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●オーディンの馬

 オオガミとハルトの間に()()()()がオオガミの両手を置いた。

「心配するなオオガミ、これも作戦の内だ」

 何とからくりがしゃべりだした。

「お前、ハルトなのか?」

「ああ、そうだ。それはそうとお前の血を俺に飲ませてやってくれないか」

「何を言っているんだ。俺の血は回復の力はあるが狂戦士(バーサーカー)となっちまうぞ」

「かまわない。どうせ目を覚まさない。精神はこの木偶(でく)の中にある」

 オオガミは左手から流れ落ちる血液を倒れているハルトの口に注ぎ込んだ。


しろたえのゆきをあるじす

あながちなり

せめてものこおりもてなす

氷結(ギアッチョ)


 《・》()()()はハルトの体を氷漬けにした。


「念のためにマサカドの首を落としておいてくれ」

 からくりとなったハルトは自分の体を点検しながらオオガミに命じた。

 いわれるがまま、両腕を元に戻すと横たわるマサカドに剣を振り下ろし首をはねた。

 首は切ったはずみで飛び出したかのように見えたが、黒い仮面を落とし自ら宙に浮き何かつぶやくように口を開く。空間に揺らぎができ真っ黒な闇の空間に消えていった。

「あっ」

 ハルトが声を上げた。

「どうしたんだ」

「いや、何でもない見間違えだ」

「ところでお前は本当にハルトなのか?」

「そうだ、こんな姿だが間違いなく俺だ。今も体とは(えにし)の糸でつながっている」

 氷漬けの体をアイテムボックスにしまい。

「ユートガルトに急いで戻るので後のことは頼んだぞ。それとこれ」

 ポイと魔石をオオガミに放った。

「エキドナの石だ。ツキノワに渡してやってくれ」

 と言い捨てハルトは消えていった。

「まったく、みんなにどう説明したらいいんだ」

 頭を抱えたオオガミであった。


 そんなオオガミのところへ、シーモフサルト城の異変にタマモたちアジトのみんながやってきた。いきなり隕石が落ちてくれば国中どこへいてもわかってしまう。

「もう、黙って二人で行っちゃうなんて。ハルトはどこ?」

 きょろきょろとあたりを見回す。

「あのその、先にユートガルトに帰ったんだ」

 しどろもどろの返事をする。こういう嘘は慣れていないオオガミであった。

「えーそんな、何か隠し事してるんじゃないの」

 タマモはじっとオオガミを見つめる。

「何もない、やることがあると行ってしまったんだ俺にもわからん」

「オオガミ司令官、マサカドは倒せたのですか」

 モモが尋ねた。

「そこに倒れている」

 首を落とした屍を顎で指した。

「やりましたね。等々戦争は終わったんですね」

 (キュウ)の顔が明るくなった。涙ぐんでいる。

「しかし困りましたね。ハルト閣下がいらっしゃらないとは戦後処理はいかがいたしましょうか。オオガミ司令官」

 諜報部のミス・ペティが聞いてきたがオオガミは困った顔をしている。

「俺には何もできん。ペティ、お前が計画を練ってやってくれ、まかせたぞ」

 人前に出るのが苦手なオオガミはペティにすべてを押し付け逃げて行ってしまった。

「まったくしょうがない人ね。仕方がないわ、エンドワースの時と同じようにユートガルトの自治区として暫く役人を送り込んで復興計画を立てるようハルナ宰相にご相談しましょう」

 シーモフサルトの戦後復興プログラムが始まったのであった。



 オオガミは茜と葵とともにバーチ漁港めざし船に乗っていた。

「戦争と関係のないのどかな港だな。ツキノワのいる宿はどこだ」

「あっあの子です」

 葵が指さした。浜辺でゴミ拾いしているツキノワがいた。

 オオガミは近づいていき

「ツキノワか、父さんの友達のオオガミだ」

 しゃがんで目線を合わせて話しかけた。

「こんにちは、おじさん何?」

 エキドナの魔石を渡した。

「母さんの形見だ。大事に持っておくんだぞ」

「母さんやっぱり死んじゃったんだ」

 うなだれるツキノワだが涙は流さない。

「お前は父さんに似て強い子だな。いくつだ」

「もうすぐ八歳だ」

「そうかちょうどいい、学校へ通うがいい全寮制だ。ユートガルトの山奥にある入学手続きを済ませておいていやるから宿のおじさんとおばさんに話してくるがいい」

「えっ勉強なんて嫌いだよ」

「頭と体を鍛えて父さんみたいになりたくないのか」

 戸惑いを見せるツキノワの背中を押して


「話してこい」

 宿に戻るツキノワだった。しばらくして宿屋夫婦と共に戻ってきた。

「ツチグマ様のお知り合いの方ですか。ツキノワをよろしく願います」

「よし話はまとまったな。ツキノワついてこい。学校まで送ってやろう」

 オオガミはバーチを後にしたのであった。


 城に戻ったハルトは人化の呪符を使いからくり人形から元のハルトへと偽装していた。

「誰か、このメモの材料を俺の部屋に集めてこい」

 衛兵にメモを渡すと自室にこもってしまった。

 すぐにハルナがドアをノックして部屋に入ってきた。

「ハルトさん、伝令で報告を聞きましたが戦争を終わらせたんですよね。どうして一人で隠れるように帰ってきているんですか」

 すごい剣幕でハルトにつっかかる。

「ちょっと事情があって先に帰ってきた。シーモフサルトも頼むよ」

「まったく仕事を増やしてくれるわね。これから凱旋パレードや祝勝会とかやることがあるんですからね」

「仕方ない話しておくか」

 氷漬けの自分を出すと人化を解いた姿になった。

 ハルナが気を失ってソファーに座り込んでしまった。


 しばらくして目を覚ましたハルナは

「どういうことか説明してください」

 再び人化したハルトは

「まあ、水でも飲んでくれ」

 コップを渡すと

「マサカドとの戦いで深手を負ってしまいこんな姿になってしまったんだ。まずは俺の体を治療しないといけなかったんだ」

 さすが気丈なアオナは気を取り直していた。

「これでは何も頼めないわね。その仮面を誰かに付けさせてあなたの代わりをしてもらうことにするわ」

「ありがとう助かるよ」

「みんなに隠しておくから、治ったらちゃんと働いてもらいますからね」

 よろよろと部屋を出ていった。


 メモの道具が運び込まれてきた。そしてハルトは自室を改造し始めた。

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