●平安への旅
「モモちゃん、明日から休みでいいんだよね」
楽屋に帰ったタマモがモモを揺さぶっている。
「言いにくいんだけど明日も演奏しなくちゃいけなくなったの」
モモはにやにやと笑いながら言った。
「ええーモモの嘘つき、早くユートガルトに帰りたいのに」
「それはすぐにできるのよ。明日の公演はQくんが作った飛行船の除幕式でそのまま私たちはそれに乗ってユートガルトに行くのよ」
「ほんとそれ、確か一日でユートガルトまで飛んでいけちゃうんだよね。じゃあ明日の夜はユートガルトじゃん」
飛び跳ねて喜んでいる。
「打ち上げに行くよ。しばらくここのビールも呑めなくなるから、思う存分騒ごうぜ」
モモはバンドメンバーたちといつもの店に向かうのであった。
ユートガルトの国旗が描かれた飛行船を前にQがため息をついていた。
「なんとか完成したけどまだ謎の部分が多いんだよな。このフックみたいなものは何のためにあるんだろう?操縦席から動かせるんだけど肝心の引っ掛けるものがここにはないんだけど」
「もう心配性なんだから、すごいよQくん、ちゃんと完成しているじゃない」
「そうよ、明日は除幕式、がんばったね。ご褒美」
キクナとミズナが両頬にキスをした。赤くなるQ
「お休み、徹夜の連続でくたくただよ」
Qは逃げるように帰っていった。
ブラスバンド演奏の中、花火が何発も打ちあがる。大勢の人たちが飛行場へ集まっていた。
ステージはモモタマのメンバーがスタンバイしている。
マイクの前にQが緊張して立っている。就航のあいさつを任されたからだ。嫌がるQをみんなで説得してその役となった。
「えーあのぉこの飛行船の制作主任のクエンティンです。この飛行船の客船部の全長は200メートル、70名まで乗船可能です。その名もドーマハルト号です。ここからユートガルトまで6時間で飛行可能です。皆さんの旅行の手助けをします」
大きな拍手が沸き起こった。そしてモモタマの演奏が始まった。
演奏が終わると後ろの観客たちから悲鳴が上がった。
血走った眼をしたシレノスが立っていた。
「浮かれよっておのれら、このシレノスさまが思い知らせてやる!」
杖を地面に突き立てると魔法陣から大きなからくりの兵士が出現した。
「こいつと一体になれば誰もかなわないとテンコ様がおっしゃっておられておったのじゃ」
背中に飛び乗ったシレノスがからくりに溶けていった。
「みんなを非難させてタマモ、私たちはやつを止める」
モモは周りの中隊兵士たちとマシン・シレノスに挑んでいった。
シレノスが言うように確かに強かった。モモたちは防戦一歩だ。傷一つ付けられないまま進行を許した。ドーマハルト号が危ない。
「みんな、こちらへ退いて」
Qが拳銃を構えている。
「Qくんそんなに小さな銃で何をするの」
タマモが聞くが返事をしない。
着ていた白衣のポケットから取り出した弾丸を先に付けるとシレノスに向かって放った。反動で後ろに吹っ飛ぶQ、ころころと転がった。
弾丸が命中をすると真っ黒な穴が広がりその中心へマシン・シレノスはクシャクシャにつぶれて吸い込まれていった。
「Qくん!すごい、やったね」
タマモは目をまわして座り込むQに駆け寄った。
「いや、テンコの兵器だよこれも、ペンシル弾、重力弾とでもいうのかな。まさかこれほどの威力とはとんでもないものを作ってたんだな」
モモが手を引っ張り上げて
「よくやった。Q、この兵器はまだあるのか」
「いやこの一発だけだ作り方もわからないよ」
「それはよかったあんなものが沢山あったら大変だ。さあこれを持って」
シャンパンの瓶を手渡しされ船に近ずくとそれを船にぶつけた。
「さあ、皆さん乗船してください。間もなく出航です」
飛行船は大空へ吸い込まれていった。観客たちは口をあんぐりと開けそれを見送っていた。
「わあ、すごい街があんなに小っちゃくなてる。本当に飛んでるんだ」
子どものようにはしゃぐタマモが窓に張り付いている。
「Q、なんであんなに都合よくあんな兵器を持ってたの」
モモが聞いた。
「昨日の晩ひらめいたんだよ。この船はあのからくりを運ぶためじゃないのかと、それでその兵器があらわれたときのために忍ばせておいたんだ」
「あなたの用心深さには感心したわ」
ドーマハルト号は順調にユートガルトへと進んでいった。
「おい、ハルト妙なものが飛んでくるぞ」
オオガミが本を読むハルトに報告に来た。
「遂に完成したか。そろそろだと思っていたよ」
「なんだ落ち着いているな。何か知っているのか」
「飛行船だよ。Qに命じてシーモフサルトの兵器を平和利用したんだ。出迎えにいくぞ」
ハルトは人化の呪符を張って飛行船用に用意した着陸所へ向かった。
人々は突然の空からの飛来物におどろきその進行方向へと向かって走り出していた。大勢が着陸所に集っていた。
飛行船は静かに着陸した。タラップが運ばれ、真っ先にタマモが降りてきた。そして、ハルトに気が付き駆け寄って抱き着くが
「何、ハルトじゃない。あんた誰よ」
「わけは話すからいったん城へ帰ろう」
不振がるタマモと城へ帰っていった。
部屋に入るとガラスケースにタマモは飛びついた。
「ねえ、これはどういうこと。小さなハルトがいるじゃない」
ハルトは事情を説明した。もちろん平安時代へ行くことは伏せていた。
「もう、危ないことして、それでいつになったらこのケースから出れるの」
「3、4カ月後だ。順調に再生されている」
「それでこんなに小さいままなの。つり合いがとれないんですけど私と」
「体が治ればそのあとに成長の呪文で元に戻るよ。それともお前を子供の頃に戻してやろうか」
「いやよ。せっかくこんなナイスバディに成長したのにまた振り出しだなんて」
むくれてしまったが機嫌は治ったようだった。
それから数カ月、モモタマは飛行船と帯同してキャンペーンへと全国ツアーに出て行ってしまった。
そして大晦日もシーモフサルトへとカウントダウンフェスへと行っていた。
「オオガミ、平安時代へ今宵向かうぞ」
ハルトは黒髪に烏帽子、白い狩衣姿に葡萄染の平安衣装を着ていた。
「いよいよか、本当にタマモは置いていくんだな」
「ああ、仕方がない。これもお前の言う運命ってやつだ。俺はこれから導魔法師と名乗る。ドーマハルトの名まえは捨てた。茜も葵も心得てくれ」
「法師様、かしこまりました」
そして人知れず城を後にした。
開けて正月、新年をみんなと祝うためタマモは城へ戻ってきた。
ハルトの部屋はガラスケースのハルトもいろいろな荷物ともども消えていた。
「どこにいるのよ!ハルト」
置手紙に気が付くタマモ、葵からの手紙だ。それを読むとタマモは
「よーし、平安時代とやらに追いかけて行ってやるぞ。ハルト逃がさないから」
手紙をしっかり握り立ち尽していた。
ユートガルト篇は終わりを迎えました。
そしてプロローグへと話は続きます。