●蜂起
「緊張するな」
顔をパンパンとたたくタマモ。
「いつも通りで明るく行こう」
モモが励ます。
実は一番緊張しているのはハルトであった。
「ハルト顔がこわばってるよ」
メイクの上からでもはっきりわかるほどひきつった顔をしているようだ。タマモが心配そうにのぞき込んできた。そしてほっぺたにキスをした。
「おまじない」
と言ってステージに真っ先に走っていった。腹をくくって次に飛び出す。
大音響の声援、ライブエイドのウェンブリー・スタジアムさながらの光景だ。
ハルトのベースから演奏が始まった。
そしてタマモはギターをかき鳴らし、横にはマイクを持ったモモ、ツインボーカルで歌が始まった。
「なんだかんだ言ってノリノリだなハルトは」
オオガミは舞台袖で見ている。
「ご主人様素敵です」
アルジェ扮する葵もリズムに乗っている。
「茜、やっぱり私たちもセッションに参加しよ」
茜はトランペットを持ち葵にはクラリネットを渡す。
茜と葵も演奏に乱入した。
「俺は俺の仕事、ユートガルト軍に合流するか」
オオガミは会場を後にした。すでに国境近くに進軍は終わっていた。
八曲の演奏が続けざま行われ、いよいよ最後の曲となった。ハルトはマイクを持ち観客に訴えかけた。
「これが最後の曲だ!間もなくユートガルト軍がここへやってくる。シーモフサルトを国民のものへ取り戻すんだ。立ち上がれ民衆よ!」
ハルトがシャウトする。演奏に合わせ観客は立ち上がりそれぞれ出口に置かれた武器を持ち市中に散っていく。
大音響の演奏と共に戦いが始まった。
あちらこちらでシーモフサルトの魔族軍とレジタンス、ユートガルト軍による戦闘が起こっている。優勢なのはレジスタンスたちだ。演奏で高揚して普段より勇敢になり攻撃力も上がっている。
見る間に魔族軍の数が減っていく。
そして最後の軍勢をフェス会場へと追い込んだ。群衆からアンコールの声が上がった。
「よーしアンコールにこたえるぜ!タマモ唄え!!」
最後はソロでタマモが歌った。
汗をほとばらせながら熱唱するタマモ、戦いの終焉だ。
踊るように刀を振り回すオオガミが敵を薙ぎ払っていく。
演奏の終わりとともに歓声が上がる。そして群衆の勝ち鬨かちどきをあげた。
ついにシーモフサルト魔族軍をうち滅ぼした。
再びハルトがマイクを握る。
「シーモフサルトのみんなおめでとう」
マイクを民衆に向ける。歓声をひらう。
「あとは大将マサカドだけだ。俺たちに任せてくれ!」
再び拍手と歓声が上がる。
そしてメンバーはステージを後にした。
バックステージで汗をタオルで拭うハルト、冷たいビールが運ばれてきた。
「みんなよくやった。フェスは大成功だ。カンパーイ!」
瓶のままのビールを飲み干した。
タマモとモモが抱き着いて来た。
「やったー!すごい演奏だったよ」
「サイコー!ハルト、かっこよかった」
モモとタマモが同時に叫んだ。
「二人の歌も最高だったぞ」
二人を抱きかかえる。ハルトもまだ高揚しているようだ。
「さあ、いつもの店で打ち上げだ」
店は入りきれないほどの人だかりで勝利を祝いあった。
「ハルト、明日はいよいよ本当に最後の決戦だね。約束忘れないでよ」
小指を立ててタマモがハルトに言った。
「ああ、これですべてが終わる。俺は次の目標に向かうことができる」
「次の目標?なになに」
しまった。タマモには黙っておくつもりだったのに
「いや旅に出ようと思っているだけだよ」
「やったーどこにいくの」
「遠いところだよ」
「楽しみね」
この旅は俺だけの問題だタマモを巻込むつもりはない。
「そうだな」
針千本だ。
「ハルト、明日は何か手の内はあるのか」
「マサカドのあの鎧は魔法を受け付けないものだ。オワリで見たときに気が付いた。オオガミ、お前の剣だけが頼りだ。鎧をはぎ取れ、あとは俺が倒してやる」
マサカドはオオガミですら一刀両断するほどの剣の使い手だ。二人がかりでも手こずるに違いないが負ける気がしない。
次なる運命が始まる前日であった。