〇獣魔の檻
「本当だ。砦が跡形もなく消えて五重塔があるよ」
「中の気配が探れないピコ」
入口を調べるハルアキだが中から鍵がかかっているようだ。
「どうしようかな。ドーマさんたちが来るのを待った方がいいかな」
「にゃーん」
「カギを開けようかって言ってるピコ」
「できるなら猫の手でも借りたいね」
「にゃーん」
ミケーレが解けて真っ黒な液体のようになり1センチほどの隙間から中に入っていった。
「うわ、なに今の」
「ミケーレは自由に体の形を変えれるの言っていなかったピコ」
「初耳だよ。怪鳥に姿を変えれる黒ヒョウ、いや黒猫ってあとは海を行くロボットがあればあれじゃん」
「なんなのピコ」
「いや独り言だからほっといて。ということは衝撃波で戦うステージかな」
などと言っているうちに内側から扉が開かれミケーレが出てきた。
中は異空間に繋がれていたようで外から見たより大きく広がっていた。樹木が生い茂り森のようになっていた。
ピコーナの髪の毛が逆立ち震えだした。
「父、少なくても十体、何かいるよ、マンティコアかなピコ」
木陰に隠れたハルアキとピコーナ。気配を消した。
別の入り口があるのか誰かがこの空間に入ってきた。
鹿を三頭連れている。ガスターだ。
「さあ、餌の時間だよ」
そういうと猿の顔に虎の胴体に蛇のしっぽの鵺がぞろぞろと現れた。
鵺は鹿に襲い掛かり見る間に骨だけとしていった。
「おや、そこ扉が開いているじゃないか。どうしたんだ」
ガスターがこちらに近づいてきた。
「念のために少し調べるか」
口を大きく開けた。そこから無数の蛾があふれ出した。
ハルトは思わず口を押えた。声が出そうになったからだ。
蛾たちはゆらゆらと飛びまわる。ハルアキの呼吸を嗅ぎ取りハルトの方へ集まっていく。
「そこか。何もじゃ姿を見せい!」
ささがにのくもよきたれい
さうなしに
竜巻
蛾の大軍を竜巻で蹴散らした。
「わらわらのかわいい吸血蛾を何をしてくれおる」
怒りの形相でハルアキに鞭を振るう。一撃で隠れていた木をなぎ倒した。
「お前はハルアキとかいう小僧だな。どうしてここへ来た。迦樓夜叉様の獣魔の檻へ」
「知らないよ、こんなに目立つもの建てるからだよ」
「ピコピコ!」
ピコーナも怒っている。
あっという間に鵺に囲まれてしまった。
「ピコーナ!吹き飛ばせ!」
飛行形態に変化したピコーナが大きく羽ばたくと、鵺たちの陣形が崩れ何体かは後ろに吹き飛ばされた。
「加速」
鵺たちを攻撃する。ふと見ると高速でついてくるミケーレ、じゃれつくように追いかけてくる。
「すごいねミケちゃん、できたら戦いに加わってよ」
ミケーレは鵺たちの目を爪でひっかいて、尻尾を食いちぎっていった。ハルアキの加速が終わってもミケーレは走り続けていた。
「あれが神速のバングルの効果か。すごいねピコーナ」
ピコーナも負けじとドリル回転で鵺を攻撃する。
ハルアキはよける。鞭が地面を叩きつけた。
ガスターは両手に鞭を握っていた。右から左からとハルアキを襲う。
「ねえ、どうして奠胡や迦樓夜叉たちの協力をするの悪いことだよ」
巧みによけながらガスターを説き伏せようとした。
「うるさいぞ小僧、わらわが望むことだ。幸せなやつが憎い」
「それが蛾星さんの望みなの、悲しいよ」
「お前にはわからん!」
さらに加速を続ける鞭での攻撃、すでに見切ったハルアキには無意味だ。天叢雲剣で鞭を真っ二つにする。
ガスターは鞭を投げ捨て、蛾の翼を羽ばたかせて鱗粉攻撃に切り替えてきた。
竜巻
鱗粉を吹き飛ばす。可哀そうだが最後の呪文を決意した。
ガスターは今度は毒霧を吐き始めた。
「毒は僕には効かないよ」
ガスターはそれに紛れて逃げていた。
「逃げちゃったか。ピコーナにミケちゃん帰ろうか」
出口に向かうハルアキたち、扉から盗み見していたツキノワは
「やるね、坊ちゃん」
と言って逃げるように消えていった。
塔の前に立つハルアキ
「ピコーナ、この塔って実体ないんじゃない。入口だけがあるんだろ」
「父、その通りピコ」
ちはやぶるかみのちぎりしほむろあれ
おほけなしものをしたたむれ
火柱
扉を燃やすと塔はかき消えた。
瑠璃村に帰り着くとタウロとミーノがお揃いの棍棒を持って出てくるところだった。
「坊ちゃま、もう戻ってきただか。敵はいただか」
「うん、僕とピコーナとミケーレで倒しちゃったよ」
「その猫も闘ったんだすか?」
「すっごく猫の手以上に役に立ったよ」
笑って答えた。
「ハルアキ、報告してくれ」
ドーマへ今日の出来事を一部始終話をした。
「まだ妖魔になって間がないガスターだけじゃったから良かったが奠胡や迦樓夜叉たちが一緒にいたらどうする。まったくタマモと同じで出たとこ勝負が過ぎるぞ」
「まあ戦い慣れてきたということですよ法師様」
なんだか珍しいがオオガミがハルアキをかばってくれた。
「わかりました」
一応答えた。ドーマが睨んだ気がしたからだ。
「ミーノさん、ピッツア焼いてよ。おなか減っちゃった」
「おらも頼むだミーノ」
肩を組んで村へと入っていった。
カナカナカナとヒグラシが鳴いていた。