうな人ね。この人に聞いた方がちゃんとした事が聞けそうね。


「そうですね…。面白い所ですよ。」


抽象的過ぎ!全く内容が解んないよ!


「そうそう、面白いわよ。体育祭で何回も爆発があったりとか…。」


ば、爆発っ?学校行事で爆発って一体どういう事なの?


「ず、随分と面白い所ですわね。」


椿。これは面白いで済むもんじゃないんだけど…。確かに面白そうではあるけど。




ピーーーガーーー


『あっ、あ、入ってる。』


突然ホールに聞こえた機械的な音と真の声。どうやら準備できたみたいね。


『あ、皆さん。本日は私の為にこのような会を開いて頂きありがとうございます。』


舞台の方を見るとあきらかに男性にしか見えない真がマイクを持っていた。


『私からなにかお返しをしたいと思うのですが何も出来ない若輩ものですので…。それで簡単ながら歌をうたわせて頂きます。』


パチパチパチパチパチパチパチパチッ。


ホールからの拍手に真はペコリと頭を下げる。


『それでは聞いて下さい。』


真はリモコンのスイッチを押した。するとスピーカーから音楽が流れてきた。


「持ってると危ないわよ。」


真のお姉さんがそんな事をボソッと言った。危ない?…よく理解出来ないんだけど。でも真のお姉さんと天城さんは持っていた飲み物をテーブルに置いてた。


「優さん。まこっちゃん本気ですよ。」


「そうね。これ歌おうっていうんだもんね。」


流れ出した曲は私も知ってた。『HIKARI』って歌手の『星』って歌。この歌手はマスコミ、テレビに一切顔を出さない変わった歌手。でもその歌は凄い。そんで難しい。


『煌めく~幾千の輝き~♪』


真はそんな歌をマイク無しで歌い出した。…って、メッチャ上手いんだけど!声量も凄くて多分ホールの端まで十分届いてる。これで成績が3なの?


『願い~を込めて~星空を見上げて~貴方に届くよ~うに~♪』


サビに入って真の声量が更に上がった。そんな真をジッと見てると頬に何か流れた。…うわぁ、涙出てきた。


それ以上に実際に星空が見えて来た様な気がする…。


周りからは微かにカシャンとかカランとか聞こえる。多分持ってたグラスとか落としたんだと思う。


私も落としてるし……。


『届け~私の思い…。貴方へ~~~♪』


な、涙が止まらないんだけど…。ちょっと尋常じゃ無いって…。


曲が終わり真はペコリとお辞儀をして舞台から降りて行った。


そんな真に拍手は送られなかった。皆涙流しちゃってそれどころじゃないからだと思う。


曲が終わって静かになったホール。聞こえるのは皆の小さな泣き声。周りのほとんどがハンカチで目元を抑えてる。唯一無事そうなのは…。


「やっぱり久々に聞くとヤバいわね。迂濶にも上がって来たわ。」


「私もです。この建物自体が音が響くせいかも知れないですね。」


いや、確かにそういう作りだけど…。それはあくまでもスピーカーを使うのを前提だから。あの子は地声だからね。


「いや~、お情けの拍手も無いってのはさすがに落ち込むな。」


周りの人達を見ながら真が戻って来た。いやいや、これは感動のあまり拍手すら出来ないって状況なのよ?


「しかも皆泣いてるしよ…。毎回そうだけど俺の歌ってそんなに酷いのか?」


だから!泣いてるのはアンタがあんな歌をあんな風に歌うからなの!


色々とツッコムべき所はたくさんあるんだけど、今口を開くのは非常に危険なのよ。


大泣きしたいのを堪えるのに精一杯だから…

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