〇村長のお願い
「また腕上げただなミーノ」
「この村も温泉と石窯焼きのおかげで栄えてきただ。これもタウロや坊ちゃんのおかげだ。貧乏で出ていった村人も戻ってきただ。ええことだ」
「そうだ、ピッツアにこれも使ってみるといい。琵琶湖のモロコで作ったアンチョビだ。あとで作り方を教えるだでちょびっとつかうがいいだアンチョビとだけに」
「しょっぺえだがコクが出るだな」
タウロとミーノは旧交を温めあっていた。
「アーいいお風呂だった」
「そうにゃにゃ」
タマモとフースーは温泉に浸かり戻ってきていた。すっかり目的を忘れてしまっていた。
「なんか忘れてるにゃ」
「そうよ、謎の塔の調査よ」
「もう終わちゃってるんですけど。フースーさんミケちゃんありがとうございました。すっごく役に立ってくれました」
「にゃあ」
村長がやってきて礼を言っている。
「また、山賊でも住み着いたのか心配をしておりましたが事なきを得てこれで安心です」
ドーマは
「礼ならハルアキに言ってやってください。この子が一人で解決したのです」
「これはこれは、このたびもありがとうございます。村の大恩人です」
頭を下げて手を握る村長に
「困ったことがあったらいつでも導魔坊のみんなを頼ってくださいね」
「それはありがたい、お甘えして一つお願いをしてよろしいでしょうか」
「なんですか」
「じつはこの村の宗助というもののことなんですが」
「おらからいうだ」
ミーノが代わってしゃべりだした。
「おらのところで宗助は働いてるだが、昔、金に困って娘を売ってしまっただ。祇園の白拍子になっちまただ。ホシという名の娘だ」
「そのホシという子をどうするの?」
「金もたまったで、身請けしたいと言っているだ。ちょっと宗助を呼んでくるだ」
ミーノは厨房へと入っていった。
「ほれ、宗助、このお坊ちゃまにホシのことお願いするだ」
大人しそうな小柄の男を連れてきた。
「かみさんも去年死んじまって、身内はホシだけとなりました。ミーノさんのおかげで何とか金もたまりました。身勝手な親ですがどうぞよろしく願います」
お金の入った巾着をハルアキに手渡した。
「ドーマさん、どうしよう」
「受け取って都に戻り、願いをかなえてあげなさい」
「はい、清盛さんについていってもらって話をします。で宗助さんどこへ行けばいいんですか」
「祇園一の茶屋で蛾星という名で働いております。よろしく願います」
ハルアキは驚いた。なんて頭を下げる宗助さんに言えばいいのだろう。ドーマを見た。
ドーマは頷いて
「ハルアキが何とかしますので頭を上げてください」
何か手立てでもあるのかすんなりと依頼を受けてしまった。ハルアキはまだ戸惑っている。
「ミーノに宗助どん、大船に乗った気持ちで待ってくんろ。坊ちゃんが何とかしてくれるだ」
タウロも安請け合いしてしまった。
ハルアキは宗助と少し話をしてホシとの思い出話などを聞いた。
そして一行は導魔坊へと帰路に就いた。浮かない顔のハルアキと共に。
「ガスタ―それは本当か、わしの大切に育てた鵺がハルアキにやられたとは」
「申し訳ありません。なぜか獣魔の檻に入ってきまして、なすすべもありませんでした」
「迦樓夜叉よ、あまりわしのかわいいガスターを怒らんでやってくれ、鵺はわしが合体獣魔にして再生してやるから」
ガスターをかばう奠胡だが、ガスターは礼も言わない。
「そうじゃ、バグベアの魔石も使ってもっと多くの獣をつぎ込んでやるかひっひっひ、それはそうと槌熊はまだ帰らんのか、ガスターを紹介することができんではないか」
槌熊はすでにガスターの闘う姿を二度も見ているのだった。
導魔坊へ帰りつくとハルトはドーマに真意を聞いてみた。
「ホシさんはガスターになってしまったんでしょう。どう宗助さんに説明するの」
解決策をドーマは考えてのことだろうと思って尋ねた。
「ガスタを退治すればそれでよい」
「そんな、宗助さんがどんな思いで待っているかわからないの」
「よく聞けハルアキ、ガスタであってガスターではない」
「どういうこと??? !そうか憑依しているガスタの部分を退治すれば元に戻るんですね」
「そうは簡単にはいかぬだろうが、あとはホシという子の思い次第じゃ。この世にとどまる気持ちがあるかどうかじゃ」
この世を憎んでいたガスターの気持ちをハルアキは目の当たりにしている。
「わかった、祇王さんとか大黒屋さんに詳しく蛾星のことを聞いてきます」
勢いよく飛び出していった。
「まったく、どんどんタマモに似てきたな」
ドーマは独り言をつぶやいた。
「ただいま」
ハルアキは帰るとすぐにお風呂へ行った。
季節がら行水でもいいのだろうが、一日一回暑いお風呂に入ることが日課だった。
何かつかんだのであろうかスッキリとした顔をしていた。
そして厨房を覗いた。
「なんかエスニックな香りがするねタウロ」
「料理の最初に辛いものがいいかとトムヤンクンを作ってみただ。あとはソーメンと茄子の煮びたしだ」
「へえ、タイ料理か。たしかトムが煮るで、ヤムが混ぜるでクンは海老だね」
「そうなだすか。料理名とレシピは知ってたが意味までは知らなかっただ」
「ソーメンと茄子の煮びたしか、ちょっとさっぱりし過ぎかな」
「エビがまだあるだで天ぷらでもつけるだか」
「いいね、それじゃ食堂で待ってるよ」
そそくさと戻って行くハルアキ
「珍しいだな。つまみ食いしていかなかっただ」
最近は食事の時にドーマも食堂で一緒にいることが多くなった。最初は距離を取るようにハルアキといることは講義の時だけだったのだがどういった風の吹き回しだろう。
「ねえ、ドーマちゃん、茜と葵、最近見ないけどどうして」
オオガミがタマモに答えた。
「あの二人は法師様の魔力が必要なんだ。今は補給中だ」
「なんだかスマホの充電みたいだね」
「スマホ、ハルちゃんなあに」
「いや、聞かなかったことにして僕の表現方法だよ」
トムヤムクンをすすった。
「このスープ食欲出るわね。暑くてバテ気味なんだよね」
タマモは団扇であおぎながら食事をしている。
「ビールばっかり呑んでるからだよ」
「でも美味しいんだにゃ」
フースーも暑さに弱いらしい。
「ねえハルちゃん海水浴へいかない。ドーマちゃんいいでしょ」
ドーマにしがみつくタマモであった。
僕も気晴らしが欲しかった。
「オオガミ師匠、お願いお休みください」
「いいだろう、今回のご褒美だ。夏休みして来い」
「やったー!ピコーナで飛んでいこう」
「フースーちゃんは私の水着貸してあげるからね」
「やったにゃ」
「さあどこに行こうかな」
「北の海へ行ってみたいな」
「よし決まり」
ずっずとソーメンを流し込んだ。
明日は日本海だ。鼻腔に磯の香りを感じるハルアキであった。




